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第七話、ヴィルドパンの主。

 その後も何体か小型の魔物に出会い、そのたびにスリーズが殺して行った。リスクの高い戦闘は避けるという方針だったけれど、リスクが低ければ躊躇せず仕留めていくつもりのようだ。黒っぽい装束といい身のこなしといい如何にも忍者っぽいっと思うのは僕だけだろうか。


 そして、とうとうこの街の今の主の1体に出会ってしまった。


 「オークにござります」


 スリーズは発見するなりすぐにアイエの下に戻ってきて、僕たちは全員で安全の確保できる場所からオークと呼ばれた魔物の様子をうかがうことにした。


 オークという魔物は確かにオークという名に相応しい格好の魔物だった。あえて言えば、ゲームなどで馴染みの姿よりもうちょっと熊よりの感じだ。毛の薄い熊というのが近いだろうか。体高は2mを超えているのが遠目でもはっきり分かる。


 「オークは非常に強い魔力を持った魔物で、矢でも剣でも簡単には傷つけることはできません。訓練された兵士が1体を何人かで囲んで時間をかけて体力を削ぐか、強力な魔法を使わないと倒せないのです」

 「アイエやスリーズなら倒せるの?」

 「強力な魔法を使うには準備が必要なので、今日は無理です」

 「ふむ。ちょっと試してみようか」


 アイエの話を聞いて、楓は何かを思いついたようだ。少し後ろに下がって肩から下げていたボストンバッグを地面に下した。


 「魔物の特別な力は魔法の力によるものだということなら、魔法の力を封じてしまえば普通の生物と変わらない。なら、僕たちなら普通の武器でも十分倒せるのではないかな?」


 そうやって説明しながらボストンバッグの中のジュラルミンケースの中からおもむろに取り出したのは、なんとアサルトライフルだった。


 「ちょ、楓、何を持ち歩いてるの!?」

 「アメリカでは銃の携帯は憲法で保障された権利だ。いついかなる時にも自分の身を守れるのは自分自身と銃だ」

 「なんかかっこよさそうなこと言ってるけど、日本では違法だから」

 「大丈夫だ。公安の許可は取ってある」

 「よく取れたな!」


 そうこう言ううちに、楓は慣れた手つきでアサルトライフルに照準器を取り付け、数十メートル先のオークに照準を向けた。


 「こんなところから当たるの?」

 「有効射程圏内だ」


 アイエとスリーズは見たこともない武器の登場に声を潜めて注目していた。止めようとしないところを見るとこのままやって構わないということなのだろう。これも情報収集の一環ということか。


 「危ないから離れたまえ。あと、耳は塞いでおいた方がいい。……、サンクテュエール」


 そう言うと楓は何のためらいもなく発砲した。


 耳を押えていても全身に感じる衝撃音に少しおののきながらも前方に視線を向けると、すでに頭部から大量の血を流して倒れているオークの姿があった。


 「すごい……」


 アイエとスリーズはその結果に驚き絶句していた。僕にはさすがに熊でもアサルトライフルには無力だなという程度の認識だけれども、こちらの人間には兵士が何人も取り囲んでようやく倒せるという魔物を小柄な女子がものの数分で倒したことに衝撃を覚えているのだろう。


 「スキルポイントが減ってる」


 アサルトライフルを下した楓は携帯を取り出してそう呟いた。こちらにも見せてくれたので確認すると、確かに円グラフがわずかに欠けていた。


 「アイエ、この先は?」

 「……、作戦変更です。この先、オークを見つけたら可能な限り排除していきます」


 どうやら楓のアサルトライフルの威力はアイエの想定をはるかに超えていたらしい。


 その後、僕たちは数時間かけて街を歩き回り、さらに3体のオークを殺すことができた。余裕を持った僕たちは2回目からはいくつか実験をして、サンクテュエールなしではオークを遠隔からアサルトライフルで殺すことは無理なことと、オークではなく銃弾にサンクテュエールを掛けてもオークを殺すことができることを発見した。


 それから、僕にはアサルトライフルを扱うのは当分無理そうだということも分かった。


 「伏せて下さりませ!」


 突然、先行偵察していたスリーズが叫んだ。僕は全く反応できなかったけれど、両側から楓とアイエに押し倒されて地面に伏せた途端、頭の上を轟音が通って近くの地面が大きくえぐれた。


 「な、何??」

 「オークロードが来るでござります」


 スリーズの言葉にアイエも顔色を変えた。


 「オークロードは気功弾で攻撃してきます。ここは一旦引いて態勢を立て直さないと」

 「しんがりはわたくしが務めさせていただくでござります。ジュムコンサカリスプリペレアラテルメル」


 スリーズは素早く呪文を唱えて身の丈ほどもある巨大な剣を召還し、振りかぶって魔物へと飛びかかっていった。


 ここに至ってようやく僕は気功弾を放ってきた魔物の姿をはっきりと確認した。それはこれまで見たオークより一回りも大きな体を持ち、鋭い眼光を放っていた。さらにオークとは違い手には巨大なメイスをもって飛び込んでくるスリーズを叩き潰さんと振りかぶっている。


 「楓、援護は?」

 「無理だ。ここからだとスリーズに当たる」

 「ソレイユ様、エラブル様」


 オークロードが再度放った気功弾が近くに着弾し、僕たちは急いでその場から離れ、近くの物陰に移動した。スリーズは今のところ致命的な攻撃は当たっていないけれど、戦いはかなり分が悪そうだ。


 「向こうに回って側面から狙撃できる?」


 僕は逃げる代わりにスリーズを援護することに決めた。サンクテュエールとアサルトライフルの組み合わせはオークロードにも負けないはずだ。


 「任せたまえ」

 「僕は正面から楓の援護をする」

 「ソレイユ様?」

 「アイエ、一つ頼みがある」


 僕はリュックの中から虫よけスプレーを取り出しながら作戦を説明した。僕がサンクテュエールで気功弾を無効にしつつ、オークロードの前に飛び出して虫よけスプレーを投げつける。そこでアイエが魔法でスプレーに引火させ目の前で爆破。その隙に、僕とスリーズはオークロードから逃げるのだ。


 「手筈はOK? 行ってくる。サンクテュエール」


 スプレー缶を手に一直線に走ってくる僕を見て、オークロードは気功弾を撃ってくるが、あらかじめ張ってあったサンクテュエールですべて無効になって僕の体に届くことはない。


 「スリーズ、離れて!」


 僕が前に飛び出すのと入れ違いに後ろに飛びのいたスリーズを横目で確認し、僕はスプレー缶をオークロードの顔面に投げつけた。


 「アイエ!!」

 「リスプリペロンプリルモンドラテルメラポルトラリコルト」


 とっさに顔を腕でかばいつつ体を後ろにひねると、後方でバンという爆発音が聞こえ、オークロードの悲鳴が上がった。


 「逃げるよ」


 スリーズの手を引いて一目散に戦場を離脱した直後、お腹に響く衝撃音があたりに響き、何かが倒れる音がした。振り返ると、オークロードは頭から血を流して地面に伏せていた。楓が狙撃に成功したのだ。

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