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ようこそ、新入部員! -11-

 そして放課後――。


 屋上の扉の前に行くと、カイトが昨日と同じ場所に座って手を振ってきた。

「ぃよう。早いな」

 私は出来るだけ離れていようと壁に背をつける。

「それで、証拠っていうのはどこですか?」

「焦んな、もうちょっと待て」

 カイトが腕時計に目を落とす。真新しいGショックだ――まあ、お金持ちですこと……。

 次に、ポケットから分不相応なスマートフォンを取り出し、アプリを開いてゲームをやり始めた。

 所在ない私はそのまま十五分ほど待たされた。

 不意に、なんの前触れもなくカイトが立ち上がった。

「よし、行くぞ」

「あの、どこに?」

「いいから、ついて来い」

 私に発言権はないようだ。

 三階まで下りて誰もいない廊下に出る。放課後の廊下に生徒や教師がいないのが基本の学校とは言え、突然出くわすことはままある。私はついつい、エサを求めて巣穴から出てきた鼠みたいに周囲を気にしながらカイトの後をついて行った。

 そんな私の目の前で、カイトは太々しく足音を響かせている。

 その背中は、〝気にすんなって、なんとでもなる〟と余裕(よゆう)しゃくしゃくに言っているようで……。

 昨日私にした忠告をこいつは自分で破っていた。

 なんとなく腹に据えかねる思いだ。

 いや、無闇に腹が立ってきた。

 いいや、とてつもなく腹が煮えくり返ってきた。

 いっそ、大股で歩いて高らかに足音を響かせながら大声で歌でも歌ってやろうか!

 瞬く間に風紀員が駆けつけてきて、この見るからなる狼藉者を引っ立ててくれるかも知れない

 よし、そうしよう……。

 私は大きく膝を持ち上げた。

「ここだ――って、なんて歩き方してんだよ?」

 いきなり振り向いたカイトに「アホか」という目を向けられる。

「パンツ見えるぞ」

 『ぞ』のところで、つんつん頭を振り下ろして中を覗き込もうとしてきた。

 あとでよっぽど蹴り上げてやればよかったと私は後悔した。

 でも、その時は思わず両手でスカートを押さえ付けてしまった。

 そんな私を見て、カイトはまたぞろ牙を剥くように笑う。

「ふ~ん」

 私は眉を顰めた。

「なんです?」

「いやぁ、裕生もわりと女の子だなって思ってただけぇ」

「下の名前で呼ばないでくれませんか?」

 本気で不快だ。

 カイトはニヤリと笑う。

「イ・ヤ・ダ」

 ……本気で不快だ。

「それより、ほら、ここだよ」

 カイトが目を向けるのにつられて、私も視線を上げた。そこにはソファーみたいな布張りの物々しい両開きの扉がどっしりと構えていた。

 この特徴的な扉には見覚えがある。

「視聴覚室?」

「そうだ。でも、用があるのは準備室の方」

 扉の脇にある普通サイズのドアに歩み寄ったカイトは、ポケットから鍵束を取り出して穴にさし込んだ。

 一瞬おいてカチリと施錠の外れる音が聞こえる。

「準備がいいんですね」

 私は嫌み込めて言ってやったのに、振り返った顔には不敵な笑みが貼りついていた。

「俺、校内はフリーパスだから――」

 おもむろに目の高さに鍵束を上げてくる。仲好く吊られている4本の鍵は、よく観るとつまみの部分に『クラス棟』『特別教室』『職員室』『部室』と書かれていた。

 そして、全てが真新しい銀色に輝いている。

「合い鍵……ですか?」

「そっ、造った」

 カチャリとドアが開き、中に入るよう手で促された。

「レディーファースト」

 …………本気で不快だ。

 でも、どこか憧れる気持ちがあるような――なんでだろう?

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