魔法使いの弟子
グルル。
ギュルルルルルル。
ギュルルルルルルル…
「ぅるっせえな!!!黙ってらんねぇのかてめぇは!!?」
「…別に喋ってません。お腹が鳴ってるだけです」
私が反論すると、彼はまだ何か言いたげにわざとらしく舌打ちをし、再び膝の上の書物に目を落とした。
部屋の隅に置かれたロッキングチェアに腰掛け、もうずっとああして書物を読み漁っている。よく集中力が続くな、と感心こそするものの、もう少しこちらにも配慮してほしいと思う。
そういえば、ここに来てからの三日間、水と乾パンしか口にしていない。
「…あの、お腹が空いたんですが…」
「あ?知るか。パンがあんだろ」
「いや、あれはあくまで乾パンであって、パンとはまた違うのでは…」
すると彼はまた大きく舌打ちをする。視線はずっと下を向いたままだ。面倒だから話しかけるな、と言いたげなのがありありと伝わってくるが、私はそれでもめげない。ここで引いては本当に餓死してしまうかもしれない。
「もしお暇でしたら、街に食料を買いに行くっていうのは…」
そう口にした瞬間、彼はやっとこちらを向いて鋭い目つきで私を睨みつけた。
「弟子の分際でいっちょまえに腹なんか空かすんじゃねえ!!何か食いてえなら森で木の実でも取ってこい!!」
それだけ言い放ち、彼はまた書物に向き直った。弟子だってお腹ぐらい空きます、と言い返したかったが、これ以上話しかけると私の身さえ危ういので、こちらも口をつぐんだ。
しばしの沈黙が流れる。
…グギュルルルルル。
静寂を破ったのはやはり私の腹の音。訴えかける様にちらりと彼の方を見やったが、既に意識は例の書物へ向けられ、こちらの様子など眼中にないようだった。
仕方なく重たい腰を上げ、クモの巣が張り巡らされた薄汚れたキッチンへと恐る恐る足を踏み入れる。キッチンとは名ばかりで、料理用具はおろか、まともな食料さえない。あるのは袋詰された大量の乾パンだけ。乱雑に置かれたいくつかの袋の中から、なるべく形の綺麗なものを一つ取り出す。
一体いつのものなのかも分からないそれを口に放り込んで、わざと彼の前を通って私は家を出た。




