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「決まったわね」

 戦いが終わったあと、大人達は傍観を止め、揃って戦場へと姿を現した。

「ああ。そうだな」

 何だか晴れ晴れしたような顔つきで道彦が告げた。

「ああ悔しい。もうちょっとでサドンデスに持ち込めたのに」

 本当に悔しそうに優希が口にする。

「仕方ない。今回は俺の負けだ」

 クールに鋼一が呟く。

「鋼一の負けじゃなくて健吾の勝ち、でしょ」

「煩いな。分かっている。今回は健吾が勝利した。だが次は負けん」

「はいはい。だけどそれはこっちも同じだ。次は絶対奪われない拠点に仕上げてやる」

「まだこの催しが続けられると決まったわけじゃないでしょ」

「えっ、続けろよ! こんな面白いこと一回で終わらせるなんて勿体無いだろ!」

「そりゃあ私だったそう思うけど、次やるならもっと本格的な城壁にしようとか、さ」

「俺も高みを目指す。とりあえず部隊を鍛えなおすところから始めるか」

 それぞれの問題点を挙げながらワイワイと三人が進んでいく。

そのちょっと後ろで健吾は静かに歩いていた。そして今回の戦いを振り返っていたところで、

「一人きりで歩いて何しているの?」

 優しい笑みを携えながら鈴音が訊いてきた。

鈴音の視線を受け止めながら、健吾は今回の大戦の発端を思い出す。鈴音が居なかったらそもそも今回の会合は有り得なかった。

「ちょっと思い返していたんだ」

「思い返すって何を?」

「今回、どうして鈴音は皆を呼び集めたんだろうってな」

 健吾の問いの後、少し間を空けてから鈴音がポツリと答える。

「私、子供の頃の記憶で一番印象に残って一番新鮮で一番大切な思い出ってここなの」

 鈴音は涼やかな表情で言葉を繋ぐ。

「ここが私にとっての原点で始まりの場所で皆と思い出を作った場所だからいつかまた集まりたいって思ってた。

 でも来年には皆就職するでしょ。私は皆より一歳年下だからまだだけど、でもこうやって就職活動している。大人になりきる前にどうしてもやっておきたかったから決心したの。皆を集めようって」

 思い返してみれば、最初会ったとき鈴音は必要以上に声を張っていた。今思い出してみると、あれは緊張しながらも自分が決意したことを一生懸命やり遂げる幼い頃の鈴音だったのではないだろうか。

ああ、そうか。

鈴音は変わらずに居てくれたんだな。

「ねえ健吾。今回のこと、楽しかった?」

 鈴音は不安そうに尋ねてくる。

その質問に健吾は素直な本心で答えた。

「ああ。最高な時間だったよ」

 飾らない表情と飾らない言葉。

その言葉に鈴音がふっと自然に笑う。

「良かった」

 そうして歩いていると、

「おーい。何してんだよお前ら」

 と道彦の呼び声が聞こえてきた。

見ると、道彦、優希、鋼一が二人が来るのを待っている。

「はーい。今行く。ほら健吾。自分のチームのところへ行ってあげて。皆あなたの声を待っているから」

「ああ」と頷くと健吾は鈴音の横を通り過ぎる。

 そして不意に振り返ると、

「鈴音」

 と呼び掛ける。

「またやろう。今度は龍平も呼んで、俺と鈴音と道彦と優希と鋼一の六人でまた一緒にやろう。何でもいい。六人で大戦してもいい。チームに分かれてもいい。とにかくまた集まって楽しみたい」

 遊び足りない、と健吾が言う。

鈴音は健吾の言葉を聞くと、

「うんっ!」

 と大きく頷いて笑った。

鈴音の笑みを受けて健吾が再び前へ歩き出す。

その表情は少年のように純粋な笑顔だった。

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