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第八話、ウサギとネコとカラス。

 その日はオークロードを倒したところでヴィルドパンの探索を打ち切った。まだ時間はあったけれど、さすがに厳しい戦闘で疲れたのだ。ただ、街を占拠する魔物の中で最強と考えられるオークロードですら楓のアサルトライフルで駆除可能であると分かったのは大きな収穫だった。


 「ソレイユ様、先にお風呂をお召しください」

 「僕より功労者なんだから楓が先に入りなよ」

 「なら、僕と君で一緒に入ろう」

 「いや、一人ずつの方がいいと思うよ」


 2人で入りたがった楓を説得して先に入らせ、2番風呂に浸かっていると誰かがお風呂に入ってきた。


 「お背中をお流し申し上げつかまつります」

 「ちょ、スリーズ。だめだよ、入ってきちゃ」

 「今日は危ないところを助けていただいたので、そのご恩返しにござります」


 薄手の白い服を来たスリーズは僕が抗議の声を上げても出ていく様子がなかったので、根負けして背中だけ流してもらうことにした。長くいると逆に汗で服が透けて余計まずいことになりそうな気がしたのだ。


 少し向こうを向いてもらって腰にタオルを巻いてから椅子に座ると、スリーズは手際よく背中を流し始めた。いつもは手の届かないところを丁寧にこすられるのは想像以上に気持ちよかった。


 「わたくしはあの時、腕や足の1本は失うことを覚悟してござりました。オークならいざ知らず、オークロードはわたくしの手に負えるものではござりません。ですが、ソレイユ様はわたくしの前に立ってオークロードからわたくしを守って下さりました」

 「あれは楓の狙撃を援護しただけだから」

 「はい。ですが、人とは単純なものでござりますゆえ、守られて悪い気がすることはないのでござります」


 最後に背中に湯を掛けて石鹸を洗い流すとスリーズは大人しく出て行った。なんだか強引に迫られるよりも恥ずかしい気分になってしばらく風呂の中で悶々とする羽目になってしまった。


 それから数日はヴィルドパンに通って魔物の駆除をする日々を続けた。オークロードはあの1体だけだったようでそれほど危険なことも起きることはなかった。オークは全部で12体駆除した。


 この規模の魔物の集団になると、本来は最低でも数百人規模の軍隊を動員する必要があるらしい。オーク1体だけなら何人かで囲んで時間を掛ければ何とかなるけれど、その間に仲間のオークが集まってくるとあっという間に人間側が不利になってしまうからだ。さらに、オークロードは1体で数十人の兵士を相手取ることもできる。


 目に見えるところの魔物が大体駆除できたところで、今度は建物の中を確認していくことになった。と言っても全部調べるのは無理なので、大型の魔物が隠れられそうな大き目の建物を中心に確認していった。それで僕たちは凄惨な現実を見ることになったのだ。


 「うぷ。……。おぇぇぇ」


 その建物はオークたちの食糧庫兼食堂になっていたようだ。どうやらオークは仕留めた獲物をすぐに食べるのではなく、一旦食糧庫に集める習性があるらしい。そして、その獲物の中には動物や魔物だけでなく、人間も含まれるのだ。


 その事実に気が付いたとき、僕は思わず建物から飛び出して外の壁に向かって吐いていた。後からスリーズが顔面を真っ青にした楓を抱えて出てきた。


 「申し訳ありません。こういう可能性があることは知っていたのですが、それを事前にお伝えするのを忘れていて」

 「いや、いいよ。仕方ない」


 アイエとスリーズの様子を見るに、オークが人を食べるというのはこっちの世界では誰でも知っている常識なのだろう。細かい常識までいちいち漏れなく伝えようとしたら、1日中些細なことまでしゃべり続けていなければいけなくなって現実的じゃない。


 「君、ちょっとだけハグしてくれたまえ……」


 楓が力なく訴えたので、僕はスリーズから楓を受け取ってぎゅっとハグしてあげた。


 「ありがとう。ちょっと落ち着いてきたようだ」

 「今日はもう終わりにしようか」

 「いや、もう大丈夫だ。それより、さっさと駆除を終わらせてしまおう」


 食糧庫にされていた建物内には大型中型の魔物は残っていないようだったので、中の片づけは後回しにして他の建物を見ていくことにした。というのは建前で、本心ではあの惨状を直視するのはまだ少し猶予が欲しかっただけだったが。


 食糧庫として使われていた建物は後2つ見つかった。さすがに心の準備はしていたので最初の時のように取り乱すことはなかったものの、気分が悪くてすぐに外に出た。


 と、最後の食糧庫から出たとき、後ろから突然鎧の裾を何かに掴まれた。


 「ひゃぁぁぁぁ」


 ゾンビでも現れたかと本気で怖くなって恥ずかしげもなく悲鳴をあげてしまった。が、後ろを振り返ってみるとただの人間の子供だった。


 ……、人間の子供!?


 そのことが暗示する意味を考え、僕たちは言葉を失った。


 この街は魔物の襲撃を受け長い間人が住めない街になっていた。これまで調査してきて発見できた人間は食糧庫にあったかつて人間であった食糧しかなかった。つまり、この子はどこからか生きたまま魔物に連れてこられて食糧庫に閉じ込められていたということだ。


 「君、家族は? 他に生きている人間はいるのか?」


 真っ先に動いたのは楓だった。楓はしゃがんで子供に目を合わせて話しかけたが、子供は感情の抜け落ちた表情で何の反応も返さなかった。


 「とりあえず、今日はこれで帰りましょう」


 アイエの提案で今日は探索を打ち切って帰ることにした。もちろん、食糧庫で見つかった子供を連れてだ。


 家に帰るとすぐに子供をお風呂に入れた。全身埃だらけで服もボロボロだったので性別が不明だったけれど、お風呂に入れてみて女の子であることが分かった。背格好から10歳前後といったところだろうか。


 服を脱がせたとき、アイエとスリーズが驚いた表情をしていたのが気になって、後からその理由を聞いてみた。


 「あの子はからす族です」


 アイエは、女の子を寝かせてから僕と楓を呼んで女の子とこの世界の人種のことを説明してくれた。


 この世界の人間は地球とは違い5つの人種に分かれている。ちょうど地球の人間がネグロイド、コーカソイド、モンゴロイド、オーストラロイドに分かれるのに似ているが、身体的特徴の差異はより大きいようだ。


 その5つとは、熊族、猫族、ねずみ族、うさぎ族、からす族だ。それぞれに身体的な特徴があり、混血があってもいずれかの特徴が優位になるので見た目が混ざって生まれるということはないらしい。それぞれの特徴は以下の通り。


 熊族:こげ茶色や暗灰色の体色で、大柄で筋肉質の体つき。

 猫族:橙色の体色で、細身で筋肉質の体つき。大き目の三角耳が上の方に付いている。

 鼠族:銀青色の体色で、小柄で丸めの体つき。口が小さい。

 兎族:ピンク色の体色で、ふくよかな体つき。耳が長い。伸びている人と垂れている人がいる。

 鴉族:髪、目、爪は黒く、肌は白。華奢な体つき。鴉の羽のような黒い痣が上腕を中心に現れる。


 ちなみに見たままだけれども、アイエは兎族、スリーズは猫族だ。


 「確かに黒い痣があった。オークに付けられたと思っていたが」


 僕は女の子だと分かった時点で遠慮させてもらったのでちゃんと見ていなかったけれど、楓はお風呂を手伝っていたのでよく覚えていたようだ。


 「鴉族は差別を受けています」


 アイエはそう言った。

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