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ヒカリとカゲの間に  作者: 矢馳あさと
第4章 光の女王
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第4章その2: 光の女王

 石段を登りきると、大きな扉があった。

 王城に入ると、立ち込めていた霧は消えていった。

 光の王城は、白くて明かるいことを除けば、影の王城と同じだった。細長い広間になっていて、中央には白い絨毯が敷かれている。両側には、甲冑。甲冑の隙間から、光が漏れていて、甲冑自体が斬新なカタチの照明みたいだった。

 香澄先輩は入り口の側で立ち止まってしまった。……まぁ、ここまで来ればどうすればいいかは判る。あたしは絨毯の上を進んでいった。

 白い玉座には、白い人影。

 王冠をかぶって、杖を持っている。やっぱり白いドレスをまとったその人は、あたしの知ってる人だった。

「叔母さん!?」

 それを聞いて、その人は笑った。

「まぁ、ヒカリったら」

 ほほほ、なんて。叔母さんはそんな笑い方しない。

 よく見れば、叔母さんじゃない。叔母さんより小柄だし、少し老けてる。髪も真っ白。

「誰……?」

「初めましてね、妾はあなたの曽祖叔母」

「そうそ……?」

「ひいおじいさんの、妹という意味よ」

 ひいおじいちゃんの妹?ひいおじいちゃんは一昨年亡くなったばっかりだけど、妹とか言われてもピンとこない。ひいおじいちゃん家の仏壇の写真を思い出そうとしたけど、出てこない。これだけ叔母さんと似てるし、親戚らしいことは確かかもしれない。

「そして、この国の女王」

 王冠かぶって玉座に座ってるんだし、そうだろう。

 ……身内なら、都合がいい。

「初めまして。いきなりだけど、助けてほしいの。友達が捕まってる」

「詳しく話してくれる?」

 よし。

「ここに似てる、影の王城で、メイト兄さんに似てる人がいて、その人が影を使ってアナを捕まえた。あたしは城の外に放り出された」

「アナというのは影木アンナさん?」

「そう。メイト兄さんは王になりたいんだって。アナが持ってるコインを欲しがって、アナを捕まえたの」

「コインは、王冠と杖の?」

 ……確かそう言ってた気がする。あたしは頷いた。

「そう」

 女王の視線があたしから外れた。何かを考えてるみたい。表情が叔母さんそっくりだ。

「……王冠と王笏が、見つかってしまったの。……それを、影木の娘が持っている」

「その通り。だから、アナを助けたいの」

「その娘は、即位したいのかしら」

 即位?

「あたしたち、こんな世界今日初めて来たばっかだよ。王様だとか何だとか、知ったこっちゃない」

「彼女は、即位しないのね?」

「しないでしょ。あんな国の王様なんかになりたいのはメイお兄ちゃんだけ。あたしたちはこんな世界に興味ないし、帰りたい。即位とかどうでもいいの。助けてくれるの?」

「……分かりました。ですが、光の国と影の国は相互に不可侵。どちらかの国民が境界をまたぐ事はできません」

「じゃあどうすればいいの!?」

「ヒカリ、こちらへ」

 女王はゆっくりと立ち上がった。あたしは階を上って、玉座の前に立った。

「貴女にこれを貸しましょう」

 女王は持っていた杖を掲げた。

「これは、光の王笏。この光の国の、王権を象徴するもの。これを持っていれば、私の代理として光の力を使えるようになります」

 杖じゃなくて、笏。王権の象徴。アナが見つけたコインはこれに関係するんだろうか。

「影の国の代替わりは妾が許しません。あの小僧の傲慢を諌め、友を救うのです」

 女王の力が、王笏に込められていくのがあたしにも判った。その力は空気を伝わって、あたしの中の何かを揺らした。

 やがて、揺れが収まった。光が消え始めると、女王は王笏を差し出した。

 あたしは王笏を受け取った。熱い。王笏はあたしの手の中でほのかに光っていたけど、その光はやがて消えた。

「さぁ、行きなさい」

 あたしは女王陛下の命令に従った。



 謁見の間を出ると、香澄先輩が待っていた。あたしの顔を見ると黙って微笑んで、歩き出す。とりあえず付いていけばいいのかな。

 外は相変わらずすごい霧で、石段を降りて振り返っても、王城はほとんど見えなくなっていた。下手すると、香澄先輩さえ見失いそうだ。

「先輩、ここはいつもこうなんですか?こんなんじゃ、生活できなくなくないですか?」

「あたしは最近来たばかりなんだけど……昔は、こんなんじゃなかったらしいわ」

「なんでこんなことになっちゃったんですか?」

「女王陛下がこうしたのよ」

「女王が?なんででしょう?」

「……さぁ。隠したかったんじゃない」

 香澄先輩はそれきり口を閉ざしてしまった。話しかけずらい雰囲気になってしまった。仕方なく黙っていると、香澄先輩は立ち止まった。

「これでいいわ」

 何もない。って思ったけど、よく見ると白い木が生えていた。香澄先輩と一緒に手を回しても抱えきれなさそうな大木だけど、葉っぱは見えない。あたしジャージのままだけど、別に寒くないってことは冬じゃない。枯れてるんだろうか。

「この木に向かって、その王笏を掲げて祈るの。王笏の力なら、影の国に通じるわ」

「い、祈るんですか?」

 どうやって。

「信じて、念じるの。大丈夫、ヒカリちゃんならできる」

 ええい。

 女王陛下みたいに、王笏を掲げた。

 目を閉じて念じる。

 ーー影の国へ。

 何も起こらないかと思った。

 でもそんなことはなくて、少しずつ王笏が揺れているのに気付いた。女王陛下が王笏に力を込めた時に感じた揺れだ。

 段々王笏が熱くなる。熱くて持ってられなくなりそうだ。

 手を離そうとした瞬間、まぶたの裏が赤く見えた。王笏が光ったんだ。光はすぐに消えて、視界は暗闇に戻る。ずっと真っ白な世界にいたせいか、暗闇が惜しくて向いてるか目を開けたくなかった。

「おめでとう、ヒカリちゃん。さすが王族ね」

 香澄先輩に声を掛けられて、あたしは目を開けた。

 目の前の木に、大きなうろが開いていた。真っ白な世界なのに、うろの奥は暗くて、光が当たってない。

「……あたし、王族なんですか?」

「そうでなきゃ、光の国と影の国を繋ぐなんてできないわ。さ、閉まる前に速く行って」

 あたしはうろの中に踏み込んだ。入り口は狭かったけど、中は思いの外広い。木の中、じゃないんだろうなぁ。背後で入り口がきしむ音が聞こえた。入り口が閉じていく。

「ねぇ!」

 叫ぶような香澄先輩の声が聞こえて振り返る。入り口は白く輝いて、向こう側にいるはずの香澄先輩の姿は見えない。

「向こうに行ったらメイトに伝えて!みんなで戻ろうって!」

 みんなで、戻る?

「メイトも、あたしも、花鶏先生も、みんなで戻ろうって!」

 聞き返す前に、点のようになっていた入り口は見えなくなってしまった。

 そういえば、香澄先輩とメイトお兄ちゃんは同じ学年だっけ。知り合いのはずだけど、みんなで戻ろうって?

 香澄先輩も花鶏先生も、こっちの住人じゃないってこと?

 考えてるうちに、何かに引っ張られてることに気付いた。

 引っ張られてる、っていうか落ちてる?

 王笏を握りしめた。だからって何になるわけじゃない。

 滑り台を滑ってるみたいに、落ちていく。……不思議と、恐怖感はなかった。

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