第10話番外編 黄色い花
――これは一人の少女の束の間の追憶。
一人の少女が窓際で頬杖をつきながら椅子に座っている。短めの金髪で八重歯が特徴的な可愛らしい少女だ。何故かは分からないが魔法使いのような格好している。窓の外の景色を眺め、少女は徐に自らの記憶を語り始めた。
――己の心に。
私の生まれ育ったところは、山間のそれはそれは小さな村でした。村のみんなはとても優しい人たちばっかりで争い事なんて全く無縁の本当に平和な村です。村の近くではある時期になると毎年、綺麗な黄色い花が一面に咲いてそれはもう絶景になります。まだ幼かった私は父と母に手を繋がれて見に行ったことをよく覚えてます。今でも、あの時の手の温もりまではっきりと。
私が生まれてから二年後に弟が生まれました。最初は父と母が取られたような気がして寂しくなって、弟のことが大嫌いでしたよ。でも、それから一年もすると何をするにも私の後をついてきては私の真似ばかりして、気付いたら大好きになってました。そんな可愛い弟の姿を私は覚えています。
父はいつも家族のために畑仕事を頑張ってくれる人でした。私は父を手伝おうとして泥塗れになっては、よく怒られたものです。でも、そんな強くて頼もしい大きな父の姿を私は覚えています。
母は綺麗な人で、長い金色の髪をしていました。いつも優しく笑ってくれて、家族のために毎日美味しいご飯を作ってくれます。私は母を手伝おうとして夕飯作りをしていたはずが、よくつまみ食いをしては、おかずを全部食べてしまい、母を困らせていたものです。それでも、母は一度も私を叱りませんでした。そんな温かくて優しい母の姿を私は覚えています。
私たちは家族四人で幸せに暮らしていたんです。ただ家族といられるだけで私は幸せだったんです。
「あの日が来るまでは……ですけど」
そう一言だけ言い残し、少女はぼろぼろのマントを靡かせながら部屋を出た。




