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ヒカリとカゲの間に  作者: 矢馳あさと
第1章 変わってしまった学校
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第1章その1 大好きなヒカリ

 布団を思いっきり跳ね上げて、飛び起きた。全力疾走した後みたいに、心臓がばくばく跳ねている。

 ピピピピ、ピピピピ、と目覚まし時計のアラームがのんきな音を立てていた。機械的にアラームを止めた。

 私は、自分の部屋のベッドにいた。カーテン越しに、朝日が差している。いつものパジャマだ。泥も、血も、付いていない。一階から、お父さんが行ってくる、と声をかけて玄関を開ける音が聞こえた。

 いつもの朝だ。

 悪夢から、出られた。

 思いっきり息を吐いて、ベッドに倒れ込む。乾いたシーツと、柔らかい布団の感触。どろどろの地面でも、硬い石段でもない。優しい感触を味わいたくて、目を閉じた。ばくばくうるさかった心臓が、段々落ち着いてくる。

 ーーああ、平穏って素晴らしい。

 私はやってくる穏やかな感覚に身を任せようとしたーー

 かちゃ、と部屋のドアが開く音がした。

「アンナ。遅刻するぞ」

 お兄ちゃん。私はもう一度飛び起きた。

「うるさい。勝手に入って来ないでって言ってるじゃない」

 1歳年上の兄は壁に寄りかかるようにして立っていた。顔色は、真っ青。ここ1年くらい病気がちの兄は、最近学校に行かないで病院通いばかりしている。そんなに悪いなら、入院でもすればいいのに。私から見えないところにいてほしい。

「出てって。着替える」

 お兄ちゃんは軽く頭を動かして、ドアを閉めた。頷いたつもりだったのかもしれない。分かりずらいったらない。引きずるような足音が去っていく。ほんと、調子悪いなら寝ててほしい。

 パジャマを脱いで、制服を出す。せっかくだから、夏服を着た。今は冬服から夏服への移行期間だ。白くて軽い夏服の生地は、今朝の悪夢をとは対照的で明るい気分にしてくれる。

 一階に下りると、お母さんはもう外出用の格好だった。大方、お兄ちゃんの病院の予約が早い時間なんだろう。

「おはよう、アンナ。今日はお兄ちゃんの病院が早い時間だから、さっさと食べて頂戴」

 大当たり。私は冷蔵庫から牛乳を取り出して、シリアルにかけた。お兄ちゃんと一緒のお粥なんて食べたくない。

「アンナ、お返事は?」

「はいはい」

 お望み通り急いで食べてるんだから、話しかけないでほしい。シリアルをほとんど流し込んで、お皿とスプーンを漬け置き用の水槽に放り込む。

 顔を洗って、日焼け止めと言う名のファンデを塗って、髪を整えて、朝はやることが多いのに時間が足りない。最後にお気に入りの練り香水を手首にばれない程度に塗って、支度完了。カバンをつかんで飛び出す。


 駅で定期を引っ張り出していると、後ろから抱き付かれた。健康的な色の腕だ。

「おはよう、アナ!」

「ヒカリ!」

 見なくたって分かる。私のことをアナって呼ぶのはヒカリだけ。しかも、とってもかわいい笑顔で。振り返ると、やっぱり花が咲いたような笑顔のヒカリがいた。大きな瞳に、活発に動くショートヘア。これでバスケ部のホープで勉強もできるんだから、この世界は不公平だ。でもそんな不満を跳ね除けて余りあるくらい、素敵な笑顔の持ち主だ。かわいいは正義。

 ヒカリと私の母同士が友達で、ヒカリと私は本当に生まれたばかりの頃から一緒にいた。最高の親友だ。

「ほら、遅刻するよっ」

「あ、ヤバいヤバい!」

 抱き付いているヒカリを引き剥がして、改札に走る。改札に着いてもヒカリは定期を探してもたもたしていた。私はヒカリのカバンの外ポケットに手を入れた。ヒカリの定期入れの感触。

「はい!もう入学して2ヶ月も経つんだから、覚えてよね!」

「さっすがアナさま〜」

 これだから、もう。

 ヒカリはちょっと危なっかしいところがある。満員電車で腕を組んでないとはぐれて、降りられなくなりそうなレベルで。

 私は、ヒカリより1ヶ月お姉さんだ。しかも、私は3月生まれで、ヒカリは4月生まれ。私の方が、学年も1つ上なのだ。私は大体ヒカリの行動は分かるし、ヒカリだって私の行動が分かって甘えてる。私のいないところでは、ヒカリはバスケ部の頼れるホープなんだから。

「そういえばヒカリ、今日は朝練ないの?」

「アナぁ、今週はテスト前だぜ〜」

 げ。そうだった。実力テストとかいう謎の試験があるんだった。試験勉強はしてるけど、今朝の悪夢で忘れていたというか何というか。2年生になると受験が見えてくるから、テストもその結果の評価もシビアになってきている。

「もう、定期テストだけでいいのに、なんでこんなにテストばっかあるのかな」

「ね〜。部活休みになるし止めてほしいよ」

「部活ねぇ。ヒカリだって進学するんでしょ?部活ばっかりで大丈夫なの?」

「あたしは1年だしいいの!今頑張らなきゃ上手くならないじゃん!」

「ふーん?」

「帰宅部のアナねーさんにはど〜せ分かりませんよ〜だ」

「何よ、もう勉強教えてあげないわよ?」

「メイト兄に聞くからいいもん!」

ーー何それ。なんでここでお兄ちゃんの名前が出てくるの。一緒にいるのは私なのに。

「……。」

「え。そんな怒んないでよ」

「怒ってません」

「怒ってるよ!ごめんて、1番はアナなんだから」

1番ねぇ。その言葉は私がすごく欲しい言葉だ。家族は病気のお兄ちゃん中心に回っていて、私は誰かの1番になれている感じがない。ヒカリったら、それが分かって言ってるのだろうか。そうであっても、そうでなくても、ほだされてやるか。

「仕方ない、許してあげよう」

「わ〜いアナさま大好き!」

いつもなら抱き付いて来るところだけど、流石に満員電車の中では無理らしい。でももう降りる駅だ。ヒカリの腕をつかんで電車から降りる。

「ごめんね、ちょっとイヤな夢見たんだ」

「またあの夢?」

「……うん」

「大丈夫大丈夫!ただの夢なんだから気にしちゃダメだよ」

「……ん、ありがと」

2人で話していれば、通学なんて一瞬だ。1人で単語帳見てるより、あっという間。門を通って校舎に入ったら、もうお別れ。教室は、学年ごとに違う階にある。

「じゃあまたね」

「うん!またお昼ね〜」

 ヒカリと別れて、私は教室に向かった。


 ヒカリと朝会えた、ちょっと嬉しいいつもの日常だったのだ。

 その時までは。

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