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「作戦を伝える。これよりMチームの拠点を使ってKチームの拠点に襲撃を掛ける。この作戦には俺、幸太、勇一郎の三名が参加する。陸と翔の遊撃部隊は、至急、秀一のサポートに向かってくれ」

「合点!」

 悠人の命令に従って陸と翔の二人がすぐさま自分達の拠点へと戻っていく。勿論、二人に連れられて三匹の犬も一緒だ。

さて、と三人がKチームの拠点へ方向転換する。陸と翔の情報からどの方向に拠点があるか掴んでいたため大体の場所は知っている。Kチームの拠点は坂を下ったところに建てられているという。ならば短時間で一気に攻められるという好条件のKチーム拠点に掛けるしかない。

三人は拠点を引っ張りながら下り坂へと向かった。

「幸太。上に乗ってくれ」

 体格の良い勇一郎が幸太を拠点の上へ押し上げる。

「よし、一気に行くぞ!」

 悠人の掛け声と共に三人は下り坂を下っていく。

後七分。

突然、腰に取り付けたトランシーバーが鳴り出す。

「こちら秀一。完全にYチームに囲まれました」

 嫌な報告を聞きながらそれでも三人は坂を下っていく。

「夏子はこっちの状況を完全に知っています。トラップは全て効きません」

「こちら幸太。今、陸と翔が戻っている。踏ん張ってくれ」

「こちら秀一。何とかお願いしま――あっ」

 秀一の不意を突かれたような声が聞こえて三人は怪訝な顔で見合わせる。

そのすぐあと、別の声が聞こえてきた。

「あー。こちら夏子。これで聞こえてるかな? まあいいか。えっと、聞こえる悠ちゃん?」

 聞こえてきたのは少女の声だった。

「今から悠ちゃんの拠点を制圧します。どう悔しい? 今自分が居ないところで自分の拠点が無くなっちゃうのって」

 ケラケラと笑いながら夏子が無慈悲に言葉を繋ぐ。

「せめて拠点が無くなっちゃうところ実況してあげようかなって。これは私の優しさだと思ってね」

「何が優しさだ、あの女!」

 勇一郎が憤慨していたが、今は喋っているときではない。

「よせ、先を急ぐぞ」

 悠人が更に加速するように足を速める。

後五分。

その間も夏子の実況は聞こえてくる。

「はーい。たった今一番最初の網を鋏でカットしちゃいました。時間もないのでこれからどんどん切り裂いちゃいます」

 足を速める。

「今二枚目のカーテン切り終わったよ。残りは後、五枚? ちょっとどれだけ巻いてるのよ!」

 速く、もっと速く。

残り三分。

「面倒だから一気に切り裂いちゃいます。悪く思わないでね」

 速く!

もっと素早く!

「はい。遂に残り一枚。これが切り終われば私達の勝ち」

「畜生、間に合わないか!」

 幸太が苛立たしげに口にする。

その時だった。

「こちら翔。何とか間に合った。これより防衛に入る!」


 ワンッという犬の鳴き声と共に陸と翔が拠点に姿を現す。

「ちょっとちょっと。どうしてこのタイミングで戻ってくるわけ? まあいいわ切っちゃって」

 不機嫌そうに夏子が指示を出す。

その指示よりも速く陸が行動する。

「アレックス、ゴーッ!!」

 そう言ってリードを一本放した。放たれた一匹の犬が拠点を切り開こうとしているYチームの女の子に猛接近していく。犬の勢いに虚を突かれた女の子は役割を放棄して逃げ惑った。

「ちょっと何やってんの。戻りなさい」

 夏子の制止も聞かず女の子は犬との距離を取っていく。ほぼ戦線離脱の状態で女の子は犬に近づくまいとしていた。

「もういいわ。私がやる」

 女の子の行為に呆れて夏子が直々に戦う意志を見せる。

「強敵だね」

 陸と翔はその視線を真っ向から受けてそう口にした。


 残り一分半。

「見えた! あれだ!」

 幸太が高い位置から指を指して懸命に伝える。その方向には確かに拠点らしき建物が見えていた。

「急げ!」

 最後の一押しとばかりに悠人と勇一郎が力を入れて引っ張っていく。そのまま勢いに乗って一気にKチームの拠点へと急接近していく。

拠点を守るKチームの少年と犬がその存在に気付いたが、一体何が向かっているのか理解できないように呆気に取られていた。やがてそれが一直線に特攻していることに気がつくと、巻き込まれないように一目散に逃げ出した。Kチームの拠点内部で番犬をしている犬は外で大きな音が近づくにつれて、ワンッワンッ!と喚き散らしている。その音がもう僅かな距離に近づくまで吼え続けた。

「行くぞ! 突撃ッ!」

 作戦は、いたってシンプル。

内部が入り組んでいる構造の拠点ならば外側から壊してしまえばいい。それだけのことだ。

「ってちょっと待て、俺はどうなる!」Mチームの拠点の上に鎮座していた幸太が自身の危機を察知して叫ぶ。

「耐えろ!」

「いや飛び降りろ!」

 坂道を急加速しながら、

「どっちだああああぁぁぁぁ!!!」

 と叫ぶ声が聞こえた。

そうして最大加速で風に乗ったMチームの拠点がKチームの拠点と衝突した。

グワシャッガチャン、と派手な音を響かせて二つの拠点が崩壊する。

幸太は寸前のところでMチームのフラッグを持って脱出していた。

「急げ!」

 と悠人が走り行く。

「まだ終わっていない! Kチームのフラッグを探せ!」

 悠人に続いて勇一郎と幸太がKチームの拠点の残骸からフラッグを探す。

残り十秒。

九、八、七。

鏡の破片を押し退けて必死に探す。

六、五、四。

三秒。そのとき悠人の右手が手応えのあるものに触れた。それを掴んで掲げる。

二、一。

遠くでパンッというピストル音が響く。大戦の終了を知らせる音。どこからか鈴音が鳴らしていた。

その音と共に勇一郎と幸太が悠人へと近づく。二人は悠人の右腕へと視線を合わせていく。

同じタイミングでトランシーバーが鳴り響いた。

「こちら翔。悠人、応答できる?」

 翔の通信を受けて悠人の代わりに勇一郎が応答する。

「こちら勇一郎。翔、そっちはどうなった?」

「こちら翔。勇一郎、悠人は平気?」

「こちら勇一郎。問題ない。ちょっと固まってるもんで代わりに俺が応える。翔、そっちの状況は……、ああ、いや、まずこっちから報告しよう」

 そう言って再び悠人の右手へと視線を移す。

「Kチームのフラッグ奪取に成功した」

 悠人の右手には風に揺られて一本の赤い旗が握られている。

「作戦は成功した」

 勇一郎の報告の後、入れ替わりで翔が報告する。

「こちらも何とか夏子を取り押さえることに成功した。防衛成功だよ」

 おめでとう、と言った。

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