ようこそ、新入部員! -02-
攻めに転じた春と、受けに身構える冬のささめきが廊下にまで垂れてきている所為か、職員室前の廊下は生徒の黄色い声で忙しくご陽気だ。
それに同調できない私は、歩幅の狭さが億劫に思えて仕方がない。耳を引っ掻いてくる生徒の賑やかしが、吸い込まれるように職員室に入っていく。
私は入部届を再確認した。昨日までにすべての文化系のクラブを体験入部して、その中でも個人主張と無干渉をなによりのモットーしていそうだった文芸部に、一縷の望みをたくすことにしていた。
職員室を覗くと足の踏み場もないほど混み合っている。押合い圧し合いは嫌いだ。私は人が引くまで待った。
木製タイル貼りの廊下を静々と行ったり来たりする。うっかりすると上履きで擦って「キュッ」と鳴ってしまうのだ――忌々しい仮漆め。
――三十分後。
常態に戻ったらしい職員室は、ダレた空気が垂れ込めて、あちこちでニコチンの狼煙が上がっていた。
ダレた顔をしている教師達のうち一人をつかまえて、文芸部の顧問を尋ねた。その教師は、声を掛けるまで私の存在に気がつかなかったようだ。「うおっ!」と小さく驚いた後、面倒臭そうに粘性の増した煙を吐き出して、窓際席で揺れているぱっつん頭を指差した。
私は軽く会釈してから、窓際のぱっつん頭を目指した。そこには、厭に萎れた風貌の男性教師が、数独ドリルを前に机にかじりついていた。
振り向かれた流れで入部願いを告げると、こっちの名前も訊かないまま、すでに他のが数枚重ねられているファイルラックへ、手渡した入部届を小手先で放り込まれる。
「四階、図書室の隣の資料室――知ってるな?」
つっけんどんにそれだけ言って、顧問は投げていたシャーペンをつまみ上げた。
視界の端に他の教師の冷ややかな目線を感じる。
どうやら、これがこの人の常態らしい……♪
「はい、それでは失礼します」
私は嬉しくなって、思わず声が弾んだ。
麗らかに響いた声音がよほど意外だったのか、目の前の顧問と共に周囲の呆気に取られた目がこちらに集まる。
私はすっと、優等生然とした一礼を顧問に贈り。笑みをこぼれ落として職員室を後にした。