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きっといつかは  作者:
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二ゲーム目(後)

【5巡目:森咲綾菜】

「残念だったな、敦」

 モリは得意げに笑ってスペードとダイヤの3を出した。掛かった!これでモリの手札に3はなくなった。

 ただこれはかなり不利な賭けだった。8はもうすべて出た。だが10はあと一枚、5と7に至ってはあと三枚残っている。もし手札四枚の中にそれらがうまく揃っていればオレの負けだ。


【6巡目:森咲綾菜】

「五飛ばっと」

 飛び出したのはスペードの5だった。やっぱり無謀すぎたか……?


【7巡目:森咲綾菜】

「もういっちょ五飛ばっと」

 今度はハートの5だ。二人で大富豪をする場合、二枚の五飛ばしを同時に出すとオレとモリを飛ばしてまたオレに戻ってしまう。だから敢えて一枚ずつ出し、オレに順番が回らないようにするのだ。その辺りを分かっているところを見ると……。

「おぬし、なかなかやるな……!」

「おー、そうか?」

 たたみかけてきやがったか。くそッ、甘く見過ぎた。モリの手札は二枚だからあと一手あれば終わるだろう。さようなら、オレの初デート……。


【8巡目:森咲綾菜】

「これでどうだ!」

 そこで出たのはスペードのK。えっ、という声が出そうになるのを慌てて抑える。まさか弱い方から順番に出す気なのか?ということは……。

「ふっふっふ……」

「な、なんだよ……?」

「お前の負けだよ、モリ」

「なに!?」


【9巡目:梅原敦史】

 ジョーカーと8、あとはそのとき一番強いカード、今でいうと3で上がってはいけないというルールを考えると、上がりのパターンとしては3を一枚出してモリにパスさせ、3を十捨てするのが得策だろう。

「オレの勝ちだぁぁぁあああ!」

 オレはハートの3を叩きつけた。


【9巡目:森咲綾菜】

「うわぁ……」

「えげつないな……」

「梅原くん……」

「ちょっ、何でそんな目で見るんだよ!?そういうゲームだろ!?」

 何で勝っちゃいけないみたいな空気になってんだよ。てかこれさっき京一がやってたのとほとんど同じ出し方だろ。

「あいつなんかに負けるなよ、綾」

 京一がモリの頭をぽんぽんと撫でる。

「……サンキュ、京一」

 何こいつら甘い空気醸し出しちゃってんの?別にいいけどさ、オレ今ユカちゃんのために頑張っ――。

「頑張って、綾ちゃん!」

「ユカちゃんまで!?」

 マイエンジェルユカちゃんまでもモリの味方に……。

「パスだよ、早くしろよ」

「モリ……お前そんなに冷たい目が出来るやつだったのか……?」

 軽く人間不信になりそうなんだが。ふん、だ。いいもんね。もうオレの勝ちは確定だし。


【10巡目:梅原敦史】

「これで終わりだああぁぁぁああッ!」

 ユカちゃんのくれたハートの10で3を捨て、オレの手札はなくなった。

「やった!ユカちゃんと遊園地だああぁぁぁあああ!」

 喜んでいいんだよな。念願の初デートだもんな。

「負けちゃったね、綾ちゃん」

「まあ仕方ねーな。もとはといえばあたしがやろうっつったんだし、文句は言わねーよ」

 モリは肩をすくめてみせた。

「じゃあさっきの重い空気は何だったんだよ……」

「うーん、ネタ?」

「もう少し愛を持ってイジってください」

 心折れるかと思ったわ。オレのハートはガラス製なんだからな。丁重に扱ってもらわないと。

「まあそれは置いといて」

「置くのかよ」

 モリは気を取り直したようにチケットを取り出した。

「約束通りこれはユカと敦にやるよ。んで京一とあたしは自腹な」

 その言葉にオレと京一は固まった。

「おい……まさかチケットくれるってそういう意味だったのか?」

「おう。勝ったやつらはタダで行けるってことにしようって……お前ら何だと思ってたんだ?」

 二人きりで行くんだと思ってました、とは言えない。なんだ、最初から四人で行くつもりだったのか。っていうかそうだよな。わざわざ四人集めといて負けた二人を除け者にするなんてこいつがするわけない。

 オレはふと名案を思いついた。

「――あのさ、ユカちゃん」

「なぁに、梅原くん?」

「せっかく勝ったのにアレだけど、やっぱり割り勘にしない?四人でモリとキョーイチの分のチケット買えば全員半額で行けるしさ」

 ユカちゃんは微笑んで頷いてくれた。

「そうだね。もともと綾ちゃんがくれたチケットだもんね」

「……敦史」

 声のした方へ顔を向けると京一がじっとオレを見つめていた。何だよ気持ち悪ぃな。

「俺は感動したぞ……お前そんなに算数出来たのか」

「おいてめぇ馬鹿にしてんのか」

「39を3で割ると?」

「………………13?」

「遅い」

 うっせ。どうせ馬鹿ですよーだ。

 オレは話を逸らすことにした。

「みんなで行くのはいいけどさ、お前ら普段ちゃんとデートとか出来てんの?」

 ユカちゃんも京一とモリに目をやる。自分で背中押したんだもんな。そりゃあ上手くいってほしいわけで、それはオレも一緒だ。

「まあそれなりに」

「全然してねーな」

 二人は顔を見合わせた。

「何言ってるんだ。先月したばかりじゃないか」

「はぁ?1ヶ月も経ってんじゃねーか。なんで近所に住んでんのに会いに来ないんだよばか」

 おいおい痴話喧嘩かよ。勘弁してくれ。

「ねぇ、梅原くん」

 オレが呆れていると、ユカちゃんが近寄ってきて耳打ちする。

「遊園地に入ってしばらくしたら別行動しよう?」

「えっオレと?マジで?」

「うん。二人の時間も作ってあげなきゃ」

 ユカちゃんはまだ言い争っている京一とモリを見やる。

「ああ、そういうこと……」

 ちょっと複雑だがまあ、いっか。ユカちゃんとデート出来るなら目的なんて二の次だ。

「精一杯エスコートさせていただきます」

「ありがとう。楽しみにしてるね」

 そうだ、ゆっくりでいいんだ。

 今はまだ“四人の中の二人”だけど、頑張っていればきっと“二人”になれる日がくる。オレはユカちゃんの返事が決まるのを待つって決めたんだから、それまでは彼女との時間一つ一つを大事に積み重ねていけばいい。

 オレは二人の間に割って入った。

「はいはい、決着は大富豪でつけましょうね~」

「望むところだ、覚悟しろ京一!」

「綾ちゃん頑張って!」

「おい、勝手に話を進めるなよ」



 こんな風に集まれるのも今だけかもしれない。精一杯楽しんでおこう。


 きっといつかこの16歳の夏を、くだらなかったってみんなで笑うときがくるだろうから。






 END









 はい、3月期テーマ短編「カードゲーム」参加作品でした。

 さすがに遊〇王みたいなのは創れないのでトランプです。


 なぜ大富豪を選んだかというと、今までに私がもっともハマり込んだトランプゲームだからです。

 きっかけは高二のときのクラスメイトでした。トランプが大好きだった関係で昼休みのたびに大富豪をやらされ、それが一年間続いて私も鍛えられてハマってしまったわけです。


 作中に登場するローカルルールのうち、イレブンバック以外は当時私たちが採用していたルールです。地方によってかなり違うらしいのでいろいろ探して組み合わせてみると面白いと思いますよ。9を出すと順番が逆になる「9リバース」とか、9が三枚で革命が起きる「クーデター」とか、ジョーカー二枚で「ジョーカー革命」とか。あと、ゲームは必ず3から始めなくちゃいけない、というパターンもあるみたいです。こっちの方が一般的なのでしょうか?なんか従兄弟が使ってた記憶はあるんですけど。


 このお話には「きっとどこかに」シリーズの人物が登場しています。これは……はい、手抜きです。話自体は思いついていたので早く書きたかったんですよ。キャラクター書き下ろしてたら時間掛かって仕方ないんで。まあでも結構“らしい”ゲームになったんじゃないですかね。無理やりおさめた感じはしていません。

 時系列的には「きっとどこかに」(中三)と「それはいつかの」(高二)の間、空白の高一期ですね。敦史と由佳はまだ友達の域を出ていない微妙な距離にあります。でもなんとなくいい雰囲気ですよね。今後に期待って感じで。

 ちらっと出てきたモリの「もっとデートがしたい」という不満、これは今後もっと掘り下げて描く予定です。今まで高校期の京一を全く書いてませんでしたからね。ちゃんとスポットを当ててみようかと思いまして。あのあとモリとどういう風にデートしたのかというエピソードは既に妄想出来てます(笑)リメイク版に収録する予定なのでもう少し待ってください。


 テーマ短編、初参加でしたがなかなか楽しかったです。ありがとうございました。

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