ようこそ、新入部員! -15-
視聴覚準備室を出てからというもの、私は口をきけなかった
「ここならしゃべっても大丈夫だ」
カイトの後に続いて頑強そうな鉄製の扉をくぐる。
屋上に出ると、肌寒い風に髪を颯と掻き分けられた。その拍子に強張っていた肩がすとんと下がり、反対に私の視線は上がった。
フェンスの向こうには灰色の街並みがどこまでも続いていて、地球の丸みに逸ってわずかに曲線を描いているように見えた。
西日が目に痛いくらいだったけど、今はそれが清々しい。
〝屋上〟という場所の持つ不思議な空気に包まれて、私は思わず溜め息をもらした――しかし、グラウンドで五月蝿くしている運動部の掛け声がいささか邪魔だ。
熱が引いていく心地良さを感じながら、私は陽に翳るつんつん髪の後頭部に声を掛けた。
「なんで屋上だけ合い鍵がないんですか?」
「ここだけはちょっと別でよ。人が出入りするために造られてないんだ。鍵の古すぎて廃番になってっから、合い鍵が造んのが面倒だった」
言いながらカイトは、先ほどピッキングに使った数本の鍵師道具を手元で弄んでいる。
「それで、この学校の状況が証拠として、あなたの部には私にどんな利点があるんですか?」
「生徒達が一番成長する瞬間がどこにあるか知ってるか?」
また質問で返された。
いい加減に……笑えてくる。
「知りませんよ」
思った以上に明るい声を出している自分に驚く。
さっき現実離れした真実を突き付けられて――というか、これまで培ってきた学校への信頼を瓦解された私は、かえって晴れやかな気分になっているのかもしれない。
赤みがさし始めた空に目をやると、カラスが2羽並んで飛んでいる。
はぁ、人心地のつく景色だ。
こんな気持ちになったのはひさしぶりだなぁ。
この前は確か――、初めて級友を作ろうして下手に話しかけた結果、ネタにされて笑われて、同級生の器の矮小さを目の当たりにさせられた時だったっけ……。
まあ、私にしか分からない気持ちだろうけど……。
「――――って、おい、聞いてんのか?」
「訊いてないことを聞く必要なんてあるんですか?」
私が茶化すように言ってやると、カイトはさらに茶化すように返してくる。
「まぁ聞けって、生徒が一番成長する瞬間の話だよ」
「そんなに言いたいんだなら、ご勝手に」
「なんだよその言い方? まるで俺が聞いて欲しいってせがんでるみたいじゃないか」
いや……、せがんでるじゃない。
でも、それを言ったらカイトは臍を曲げるだろうと思った。それでは話が進展しない。
私はあえてカイトに合わせてあげることにした。
「う~ん……、生徒が成長する瞬間……、そんなの考えたことも無いです」
顎に手をそえて、考えている風に目を細める――これではもう私の線眼は閉じたも同じだ。
「それじゃ、もう一度説明するからな」
私の態度には場にふさわしいそれらしさがあったらしく、カイトはまた上機嫌で囀り始めた。