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ヒカリとカゲの間に  作者: 矢馳あさと
第4章 光の女王
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第4章その1: 光の世界

 扉を開けた先は、白かった。

 霧が立ち込めていて、遠くが見えない。霧が光を乱反射させていて、かなり眩しい。

 足元の地面は、白い。チョークみたいな、硬くて粉っぽい地面が続いているようだ。砂の1粒1粒が光を反射させてて、見てると地面までチカチカしてくる。

 近くに大きな建物はなさそうだけど、視界が真っ白でよく分かんない、ってのが正解だ。

 正直言って、長居したくない感じ。薄暗かったけど影の世界の方がいくらかマシかも、なんて思ってしまった。

 いや、そんなことない。どっちの世界もゴメンだ。早く帰りたい。アナと一緒に帰るんだ。

「おい、どうした!?」

 すぐ近くで声がして、心臓が跳ねた。

「『扉』だ!『扉』が開いたんだ!」

 しまった、誰かいる。しかも、1人じゃない。

「侵入者だと!?」

「馬鹿な!」

 まずい。

 あたしは走ろうとした。

「捕らえろ!」

 前に人影。

 足を止めて、振り返る。後ろにも!

 右。左。

 一瞬迷ったうちに、腕がつかまれた。思い切り腕を振ろうとしたけど、びくともしない。前の人影が近くにいて、つかまれた腕とは肩をつかまれる。指が食い込むんじゃないかって位の力で握り締められる。

「捕まえたぞ!」

 あまりの痛さに、蹴り上げる余裕がなかった。

 ガチャン、と音がして、後ろ手に手枷か何かがはめられる感触があった。

 ……終わった、かも。


 あたしは運ばれていた。

 手枷は付けられたまま、白っぽい金属の檻の中だ。荷台が檻になってる馬車みたいなもので、どこかに輸送されているようだった。とりあえず、花鶏先生よりかなり安全運転してくれてるらしくて、檻の中だけど軽く揺れてるだけだをそこだけは良い。

 相変わらずの霧だけど、建物や人影が見えて、街の中みたいだった。

 霧が濃くて、少し助かったかも。

 人影は人影で、顔の判別が付かない。それなら、こっちの顔も見えてないわけで。捕まったところなんて、見られたくない。

「……はぁ」

 なんでこうなったの?

 どこで間違えたの?

 影の世界は全然人いなかったのに。何が違うの?

 花鶏先生、こっちならなんとかなるみたいな事言ってたじゃん。

 てかあれほんとに花鶏先生だった?最初敬語だったじゃん。なんで気付かなかったの?でも、さっき捕まった人たちと違って完全に手加減してくれてたし、味方のはず。

 それから、あの人はメイト兄さんだったの?体弱くて静かなイメージしかなかったけど、あんな人だったっけ?

 そもそも影の世界とか王様とかって何?

 あの学校は何だったの?

 ……できることがないってツライ。

 体は動けないのに、頭だけはぐるぐる回って、悪い想像ばっかりになってく。

 ……メイト兄さんが言ってたのって、こんな感じなのかな。

 病院と家の往復だけで、何もできない世界って。

 ……ここから出られるなら、確かに影の世界でも天国に見えるかもね。

 そんな事を考えてると、揺れが止まった。

 檻の入り口から離れられるだけ離れたところに移動する。いつでも飛び出せるるように、片膝をついた姿勢で足に力を込めた。

 人影が近付いてくる。3人。両端の2人はパンツで、真ん中の人はスカート。右側は体格からして男っぽいけど、左はよく分からない。

 左の人が檻の鍵を開ける。ガニ股でしゃがむ仕草。男の人か。

 となると、真ん中を突き飛ばして逃げるのが一番簡単だ。スカートなら女の人だろうし、体格もそんなに変わらない。

 その真ん中の人が檻に入ってくる。

 男2人は檻の入り口の側に残る。ああもう、離れてくれないと出られない。

「もう、衛兵ったら乱暴なんだから!」

 ちょっと待って。

 この声、聞いたことある。

 人影が近付いてきて、顔が見えた。

「ごめんね、ヒカリちゃん。今みんなピリピリしてて」

「香澄先輩!!」

 体から力が抜けて、両膝が落ちる。

 香澄先輩は貴族みたいなドレス姿だった。真っ白で、ウエディングドレスみたい。そんな服装で優しく笑ってくれるから、天使みたいに見えた。

「待ってね、今外すから」

 金属音が鳴って、手首を圧迫していた感触が消えた。自由になった手首を前に回して見たら、こすれて赤くなっていた。擦り傷になってるところもある。

 手首を回してみる。

 固められていた方向から動いて、血が正しく流れていく感じ。指先が少し痺れた。

「大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 問題ない。

 あたしはまだ動ける。

 アナを助けるんだから。

「そう。……それじゃ、行きましょ」

 香澄先輩は立ち上がって、檻から出て行く。

 あたしも付いていく。檻から出ても、香澄先輩に付いてきた2人が襲ってくることはなかった。その2人は、見たことない人だ。

 香澄先輩は構わずどんどん進んでいく。少し走って、香澄先輩に追い付いた。男2人は付いてこない。

「先輩、どこ行くんですか?」

 カツン。

 そう言ったちょうどその時、足元の感触が変わった。ザラザラした粉っぽい感触から、磨かれた石みたいな、平らで硬い感触。

「見えない?」

 少し笑いながら、香澄先輩が言った。

 周りを見渡した。霧がかってる上に眩しすぎるけど、目の前に何か大きな建物があるのが判った。足元は、つるつるに磨かれた石段だ。なんか、どっかで見たことある感じ。

「……お城?」

 色は真っ白だけど、石段の感じとか、アナと一緒に行った影の王城にそっくりだった。影の王城よりは、人がいて手入れされてる感じだけど。

「そう。……光の王城にようこそ、お姫様」

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