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ようこそ、新入部員! -03-

 最高だ! と思った。

 まさに個人主張と無干渉の塊が顧問なのだ。

 あの手の『でもしか教師』紛いが顧問するクラブがまともに機能しているはずがない。どうかすると、活動破綻している可能性も望める――無生産な馴れ合いクラブだ。

 だったら簡単。いつもやっているように、室内の空気になれば良いだけなのだ。

 私はるんるん気分で資料室に足を向けた――と言っても、その感情を顔にはおくびにも出さない。

 ところで教室の空気になる方法を教授しよう。それは大方が休憩時間の場合だ。

 まずトイレには必ず行く。(約5分)

 席では本を読んだり(ただし漫画は厳禁。貸し出しを強要される場合がある)、勉強したりを、血の通った無表情でやる。

 振られた話題には、場にふさわしい表情で適切な返事をする。しかしその際、話を広げるのではない。訊かれたことのにだけ答える。相手側が質問攻めをしてきそうになったら「ちょっと分からない」とか、「ごめん、これ終わらせないとやばいんだ」と、(あらかじ)め用意しておいた市販の参考書を指差せば良い。

 これで大抵の休み時間はやり過ごせる。

 昼休みなんか、昼食が終われば図書室か校内の散歩でもすればあっという間だ。

 そして、最後に決してやってはいけないこと――。

 机で寝たり、独り言をしてはならない!

 あらぬ噂の素になってしまう可能性が大なのだ。

 そんなことを考えているうちに資料室に着いた。

 私は一旦ドアの前で立ち止まり、にやけていた顔を落ち着かせる。

 一斉入部日の今日は、部員全員が集まっているだろうし、体験入部でここに来たのは五時以降だった。初見の人がいるかもしれない。迂闊(うかつ)に笑顔で顔合わせしたりしたら大変なことになる。

 人は最初の印象で相手の人格を決定づけてしまうモノだ。

 それこそ、笑顔での初見というのは、『善人』『おおらか』『弱者』『つけ入り易い』『軽んじても大丈夫』といったキャラクター構築をされてしまうのだ。くわばらくわばら……。

 これは小学六年間で得た私の知的財産であり、誰にも侵害しようのない代物だ。

 その上での結論。

 初対面の人には手つかずのキャンバスのような真顔で対応すべし!

 今後の傾向を見て、その環境に溶け込む人格を後から自分で造るのが望ましい。

 私はドアを開けようと手を伸ばし――。

「ぎゃははあはあはあっははっはははあはっはぁあはははっはっはははは!!!!」

 ドアの向こう側からとは思えない大音声に耳を貫かれた。

 なに今の?

 今のが昨日体験入部した、手折られた一輪花みたく活気のない文芸部から漏れ出た談笑なのか?

 そんなわけないだろうに――私には確信があった。

 なぜなら複数体の声だったうえに、はなはだ外聞の悪い響きだったのだ。笑い声の端々のニュアンスにも性格の粗雑さが見え隠れしている。

 話の内容は判然としないが、今しも下卑(げび)た単語が飛び交っていた。

 明らかに(やから)、不良と謂われる連中が(たむろ)してるっぽい。

 これは……どうやら補足調査が必要だな。

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