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「えっ、子供にトランシーバーを持たせた?」
「ああ」
道彦、優希、鋼一の三人が驚いたような呆れたような表情を健吾へと向けるが、当の本人は飄々とした態度だった。
「ふっ、あははっ」
唯一、鈴音だけが屈託無い笑い声を響かせる。
「健吾。ぷっ。まさか小学生に斥候やらせたの? ははっ」
「ああ。あいつらに戦場での立ち回り方を教えてやった」
「本格的ね。健吾本気で勝つつもりね」
「こっちのチームは人数が少ないからな。正面からぶつかり合ったら不利なのは明白だ。だから一回の行動も無駄にはできないんだ」
「あの子達に勝たせてやりたい?」
「どうかな。でもまともに戦うには手段が必要だろ。俺がやったのは小さいチームが大きいチームと戦うための手段を教えただけだ」
「そこまで考えてるとはな。流石健吾だぜ」
相手にとって不足なし、と道彦が闘志を燃やした瞳で語る。
「同感だ。ここまでやるとはな。まあ、ある意味予想通りではあるが」
今度は鋼一が敵と定めた相手を見るような鋭い視線を健吾に送る。
「それでも勝つのは私のチームなんだけどね」
優希は自分の勝利を疑うことなく優雅に笑みを浮かべる。
「うんうん。何だかんだ四人とも自分のチームに自信があるわけね」
鈴音が一人頷きながら納得している。
それについては少し違うな、と健吾は心の中で否定する。
別に自信があるわけではない。ただ健吾は自分のチームを勝たせてやりたいと思う以上に楽しませてやりたいと思っているのだ。
楽しんで勝つ、それができればベストだがそこまで望むべくもない。ただし指針として勝つことを前提に動くことは悪いことではない。だからこそ楽しみながら勝利を目指すには何が必要かを健吾は考えた。
それは“上手くいった”を体験させること。
自分達の考えたことが実際に成功すれば、それは少年達に大きな経験値をもたらすだろう。経験値は満足感、充実感に変換され更に次の期待感を発生させる。期待感が次の作戦を上質なものへと高めていく。そして次の作戦も成功させる。それらを何度も繰り返していけば、楽しくて勝つ、が実現できるはずだ。
それを実現する第一歩としてトランシーバーを少年達に持たせることにした。集団戦においての情報共有は重要なファクターとなる。画や音は必ずしも必要ではない。情報を得るだけに特化したシンプルなものこそ相応しい。余分な情報に惑わされずに戦いに集中するために必要なのは“声を聞く”ということだ。相手の声を聞き自分が見たものを伝える、そのシンプルさが何よりも有効である。
しかし予想と結果は異なるものだ。
さて、どうなるものか。