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ようこそ、新入部員! -17-

 カイトの目力めじからに圧倒され、私は一瞬で頭が真っ白になった。

 その瞬く間に、カイトはいつもの人を喰った澄まし顔に戻る。

「いいぜ、値引き交渉に移れよ。でも、流石に(ロハ)には出来ない。双方に利益が発生しないとつまらないからな」

「じゃあ、千円」

 自分でも元値から考えてみて低すぎると思った。でも、色を失った思考はおいそれと持ち直してくれず、私は単純に一桁引くくらいしかできかったのだ。

 そんな私の言い値にたいして、カイトはなんとも素っ気無く了承した。それこそ、「消しゴムかして」「いいよ」低度のレスポンスで。

 呆気に取られている私を尻目に、カイトはポケットから一枚のプリント用紙を引き抜く。

「これに部活の説明と注意事項が書いてある。よく読んどけよ」

 四つ折りになっているそれを開いてみると、大して細かくない字で十行余りの文章が印字されていた。

「それと、そこには載ってないけど、この部には特有の会話方法がある」

 だんだん頭が冴えてきた私は、私にとっては当たり前な疑問を持った。

 部活内で会話する必要なんてあるのか? 

 それに会話の方法があるなら、話し相手がいるという事だ。

 だとしたら何人ぐらいいるんだろうか?

「なんですか、それ?」

「部室の奥に置いてあるノートで、チャットみたいなやり取りしてるんだ」

「それって、必要なんですか?」

「どんな部活にも遊び心は必要だろ?」

「何人くらいいるんです?」

「お前を入れて7人。今んところは」

 つまり、私を懐柔できてたら月々6万円手に入って旨々(うまうま)だったって事か――さぞかし買い物幅が広がったろうに。

 私がけちくさい金勘定に精を出していると、

「よし、もう帰れ、今すぐ帰れ、さあ帰れ」

 カイトが背中でも押してきそうな勢いで捲し立ててきた。

 なんの脈絡も無い物言い。まったく訳が分からない。おちょくってんのか?

 しかし、カイトは真剣な目をこちらに向けていた。さらに赤みを増した陽射しに半身を翳らせて、西からの風を気にしてるのか鬢(びん:もみあげの上あたりにある髪)を押えている。

「な、なんですか? 急に――」

「今なら出歯亀どもに会わなくて済む。さっさと帰れ。俺はもうちょっと涼んどく」

 手で払うように言われてさらに腹立たしくなる。だが、カイトの鬼気迫る雰囲気に押されてしまった私は、素直に屋上の扉に足を向けた。

 校内に入って扉を閉める間際、気になって様子を窺った。カイトが難しい顔をして何か呟いているのが見えたが、すぐに背中を向けられてしまう。

 でも、その表情と相まって唇が読めた。

 〝誰だ、こいつ?〟

 そう言っていた。

 その言葉の意味は分からなかったが、初めてカイトの悠然とした態度が崩れているのを見た。何が彼をそうさせたんだろう? 

 釈然としない気持ちを抱えて4階に下りると同時にチャイムが鳴り響いた。

 時間はいつの間にか午後4時になっていた。

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