表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/51

4 第一回縞パン会議 「青春は縞パンだ」

縞パン会議は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。会議は踊りますが話は進みません。

 見上げた先にある本当の空は小さくとも、そこにはもう一つの空があった。

 一本の線で構成された青空と、同じく一本の線で構成された雲がある。

 自称アイドル、アリーシャちゃんの青白縞々パンツだ。


 突然異世界に放り込まれるという、かなりのレベルのピンチに陥りながらも、それで荒んだ精神を回復してくれる“青白縞パン”は、やはり偉大な物なのだなぁと僕は思う。

 それと同時に、縞パンはやっぱり“青と白”が正義だよね、と僕は確信する。


 さて、いい機会なので縞々パンツについて少し諸君らと語ろうか。

 第一回、縞パン会議の始まりだ。


 縞々パンツ――それは命題としての“横縞模様がプリントされた女性用パンティ”であることを満たした存在のことを指す。

 注意して欲しいのはあくまで“横縞”であるという点だ。

 縦縞? そんなものを僕は認めない。


 もちろん、その主張はあくまで僕の個人的主観に基づくものであるのだから、縦縞パンツを縞パンの一種に加えたい者がいるのなら、好きにすればいい。

 お前の中ではそうなんだろう、お前の中ではな――まぁ、そういった感じだ。


 さらに注意して欲しいことがもう一つ。

 まずベースは白、ここだけは絶対に譲れない。縦とか横とかの前に、縞パンのベースとなる色は白! これだけは絶対的な第一命題として挙げておきたい。


 だから、どんな縞パンが理想的かっていう議論は、結局のところ横縞模様を形成するための一色をどの色にすればいいのかという事と、その縞の太さのみにフォーカスされるわけだ。

 色、そして太さだ。さあ、議論はシンプルになってきただろ。僕はこの縞パン会議を、無駄に踊らせるつもりは全くない。


 さて、縞の色なんだけど。僕としては青を推したいと思う。

 ピンクも捨てがたいんだけど、やっぱ青系統だよ。だってそこに内在される爽やかさが違うもん。


 パンツ。パンティ。パンチラ……。健康的な男子であれば、少なからずその存在に淫靡な感情を抱いてしまうものだ。

 君もそうだろう。僕だってそうだ。


 しかし、青と白の縞パンは、その劣情を洗い流す唯一の可能性を内包している。

 青と白、それはつまりよく晴れた夏の日の空を思わせる。青春のメタファーとしては、これ以上の存在を僕は知らない。


 青と白=夏の空=青春。

 青白縞パンは、つまるところ青春と置き換えることもできる。

 これで諸君らは、すでに大手を振って「青春は縞パンだ」と主張することができるようになったはずだ。


 ちなみに青系であれば、その色の濃淡はそれほど問題にはならない、と僕は考える。

 濃紺には濃紺の良さがあり、水色には水色の良さがあるのだ。


 さあ、これで第一回縞パン会議は終わりだ。

 この後なにをすればいいのかについては、もう諸君らもご承知おきの通りだと思う。

 各々が、各々のタイミングで声高らかに叫べばいい――縞パン万歳!!!




「……ふふ、ふふふ、アハハハハハハ!」


 縞パンに関する深遠な考察に終止符が打たれ、そして僕は笑った。

 最初は控えめに、そして徐々に力強く、ピアニッシモからフォルテッシモに至るように笑う。


 ヤバい。何がヤバいかって、完全に現実逃避してしまった自分がヤバい。

 縞々パンツ? そんなもん一つで精神が安定するほど僕は上級者じゃないっつの。

 あと縦縞だろうが横縞だろうが、縞々模様だったら縞パンだろ。よくもあんなバカバカしい主張を長々と展開できたものだ。アホかよ僕は!


 ……まぁ、ベースは白。冷静になっても、ここだけは譲れないんだけどね。


「はぁ……」と溜息を吐いた僕に、アイドルの卵である女神が声をかけてきた。


「えっと、大丈夫かな?」


 僕を心底気遣うように、アリーシャちゃんは声をかけてくれた。

 いい娘だ。先程の高笑いの場面だけを切り取れば、たとえ狂人のレッテルを貼られてもしょうがない僕に、彼女は優しい表情を向けてくれている。


「ああ、ゴメン。事態についていけなくて、ちょっと錯乱してただけ。もう大丈夫」


 だから僕は、ありのままの心情を彼女に打ち明けた。


「そっ、そっか。それなら良かった☆ アリーシャちゃん、ちょっと心配しちゃった♪ 異世界からの……というか、この世界を含めても正真正銘のファン第一号が、実はただのヤバい人なんじゃないかって☆」


 あん? ちょっと待て。


「せっかく記念すべき初ライブに、異世界からのお客さんが来てくれたのに、それじゃアリーシャちゃん、あまりにもかわいそう☆ っていうか――」


「――おい。ちょっと待て」


 僕はそう言ってアリーシャのスカートの裾を掴む。

 そしてそれを強引に引っ張って、プカプカ浮かんでいる彼女を地面に引きずり下ろそうとした。


「ぴゃあ☆ ちょっと待って! スカートが脱げちゃうからぁ!」


 アリーシャはそう言って必死にスカートを抑える。

 すでに彼女のそれは、僕に引っ張られて脱げかかっていた。青白縞パンもスカートに巻き込まれて一緒にずり落ちてきている。


「――僕をこの世界に引きずり込んだのはお前か――」


 アリーシャの下着の奥にある秘密のデルタゾーンにも目をくれず、僕は今一番大事な事について彼女を問いただす。

 そうだ、冷静になって思い出せば、コイツはたしか最初にも言っていた。『わざわざ異世界から来てくれるなんて』と。


「ちっ、違うよ~! アリーシャちゃんには、そんな力ないもんっ☆ 神様があなたを連れてきてくれただけだもん! だからスカートから手をはなして~!!」


 なん……だと。

 彼女の言葉に、僕は思わずスカートから手をはなしてしまった。

 するとアリーシャは、とっさに僕から距離をとった場所に移動し、そこで着地する。


「もうっ! アリーシャちゃんはアイドルなんだから、お触り厳禁なんだよっ☆」


 アイドルかぶれの女神様が、遠くでそんなことを叫んでいる。

 しかしそれは左から右に、僕の耳穴の中を通過していくだけだった。


 神様。たしかにアリーシャはそう言った。

 自身も『神樹の女神』であるはずのアリーシャが、そう言ったのだ。

 この世界の人々から女神と崇められるアリーシャ。そのアリーシャが神と呼ぶ存在に対し、僕の興味は天井知らずで上がっていく。


「ちょ、ちょっと待って! ゴメン。いきなり乱暴なマネをしたのは謝る。この通りだ! その、君が言う神様って……」


 僕はそう言いながら土下座する。

 これはこの世界の核心に触れるきっかけだ。それは元の世界に戻るための蜘蛛の糸となるのかもしれない。

 それと引き換えになるかもしれないと思ったら、自分の持つちっぽけなプライドなんてゴミのようなものに思えてくるから不思議だ。


「ちょっと、なになに~? アリーシャちゃんのアイドルレベルが神様級なのは知ってるけどぉ☆ 土下座して崇拝するレベルだなんて、もう❤ アリーシャちゃんてばとうとすぎ♪」


 は? 勘違いするんじゃねぇぞ、このボケ女神が!

 そうは思ったものの、僕はとりあえず土下座を続けたままで質問をぶつけた。


「えっと、スーパーアイドルであるアリーシャちゃんが――」


「え~☆ アリーシャちゃんが超時空シンデレラ・ガールズ48だなんて♪ ちょっとおだてすぎかも❤」


 このボケ女神、さっきから人の言葉をインターセプトしまくりやがって。これじゃあ、話が進まねぇってレベルじゃねーぞ!

 それでも僕は、煮えくりかえるはらわたを必死にふーふー冷まして、質問を続けた。


「その、アリーシャちゃんが“神様”って言う存在について聞かせて欲しいんだけど……」


「ん? 神様~? 神様は神様だよ☆ 三千大千世界の全てを統べる父であり、地を這う者、水底を漂う者、空飛ぶ者の母である存在♪」


 三千大千世界――ようは僕らが考える世界というものは一つではなく、もっと膨大な数の世界が存在するということで――その全てを統括しているのが、アリーシャが言う神様という存在なわけか。

 へー、まじでいたんだ神様、スゲー(棒)。


「で、その神様が、僕をこの場に連れてきたのか?」


「そうだよ~☆ アリーシャちゃんはいっつもお祈りしてたの。いつか私の前に白馬に乗ったファンが来てくれることを♪ そうしたら記念すべきファン第一号が、やっとここに来てくれたの~❤ エヘヘ☆」


「なんで僕が……」


 アリーシャの話はほとんど要領が掴めなかった。

 結局のところ僕の中に浮かぶのは、なんでよりによってこの僕が、あのクソ1stライブ――というか縞パン鑑賞会に呼ばれなくてはならなかったのか? という疑問だけだ。


「だって~、神様が言ってたよ。秋人クンは~『僕はもう、いつでもいけるぜ!』って言ってくれたって❤」


 ……はい? 僕が、いつ?

 あとコイツ、今さらっと僕の名前を呼んだよね。

 ここに来てから、僕は自己紹介すらしてないのに――うん。これはあまり行儀のいいことではないな、反省しよう。人に会ったらまず挨拶。これコミュニケーションの基本ね。


「なんかぁ~、神様はずっとアリーシャちゃんのお願いを叶えるべく、ライブのお客さんを探しててくれたらしいの♪ そしたら~、秋人クンが私達の世界の扉を前にして『いつでもいけるぜ!』って言ってくれたらしいから~、それで連れてきてくれたんだって☆」


 え、なに? いつでもいけるぜって、もしかして僕がパソコンの前で叫んだアレ?

 たしかにあの時、僕は――


 ――「うっし準備完了! さぁ! 僕はもう、いつでもいけるぜ!」

 ――この世界を統べる何者かに対して、僕はそう高らかに宣言した。


 してる。宣言してるよ。神様とやらに向かって宣言してる!

 してる、けれども! 異世界転移まで了承したつもりはないっつの!!


「ちょっと待って、少し話をまとめていい? えっと、僕はその神様に対してライブに『いけるぜ!』と宣言した。それは実は誤解もいいところなんだけど、とにかくそれを聞いた神様が、ここに僕を連れてきた。そんで僕はアリーシャちゃんの1stライブを鑑賞した。……で僕はこの後、家に帰れるの?」


「どうだろう? アリーシャちゃんてば、分かんない☆」


 分かれよ! このクソ女神!

 なんで肝心なところにモザイクかかってんだよ!


「神様は~、十億もの世界を統括してるわけだから、忙しいんだよ♪ だから、アリーシャちゃんのお願いは叶えてくれても、その後のこととかまでは教えてくれないの☆ いちおうファン第一号ってことで、事前に秋人クンの名前とかを教えてくれたことですら、大サービスって感じなの♪」


 あれか、この神様ってやつは、ほぼ一方通行的にお願いされたことを実行するだけの存在なのか?

 願いを叶えるだけ叶えておいて、後のことは知りませんってやつなのか?

 ちょっとそれは困っちゃうんですケド……。


「もう一回だけスーパーアイドルアリーシャちゃんからお願いしてみてくんない? 僕を家に帰らせてあげてって」


 僕は必死に、アリーシャちゃんに向かってお願いをする。

 なんせ決して信心深い方とはいえない僕だ。そんな僕の願いが神様とやらに届くとは到底思えない。

 であれば、一度は願いを聞き入れて貰えたアリーシャちゃんから、もう一度神様にお願いしてもらう方がいいだろう。


「うーん、アリーシャちゃんもけっこう永い間生きてきて、それで初めてお願いを聞いて貰えたくらいだし~☆」


「いや、ほら、僕も2ndライブを盛り上げるためにさ。一旦家に帰って準備しないとね。だから、ほら、試しに、ね。試しで神様にお願いしてみてくださいヨ」


「え~、神様を試しちゃいけないんだよ☆」


 ウゥゥゥゥゥゥウッゼェェェェェ!!!

 けど、ここでそれを言っちゃあ始まらないっ!


「頼むっ! 超銀河系ウルトラスーパーアイドルマスター、アリーシャ様っ!!」


「しょうがないにゃあ❤ じゃあ、お願いしてみるからねっ☆」


 アリーシャちゃんはそう言って目を瞑った。

 よっし! と僕は、心の中でガッツポーズをする。


「ゴメン☆ 無理みたい❤」


 ゲームオーバー早えっ! 初見攻略のコンボイの謎並に早えっ!!


 終わった。終わってしまった。

 これまでで僕に分かったことは、一、神様という人智を超えた存在がたしかにいるということ。二、神様は忙しい、ゆえにお仕事が雑である。たったこれだけ。


 救いようがない。救いようがないほどに絶望的だ。

 神様の誤解……というか雑な仕事によって、勝手に異世界に転移させられた挙句、そこから帰る術すら教えてもらえない。


 僕はがっくりと膝を着いた。

 なんだか涙がこぼれそうだった。いや、こぼれた。鼻水も。


 祈る神すらなくしたこの僕は、これからどうやって絶望に立ち向かっていけばいいのだろう。

 そんなことを思いながら僕は、次第に数を増やす地面の水玉模様を眺めていた――。



次話にて、やっとXXXエックス・エクス・クロスについて語れそうです。

よろしくおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ