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第五話、雇用契約。

 最初の神託は世界に危機が迫っているという漠然とした内容だった。この神託はアイエだけでなく他にも何人も降りた人がいるらしい。しかし、アイエ以外の人たちはその神託を真剣に受け止めることはなかったそうだ。


 アイエはその頃ここからは遠く離れた帝都グランプラージュに住んでいた。そこで身分の高い貴族だったアイエはその立場を利用して大貴族たちを説得しようとしたけれど、失敗し疎まれて帝都を追放になったのだった。


 そこでアイエは2度目の神託を受け、勇者召喚という神の奇跡を伝授された。アイエはその内容を慎重に吟味して、帝都の近くではなく遠く離れたエテドルェストの地で召還を行うことを決めたのだった。


 「神託によれば、勇者召喚とは召還陣を設置して適合する異世界の人を呼び寄せ契約することで、契約者がお互いの世界を自由に行き来できるようになる奇跡なのだそうです」

 「もし僕が契約しなかったら?」

 「別の人を再び呼び寄せて契約をすることになります」

 「契約の途中破棄は可能?」

 「契約時の約束が履行されなければどちらからでも可能です」


 なるほど。小説なんかでよく見る勇者召喚に比べると随分と良心的なようだ。それにこれなら、召還した側も勇者の行動を契約によって制限できるから裏切られる心配もない。


 「分かった。じゃあ、この契約で僕に何をしてほしいと思ってるのかな? さっき製鉄のことについて話していたけど」


 ようやく本題だ。契約で僕に求めるもの、それはつまりさっきからアイエが言っている世界の危機というものに関係しているのに違いない。それが僕に可能なことなのか、僕がやってみたいと思えることなのかが最大の問題だ。


 「ソレイユ様、そしてエラブル様には、この世界に文明を広めていただきたいのです」

 「文明を?」

 「はい。神託によれば、勇者召喚というのは異世界から文明を導入するために行うものなのだそうです。今、この世界では深刻な危機が訪れようとしていて、それを回避するためにソレイユ様たちの文明が必要なのです」

 「さっきから何回か世界の危機について言っているけど、具体的には何が起きるの?」

 「魔力の枯渇です」


 アイエによれば、この世界には魔法というものがあるらしい。簡単に説明すると、世界に祈りを捧げることで望みの現象を引き起こすという力のことなのだそうだ。魔法の発動には印と呪文が必須で場合によって魔法円や魔剣で補助をする。魔力はその魔法の発動で使われる世界に充満する力なのだ。


 「例えば、こんな感じです」


 魔法を知らない僕たちのために、アイエが魔法の実演をしてくれた。


 「世界に満ちる父なる精霊よ。実りをもたらす母なる大地よ。吾、汝らが子、アイエ、常に汝らと共にあり、汝らの秩序を信じ、汝らの寛容に感謝し、汝らの美徳を世に知らしめん。汝ら、吾に力を与えたまえたり。そは汝らに帰依する吾の祈りに答えたもうたるものなり。そをもって吾、ここなる杯に水を満たさんと欲す。吾、汝らの祝福に感謝し、祈り、精進し、啓蒙し続けるとこそ誓うなれ。リスプリペロンプリルモンドラテルメラポルトラリコルト」


 長々とした詠唱の後、何もせずただ手に持っているだけコップの中に徐々に水が増えていき、最後にはコップのふちに至るまで並々と水が満たされてしまった。


 「その手の形は?」

 「これは印です。こうやって左の親指と右の小指を重ねて祈りを捧げると、魔法が発動します」


 国王募集の求人に応募するときの必須項目に左の親指と右の小指の長さの違いを書く欄があったのは、この印を結ばせるためだったのかとこの時思った。


 ともかく、アイエが実演して見せたことでこの世界には魔法が存在することが分かった。そしてアイエによれば、その魔法のエネルギー源となる魔力が世界から枯渇しつつあるらしい。


 「なるほど。それで僕に科学技術を広めて魔力の消費を減らして欲しいってことか。まるでオイルショック時の省エネみたいな」

 「君も興味が出てきたみたいだな。よし、じゃあ、決まりだ」

 「気が早い」


 話が終わったと見た楓が僕に強引に返事を促してきた。楓はもうすっかりその気のようだ。


 「一つ聞いておきたいんだけど、僕は政治のことなんて全然分からないただの技術者なんだけど、そんなので大丈夫なのかな?」

 「はい。国政の実務については私とスリーズがきっちりとサポートさせていただきます」

 「僕も君を全力でサポートする」


 楓はアイエに対抗意識を燃やしているようだ。ただ、実際子供のころからお嬢様をやっていた楓はこういうことにそれなりに詳しそうだとは思う。僕よりずっと頼りになりそうだ。


 「僕の側の条件は、国王になってもものづくりを続けられること。最低限の義務は果たすけど、それ以外の時間は僕が作りたいと思うものを作っていてもよければ、契約をしてもいいよ」

 「構いません。むしろ、私たちは地球の文明をこの世界に広めてほしいと思っているので、それは願ったり叶ったりです。ただ一つ、私たちからのお願いは、ただ作るだけじゃなく、その作り方も一緒にこの世界に広めて欲しいということです」

 「それはもちろん」

 「後、僕と日向は必ず結婚すること」


 アイエとの話がまとまりかけたところで、楓がまた割り込んできた。


 「はい。国王の職務として後継者を作ることがありますから、ソレイユ様はエラブル様と私とスリーズの3人と結婚しなければなりません」

 「いや、それは……」

 「なぜですか? 私じゃ魅力が足りませんか?」

 「僕と君は魂で結びついていて、もう離れることはできないよ」

 「わたくしは殿方を満足させる技術を幼少のみぎりより教えられてござります。生憎、実戦経験は未だござりませぬが」


 3人の女性から強引な求婚を受けるなんてとんだ幸運ではあるけれど、親の夫婦関係を思い出すといいことばかりではないと思う。3人もいると特に大変そうだ。それに楓もアイエもお嬢様なので庶民の僕とは釣り合わないんじゃないだろうか。この中だとスリーズが一番釣り合いが取れそうだけど、彼女は別の面で難しそうだし。


 「まずは僕がきちんと国王としての義務を果たせるかを確かめてからにしよう。それ如何によっては契約を破棄することになるかもしれないんだし」

 「契約を破棄しても僕と君の愛は破棄されない」

 「楓は一旦落ち着こうか」

 「分かりました。では、結婚の件は先送りにしましょう」

 「ええっ」

 「ただ、時期が来たら必ず結論をお願いします」


 楓は不満そうだけれども、アイエは結婚の件はひとまず棚上げということで折れてくれた。といっても結局はただの先送りでこのままだといずれ結婚することになりそうだ。今のうちに一夫多妻関係を円滑にする方法を調べておこう。


 ともあれ、これで僕の方も疑問点は解消されたのでとうとう契約を結ぶことになった。さっきの魔法を見ていたので長々とした呪文を唱えることになるのかと思っていたら、案外シンプルで、契約の条件を紙に列挙して下に全員の名前を署名し、その契約書を最初に通った光の魔法円の中に入れると紙が光に吸収されて契約は完了となった。


 「おめでとうございます。これでソレイユ様は国王様になりました」

 「おめでたいのかどうかは分からないけど、ありがとう」

 「ソレイユ様の国王就任を祝って簡単ではありますが、宴席を設けていますので、今日はごゆっくりお楽しみください」

 「あ、その前に、ちょっと電話だけしてもいいかな? 来週、研究室の発表があるんだけど、事情を話して延期してもらわないと」

 「電話って何ですか?」


 地球文明を知らないアイエとスリーズはよくわかっていないようだったけれど、適当に説明して召還魔法円を通って地球に戻り、遊佐教授に電話をかけた。その時、楓も一緒に来て別なところに電話を掛けているようだった。


 異世界の国王になるなんて言う荒唐無稽な話をどう説明したものかと悩んだものの、遊佐教授は思ったよりすぐ理解して研究室の発表は延期となった。それと、大学の卒業単位の件はまた後で相談に乗ってもらうことになった。


 「それで日向君、今度研究室に来るときはぜひ土産話をよろしく。時間は空けておくから」

 「分かりました」

 「写真か、できればビデオがあるとなおよいので、ぜひ」


 そういえば、異世界の写真やビデオは地球に持ち込める1千万円の縛りに含まれるのだろうか? あるいは、地球と異世界の間にLANケーブルを通して通信をしたらどうなるんだろうか?


 教授には改めてよろしくお願いして電話を切った。携帯の電池が半分を切っていたので、電源を切って携帯充電器に繋げておいた。今後は携帯の充電方法も考えておかないと。

風邪をひいていたので時間が掛かってしまいました。次はもうちょっと早く投稿できると思います。

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