2 縞々パンツは青と白にかぎると思う ※イラスト有
「どこ、ここ?」
思わずそんなセリフが口をついて出た。
数瞬前まで自室のパソコン前に座っていたはずの僕。
それが今は、なぜか森の中で一人つっ立っている。
目の前には一本の大樹がそびえ立っていた。
それは樹齢を推し量ることもできないほどの、バカでかい樹だ。
大樹の周りを囲むようにして、無数の光が舞っていた。
その動きは、ホタルが飛びながら光る時のそれにとてもよく似ている。
ただその光の色が、僕が知っているゲンジボタルのそれとは少し違っていた。なにしろその輝きは、様々な色の移り変わりを見せていたのだ。
そして大樹自身も微かに光を放っていた。
神々しさすら感じるそれを、僕はどこかで見たことがある。
既視感とかいうやつを感じるのだ。
しかしさぁ、なんだよ森の中って。
僕はこれから『脱衣神剣の継承者』となって、ヒロインたちのあられもない姿を堪能しようとしてたんだよ。
それなのに……。
「まさかの寝落ちかよっ!? インストールする瞬間に!? ありえねぇ!!」
自分の不甲斐なさに涙しながらも、僕はそう叫んだ。
幻想的な光景を目の前にして、これは夢なんだと決めつけつつ、僕は極めて古典的な方法を使ってそれを確かめてみる。
頬をつねってみるというやつだ。
あれほど楽しみにしていたゲームのオープニングを前にして寝てしまうとは……。
僕は自戒の意味も込めて強く頬をつねる――あれ? 痛い。すっげー痛いよママン。
その時、風が吹いた。少しだけ熱を持った頬を、風が優しく撫でる。
周りを取り囲む樹々や草から、濃密な緑の香りが伝わってきた。
樹々の間をぬって落ちてくる木漏れ日は暖かく、見上げればたしかな眩しさを感じる。
僕は気づく。これは決して夢の中じゃない、と。
目の前に広がる幻想的なこの光景は極めて現実的じゃないけれど、やっぱりこれは現実なのだと認めなければならない。
「ハハ、うそ……だろ?」
僕の中で一つの想像……いや妄想が生まれ、少しずつ形を成していく。
僕は普通の男の子だ。いや、まぁ(元)高校三年生にしては少し夢見がちな方かな、とも思うけれど、基本的には健康的で過度に偏ってはいない普通の考え方をもった少年だろう。
つまり、ある日美少女の姿をした邪教の神々に惚れられたりだとか、同級生が未来人や宇宙人だったりとか、春休みに吸血鬼に襲われたりだとか、空から少女が降ってきたりだとか、そういったことをたまに夢想する――至極普通の男の子、だ。
そんな平凡で一般的な普通の思考を持っているがゆえに、僕は一つの仮説を思いつく。
――もしかしてここって異世界?
「なーんてね! ありえないって、えへへ、へへ、へ…………へ?」
昨今のウェブ小説界隈ではテンプレともいえるシチュエーションを妄想していた僕。
その目の前で、いままで淡く光っていた大樹が、突然その輝きを増した。
そしてホタルのように宙を舞っていた光も、やがてそれが一点に集まり、より輝度を増していく。
目の前で起こる不思議展開についていけない僕は、なかばパニックに追い込まれていた。
「ナニコレ? ヤバイ? ダイジョブ? エ、ヤッパリヤバイ?」
その強い輝きを前に、僕は次第に目を開けていられなくなる。
強烈な光は、僕の本能の根源的な部分を刺激し、恐怖すらを抱かせる。
もうダメだ。目を開けていられない。
僕は恐怖から目を背けたいという一心から、力一杯両目を瞑る。
それでもその凶悪な光芒は、僕の瞼の裏にまで届いてくるようだった。
閉じたはずの視界がまっ白に染まっていく。
あ、これ死んだかも。
僕がそう思った時、頭上から脳天気な声が降ってきた。
「今日はアリーシャちゃんのライブに来てくれて、ほんとにありがと~❤」
は?
「わざわざ異世界から来てくれるなんて、アリーシャちゃん、マジ感謝感激あめあられ☆」
なに? このアナウンス。ウザくない?
そう思いながら、僕は恐る恐る目を開ける。
「お礼に、今日はせーいっぱい歌っちゃうから♪ 最後まで楽しんでいってね、キャハッ☆」
見上げた僕の頭上。そこにはアイドルチックなフリフリドレスのスカートから覗く生足と、青と白の縞々パンツがあった。
僕の瞳は思わずそこに吸い込まれる。
そして、その持ち主であるウザキャラが歌い終わるまでの二時間。
僕は鼻息を荒くしながら、その縞パン“だけ”を見つめ続けるのであった。
セリフのウザさは仕様です。