一ゲーム目(前)
大富豪を二回行い、ニゲーム目の上位二名がチケットを獲得できることにした。ジャンケンの結果順番はユカちゃん、京一、モリ、オレになった。
【1巡目:城夜由佳】
「えーと……これでいいかな?」
ユカちゃんはダイヤとクローバーの3を出した。小さな白い両手で一生懸命カードを持っている姿は小動物みたいだ。
カードの扱い以外からもユカちゃんが大富豪に慣れていないのが分かる。序盤はみんな手札を消費したいので強さが下のカードから順に出していくのがオーソドックスだが、ここで3を出してしまうのは得策とは言えないのだ。何故なら大富豪には“革命”というものが存在するからだ。
――革命。
それはジョーカー以外のカードの強さが逆になるイベントだ。つまり2が最弱になり、3が最強になる。だからここで使ってしまうと革命時有利になるカードをわざわざ捨てることになるのだ。
ちなみに革命は同じ数字のカードを四枚、あるいは4、5、6、7などの連番四枚を揃えて出すことで発生する。
しかし、オレ達のルールではもっと幅を広げ「同時に四枚以上出したら革命」ということになっている。同じ数字四枚にジョーカーを足したり、4、5、6、7、8……と連番を続けても革命が発生するわけだ。上手くいけば一気に手札を減らせる。足りない場合はジョーカーで補ってもいい。ジョーカーは最強のカードであると同時に何にでもなれる便利なカードなのだ。
しかし大富豪には最初に場に出たカードの枚数を出し続けなければならないというルールがある。今の段階でいうとユカちゃんが同じ数字を二枚出したから、後に続くオレ達も必ず同じ数字二枚を出さなければならない。最初に連番が出ていれば連番を出していく。4、5、6が出たら5、6、7以上の連番を出す、という具合に。なければ強制的にパスだ。
つまり全員がパスするなどして場のカードがなくならない限り革命は出来ないということだ。
【1巡目:絢南京一】
「まあこんなもんだろう」
京一はスペードとクローバーの6を出した。普通だな。普通過ぎて何も語ることがねぇぜ。
【1巡目:森咲綾菜】
「流すぞ~」
モリはスペードとハートの8を出し、場のカードを流した。
これは“八切り”と呼ばれるもので、8を出すことで場をリセットし、新たに好きなカードを出せるシステムだ。革命を出せないときなどはこういう手段を使うといい。
「五飛ばしっ」
ぱっとハートとダイヤの5が飛び出した。
「うわっマジか」
「う~……」
「悪いな敦、ユカ」
“五飛ばし”はオレ達のローカルルールで、5を出すとその枚数の人数分だけ順番をスキップさせられるというものだ。モリは二枚出したから二人飛ばして京一のターンだ。
ってかオレまだ一枚も出してないんだけど……。
【2巡目:絢南京一】
「じゃあこれでいいか」
京一はスペードとクローバーの9を出した。いきなり数字が大きくなったな……。たまたまか?それとも何か出したくないもんでもあるのか?
【2巡目:森咲綾菜】
「十捨て~」
スペードとクローバーの10が出て、ハートとダイヤの9が捨てられる。
“十捨て”はこれまたローカルルールで、10を出した枚数だけ手札を捨てられるシステムだ。これがあると1ゲームがスムーズになっていい。
「随分調子いいな、綾」
京一が残り五枚になったモリの手札を見やる。
「まあな」
こりゃモリが上がるかな。いや、でもまだ分からないぞ。
【2巡目:梅原敦史】
「やっと来たか」
カードを出そうとしてオレは固まった。
「縛り……だと……?」
二回連続で同じマークが出たらそのマークを、数字が連続して出たらその次の数字を出さなくてはならない。これが“縛り”だ。この状況なら、京一とモリがスペードとクローバーを出したことで“マーク縛り”が、9と10が連続して出たことで“数字縛り”がかかる。つまりオレが出せるのはスペードとクローバーのJのみというわけだ。
「んなもん都合よく持ってねぇよ。パス」
くそ、また出せなかった……。
【3巡目:城夜由佳】
「あ、ごめん梅原くん。私が持ってた」
ユカちゃんがあっさりスペードとクローバーのJを出す。
「ウソぉ!?」
「あちゃー、ユカ持ってたか~。流せるかと思ったのになぁ」
「イレブンバックだな」
――“イレブンバック”。
Jを出したあと、場のカードがなくなるまで一時的にカードの強さが逆になるシステムだ。プチ革命ってとこだな。
【3巡目:絢南京一】
「どうしろっていうんだ……」
京一が頭を抱えるのも無理はない。何故なら縛りはまだ継続しているからだ。ここで出せるのはスペードとクローバーかつ現在Jより一つ強いカードになる。つまりスペードとクローバーの10だ。既にモリが出しているから出しようがない。ジョーカーが二枚ない限り強制パスだし、たとえ持っていたとしてもここで出すのはもったいなさすぎる。
「キョーイチどんまい」
ざまぁみろ。
「何言ってるんだ。お前もパスだろ」
「…………」
それを言ってくれるなよ。