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ヒカリとカゲの間に  作者: 矢馳あさと
第1章 変わってしまった学校
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第1章その2: 2年B組

 教室はピリピリした雰囲気が漂っていた。みんな教科書やノート、参考書を必死で見返している。まだテストまで1週間あるはずなのに、テスト直前みたいな感じだ。

「おはよ」

 隣の席の由実に声をかけても、ちらっと見られただけで、すぐ視線が外されてしまった。いつもは由実の方からおはようって言ってくれるのに、どういうことなの?

「影木お前、余裕だな」

 前の席の大宮君が振り返ってくれた。

「余裕って?」

「1時間目。数学小テストだろ」

「小テスト?そんなのいつもの事じゃない」

「本気で分かってないのかよ、鬼の元木だぜ?」

 鬼の元木?数学の元木先生は、質問すると丁寧に教えくれる優しい先生だ。小テストだって、純粋な理解度チェックみたいなものだ。みんなの点数が悪ければ、同じところを繰り返して教えてくれる。そんな先生の小テスト、怯える必要なんてない。

「今日は昼まで数学、政経、現文、化学だろ?小テスト祭りじゃん、みんな1時間は前に来て勉強してるのに、ホームルーム直前に来るとか余裕過ぎんだろ」

「1時間前?」

 あり得ない。うちのクラスは進学組だけど、小テストがあるからって1時間も前に来て勉強してるなんてあり得ない。昨日は、私より遅く来る子が何人もいた。それでも見回して見ると、クラス全員が席に着いている。スマホいじったり、雑談していたりする人は誰もいない。深刻な表情で、全員、勉強している。

「嘘、でしょ?」

 大宮君は肩をすくめて、テスト勉強に戻っていった。

 そこで、私は他に喋っている人がいないことに気付いた。迷惑そうな目で由実が私を睨む。本のページをめくる音、シャーペンで書く音。話す人のいない教室は、まるで試験真っ只中みたいに静まり返っていた。


 やってしまった。

 1時間目が終わった瞬間、私は思いっきり机に突っ伏した。

 小テストは最悪だった。解けたのは最初のごく簡単な計算問題数問だけ。それ以降の複雑になっていく思考問題は完全に白紙しかない。部分点を貰えそうな解答の糸口さえ書けなかった。

 しかも、ダメだった小テストだけじゃない。授業も完全に無理だった。教科書はさらっと流されて、ひたすら応用問題を解かされ、解説されたのだ。教科書の内容さえ頭に入ってないうちに、いきなり教科書レベルを遥かに超えた難易度の応用問題の解説が始まったのだ。

 頭が真っ暗のまま、授業が終わってしまった。

 それなのに、他のクラスメイトはみんな普通に授業について行っていたのだ。学年トップを走っている秀才の浅野君と米山さんは私が解答を説明されても全く理解できなかった問題をさらっと解いていた。いつも最低点争いをしている勉強嫌いの沢田さんと綿谷君さえ、問題を解いたりいい質問をして先生に褒められていたりしていたのだ。

 間違いなく、今このクラスで1番できないのは私だ。私だけが、みんなが出来ることができないのだ。

 いっそのこと寝ていた方がマシだったかもしれない。

 そんな事したら怒られるどころか、とんでもない量の課題と反省文を書かされるだろう。それ以上に、その後の授業についていけなくなってしまうのが怖い。また私1人、取り残されるのだ。誰もそんな事しない中で私だけがやってしまって、当たり前の事ができない存在になってしまう。

 当たり前の事ができていないのは今もだ。

 なんで予習してなかったんだろう。どうして復習して、せめて昨日の授業の内容を頭に入れてなかったんだろう。なんでもっと早く学校に来なかったんだろう。もっと頑張れたはずなのに、どうして頑張らなかったんだろう。

 絶望的な気分で数学の教科書を閉じて、はっとした。

 次は、政経。

 社会のシステム、政治と経済の仕組みの理解、それを構成する機関や機能の名前、それらを作り上げた人物と年代の徹底的な暗記。

 何も覚えていない。

 まず基本的な暗記をしていなければ、応用問題を解くなんてできない。

 また、私だけ何も分からずに、授業についていけなくなってしまう。

 時計を見た。2時間目まで、あと6分しかない。

 私はかなりの時間をぼーっとするだけで、無駄にしてしまっていた。

 慌てて教科書を引っ張り出し、昨日の授業範囲を開いた。

 教室は静まり返っていた。

 誰もが、必死で勉強しているのだ。

 それが当たり前なのだから。

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