ようこそ、新入部員! -12-
消音のための板張りの床は古く、部屋中には湿った酸っぱいにおいが充満していた。ミキサー台の前には引かれたカーテンがあり、そこを開ければ窓越しに視聴覚室が見えるはずだ。
「カーテンには触るなよ。バレるぞ」
私の考えに先回りしたカイトに行動を制される。
「バレる?」
――誰に?
と思ったが、耳を澄ますとカーテンの向こうから話し声が聞こえてきた。窓越しでもあるので聞き取りにくいが教職員達の声だ。
「今、向こう側じゃあ会議中なんだよ」
目付役が近くにいると分かって、知らず背筋が伸びる思いがして身が引き締まる。バレたところで大した事は無いだろうが、ばつが悪い状況になるのは確かだ。
私はなんでこんな所にいる!?
じりじり表情を曇らせる私の目の前で、カイトが意味不明な行動に出た――ミキサーのスイッチを点けていじりだしたのだ。
「何やってるんですか?」私は小さな声で非難した。
「向こうの音をこっちのスピーカーに入力している」
そう言ってカイトは置いてあった古めかしいヘッドホンのプラグを『out put』と書かれているジャック部に差し込んだ。
つんつん頭にヘッドホンを被り、ミキサーのボタンを押す。すると、ミキサーに取りつけてあるボリュームメーターの針がぷんと跳ねた。
カイトは音量らしきつまみをいじってから、
「ほら」
ヘッドホンを手渡してきた。
「なんですか?」
「証拠」
言葉をケチった受け答えだ。もうちょっと押広げて答えられないのか。
「職員会議が?」
「いいから聞いてみろ――」
訝りつつも、ヘッドホンを片方の耳にあてがう。
カイトはもう片方の耳に、こんな言葉を聞かせてきた。
「ぶっ飛び……だぜ」
私はカイトを一瞥してから、ヘッドホンから聞こえてくる声に意識を集中させた。