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第三話、地球と異世界。

 「ちょっと君、離れて」


 僕がウサ耳少女のアイエを抱き起したのが気に食わなかったのか、楓が割り込んできて僕とアイエを引き離した。どうも楓はアイエのことを警戒しているようだ。僕にはいい娘に見えるんだけど。


 「日向、君もデレデレしない!」

 「僕は別にそんなことしてない」


 とは言ったものの、楓とアイエでは身長は大して変わらないのに体の一部が小学生とグラビアアイドルくらいの違いがあるのでどうしても視線がそっちに行ってしまう。


 「また!」

 「もう。ちょっと離れてて」


 僕はうるさい楓の脇に手を入れて持ち上げると脇に降ろして立たせておいた。楓の顔が真っ赤になって何かを堪えるようにしている様子がかなりの変顔になっていたけれど、見なかったことにしておこう。


 「それじゃあ、君が僕にメールをくれたんだね?」


 アイエという名前を聞いた時、採用通知メールの差出人の名前と同じだということにはすぐに気が付いていた。ということは、見た目はどうあれ、おそらくこのウサ耳少女が国王募集の張本人ということなのだ。


 まだ大学生になるかならないか程度の娘が1千万円もの大金を払えるはずもないので、やっぱりあの募集は冗談だったということなんだろう。まあ、楓のような例外がないわけではないので、絶対そうだと決まったわけではないけれど。それより、僕としては国王の話よりもさっきの謎の光る物質のほうが興味があった。


 「はい、ソレイユ様」


 それにしても、さっきから応募時に書いた偽名のままで呼ばれ続けるのはさすがに精神的に死にそうになってきた。なんであの時フランス語の偽名なんて使っちゃったんだろう。


 「それなんだけど、僕の本当の名前は日向ひなたなんだ。その名前はさすがに恥ずかしいから……」

 「何か違いがあるのですか?」


 アイエは本当に何を言っているのか分からないという顔をして首を傾げていた。見ると後ろのスリーズという猫耳少女も同じように不思議な顔をしている。状況がいまいち飲み込めず、つい僕も同じように首を傾げてしまった。


 「ソレイユっていうのは日向のフランス語訳で、求人の応募に偽名を使ったのは悪いと思ってるけれど、自分の名前のフランス語訳を呼ばれるのはさすがに痛いというか……」

 「あの、その2つの名前、私には同じに聞こえます。それから、フ・ラ・ン・ス・語というのでしょうか? 言葉の意味が分かりません」


 アイエがそう言うと、後ろにいたスリーズも同様にうなずいていた。逆に隣にいる楓は僕と同様に首を傾げっぱなしだ。


 「多分、自動翻訳がうまくいっていないんじゃないかと思います。ソレイユ様とエラブル様は異世界へと来られたのですから不自由のないように自動的に言語の翻訳が行われるのですが、元が違う言語なので翻訳しきれないところがある可能性があります」

 「じゃあ、その自動翻訳のせいで名前が全部フランス語になってるってことか」

 「はい。そうだと思います」


 ということは、これからずっとこの名前で呼ばれ続けるというのか。どんな拷問だよ!


 「という設定なんだよね」

 「はい?」

 「求人にも書いてあったけど、異世界なんてあるはずないんだし、何も機械も使わないで自動翻訳なんてドラえもんじゃないんだから……」

 「やはり神託の通りです」

 「は?」


 今度は神託と来たか。この子たちはあくまで異世界の設定にこだわるつもりなんだな。


 「こういう時は百聞は一見に如かず、ここが異世界であることの証拠を見てもらうのが早いとおっしゃっていました」


 そう言うと、アイエは僕たちを家の外へと連れ出した。家の内装は光の中を通る前と何ら変わるところはなかったけれど、一歩外に出ると景色は一変していた。


 来た時は山奥の森の中を切り開いた一軒家だったはずなのに、今は目の前に平原が広がっていて近くには10軒ほどの家が立ち並ぶ集落になっていたのだ。しかも、遠くのほうには日本では見たこともないような城壁に囲まれた街らしきものが見えた。


 「一体、ここはどこ?」

 「ここはエテドルェスト北部のヴィルドパン郊外です。あちらに城壁に囲まれた街が見えますか? あれがヴィルドパンの街です」

 「は?」

 「日向、僕は白昼夢でも見ているようだよ」


 楓が不安に思ったのか僕の腕にしがみついて来たけれど、僕も気持ちは穏やかではなかった。さっきまで僕たちはただ小さな一軒家の中を歩き回っていただけだった。それなのに、見たこともない、日本に存在すらしないかもしれない場所にいきなり来てしまったのだ。常識では考えられないことだ。


 それに、さっきから感じる暑さ。この季節にこんなに気温が上がることは滅多にないし、そもそも今日はそんなに暑い日ではなかった。まして、山奥の森の中だったのだ。それが、今はこれまた日本では珍しい乾燥した暑さに襲われていたのだ。


 「なるほど、確かに異世界かもしれない」

 「はい」

 「それで、僕はこの世界の国王になればいいってことなのかな?」

 「その通りです」


 ここを見るまではアイエの言うことはすべて冗談だと思っていたけれど、これを見たら信じざるを得なくなった。こんな非常識な事態、変な理屈を無理にひねり出すより異世界に来たと言ったほうがはるかに納得できた。


 「じゃあ、求人にあった年収1千万円って言うのは?」

 「ソレイユ様が国王になっていただければ、この世界のものを値段にして年間1千万円まで持ち出すことができるようになります」

 「ってことは、結局持ち出すものは僕が稼がないといけないってことか」

 「日向、国王は一番偉いんだからそれはある意味当然」


 僕のつぶやきに楓が至極真っ当な突っ込みを入れてきた。確かに、国王は一番偉いのだから、給料も自分で自分に払わなければいけないのは当然のことだった。つまりは社長と同じだ。


 「ソレイユ様が国王になられましたら、あの城壁に囲まれたヴィルドパンに住んで向こうの方からあちらの山の方までを治めることになります。この辺りは鉄鉱石の産地で山のほうには質のいい鉄鉱山があります」

 「この国は製鉄業が盛んなんだ。それとも、鉄鉱石は輸出のみなの?」

 「現状では製鉄能力は高くないですが、それはこれから増強して行こうと思っています」

 「じゃあ、僕に期待されてるのは地球にある進んだ製鉄技術をこの国に移植するってことかな」

 「はい」

 「それで、報酬はこの世界の貴重品を年間1千万円まで受け取れると」

 「地球に持ち出さないでこちらの世界で使うのなら、1千万円にこだわる必要はありません」


 話の筋は通っていると思った。それに、この辺りが鉄鉱石の産地というのは本当のようだ。さっきから足元に落ちている小石をいくつか拾って触っているのだけれど、鉄鉱石が高い割合で混じっていた。さらにそれだけじゃなく他の種類の鉱石も多数発見されるので、鉄鉱石以外の他の鉱山も見つかるのではないかと思う。


 ただ、この世界の製鉄技術の水準がわからないけれど、地球のものを丸ごと移植するにせよこちらの技術を発展させるにせよ、なかなか一筋縄ではいかないのではないかということが予想できた。最悪、製鉄が軌道に乗るまでは給料なしということもありえるかもしれない。


 「ん、これは?」


 僕は拾った小石の中に表面をこすると光沢の現れるものが混じっていることに気が付いた。


 「ああ、それはきんですね」

 「「きん!!」」

 「きんがどうかしたんですか?」


 金鉱石を見て驚く僕と楓に対し、アイエは不思議そうに首を傾げていた。金といえば1gの価格が5000円近くもする貴金属だ。それがこんなところに転がっていたら人が殺到して全部取り尽くされてしまうだろう。地球の常識では、首をかしげて平静にしているアイエの方がおかしいと思う。


 「金ならばたくさんあります。ご覧になりますか?」


 アイエに連れられて家の中に戻った僕たちは、戸棚に置かれた大量の金食器に目を回しそうになった。小さなコップ程度でも100万円くらいするものが無造作に重ねられていて、価格にして軽く数千万円から億はするんじゃないだろうかと思われる量があったのだ。


 「なんでこんなところにこんな量の金が?」

 「それは……、金は安価で加工しやすいので庶民の食器にはよく使われるんです。国王様に使っていただく食器としては不適切かもしれませんが……」

 「金が安価?」

 「はい。金なんてその辺の石から簡単に抽出できますから。どうしましたか??」


 どうやらこの異世界というところの常識は、僕の持っている常識とはいろいろな面で異なるところがありそうだと思った。

タイトルを変えました。しばらく、タイトルとあらすじは試行錯誤をするかもしれません。

次回投稿はおそらく今週末くらいになるのではないかと思います。

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