表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/29

ようこそ、新入部員! -15-

 視聴覚準備室を出てからというもの、私は口をきけなかった

「ここならしゃべっても大丈夫だ」

 カイトの後に続いて頑強そうな鉄製の扉をくぐる。

 屋上に出ると、肌寒い風に髪を(さっ)と掻き分けられた。その拍子に強張っていた肩がすとんと下がり、反対に私の視線は上がった。

 フェンスの向こうには灰色の街並みがどこまでも続いていて、地球の丸みに逸ってわずかに曲線を描いているように見えた。

 西日が目に痛いくらいだったけど、今はそれが清々しい。

 〝屋上〟という場所の持つ不思議な空気に包まれて、私は思わず溜め息をもらした――しかし、グラウンドで五月蝿くしている運動部の掛け声がいささか邪魔だ。

 熱が引いていく心地良さを感じながら、私は陽に翳るつんつん髪の後頭部に声を掛けた。

「なんで屋上だけ合い鍵がないんですか?」

「ここだけはちょっと別でよ。人が出入りするために造られてないんだ。鍵の古すぎて廃番になってっから、合い鍵が造んのが面倒だった」

 言いながらカイトは、先ほどピッキングに使った数本の鍵師道具(キーピック)を手元で(もてあそ)んでいる。

「それで、この学校の状況が証拠として、あなたの部には私にどんな利点があるんですか?」

「生徒達が一番成長する瞬間がどこにあるか知ってるか?」

 また質問で返された。

 いい加減に……笑えてくる。

「知りませんよ」

 思った以上に明るい声を出している自分に驚く。

 さっき現実離れした真実を突き付けられて――というか、これまでつちかってきた学校への信頼を瓦解がかいされた私は、かえって晴れやかな気分になっているのかもしれない。

 赤みがさし始めた空に目をやると、カラスが2羽並んで飛んでいる。

 はぁ、人心地のつく景色だ。

 こんな気持ちになったのはひさしぶりだなぁ。

 この前は確か――、初めて級友を作ろうして下手に話しかけた結果、ネタにされて笑われて、同級生の器の矮小(わいしょう)さを目の当たりにさせられた時だったっけ……。

 まあ、私にしか分からない気持ちだろうけど……。

「――――って、おい、聞いてんのか?」

「訊いてないことを聞く必要なんてあるんですか?」

 私が茶化すように言ってやると、カイトはさらに茶化すように返してくる。

「まぁ聞けって、生徒が一番成長する瞬間の話だよ」

「そんなに言いたいんだなら、ご勝手に」

「なんだよその言い方? まるで俺が聞いて欲しいってせがんでるみたいじゃないか」

 いや……、せがんでるじゃない。

 でも、それを言ったらカイトは臍を曲げるだろうと思った。それでは話が進展しない。

 私はあえてカイトに合わせてあげることにした。

「う~ん……、生徒が成長する瞬間……、そんなの考えたことも無いです」

 顎に手をそえて、考えている風に目を細める――これではもう私の線眼は閉じたも同じだ。

「それじゃ、もう一度説明するからな」

 私の態度には場にふさわしいそれらしさがあったらしく、カイトはまた上機嫌で囀り始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ