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番外編1、とある天上界のベストセラー。

 世界創世キット。それは、家庭でごく普通に手に入る素材を使ってあなただけの世界を作れるという天上界の一大ベストセラーだ。子供から大人まで幅広く親しまれる理由は手軽に始められるのに奥が深いという絶妙なバランス感覚によるものだった。


 キットの使い方は家庭用の鍋で材料をよく煮て宇宙を創造し、付属の壺に移して時折神の奇跡を起こしつつ文明の発展を見守るというものだ。神の奇跡にはいろいろな種類があり、付属のものの他にオプション販売されているものやサードパーティー製のもの、さらには自作することも可能だった。


 本来、世界創世とは大変忍耐のいる作業で、正しい手順を踏んだとしても文明が発生するかは神すらも与り知らぬところであり、高度な文明にまで至るには気の遠くなる失敗を繰り返す必要があった。


 それでも、先人の努力によりいくつかの世界では規範モデルとなりうる高度な文明を発展させることに成功していた。世界創世キットは神の奇跡というトリックを使って、そのような高度な文明を意図的に発生させることで世界創世のハードルを大幅に下げることに成功したのだ。


 ユニヴェルが世界創世キットを始めたのは、は年齢がまだ数千万歳程度の子供の時のことだった。いかに子供でも簡単とはいえ、数千万歳の子供にはうまく文明が発展させることはなかなか難しいことだった。そこで、手を出したのが禁断の裏ワザだった。


 禁断とはいっても、実のところ禁止されているわけでもペナルティーがあるわけでもない。ただ、同じ年頃の子供に知られるとダサいと言ってバカにされる程度のことなのだが、ともあれ、ユニヴェルはうまくいかない世界をそのまま廃棄するよりは禁断でもいいから多少は文明を発展させてみたいと思ったのだ。


 禁断の裏ワザの正体は勇者召喚という神の奇跡だ。これは他の進んだ文明を持つ世界から人間を連れて来て、その人間を介して召還元の世界の文明を召喚先の世界に広めるという効果を持つ。召喚先の世界で元々存在する既存の文明とどう融合してどう定着するかは運次第ではあるものの、他の神の奇跡よりはるかに効率よく文明を発展させることが可能だった。


 バカにされる理由は、簡単すぎること、お金がかかること、それによそで発展した文明をただ移植するだけでは独自性に著しく欠けるというところだった。最も、キットを使わない世界創世を志すマニアからは、神の奇跡を使うこと自体がチートだと批判の対象になっているので、程度問題ではある。


 ともあれ、ユニヴェルはいつまで経っても文明の発展しない世界に魔法文明の発展した世界から勇者を召喚してみた。


 結果は、成功とも失敗とも言い難いものだった。ただ原始的な生活を続けるだけだった世界には、勇者召喚によって確かに魔法文明の端緒が付いたのは間違いなかった。しかし、せっかく高度な魔法文明を持つ世界から召喚したにも関わらず、定着したのは単純な祈りをベースにした原始的な魔法文明だったのだ。


 時間が経てば自力で魔法文明が発展する可能性もあるだろうと、最初のうちはユニヴェルも余計な手出しをせずに文明の発展を見守っていたけれど、遅々として進まない文明の発達に痺れを切らして2回目の勇者召喚を決意するまでにはそれほどの時間はかからなかった。


 2回目の勇者召喚は、1回目の反省から文明レベルが極端に高度ではない世界を選ぶことにした。おそらく1回目の世界は文明が高度すぎて1人の人間にゼロから再現させるのは荷が重かったのだ。そういう時には、集団召喚のような高価な勇者召喚が適切だったのだけれど、それにはちょっとお小遣いが足りていなかった。


 なんにせよ、2回目の勇者召喚は成功だった。目論見通り召還した勇者は元の世界の魔法を相当程度再現させることに成功し、高度な魔法文明が発展する基盤を固めることに成功した。勇者の死後も文明は順調に発展し、並み程度の魔法文明を持つ世界として安定することができたのだった。


 結果に満足したユニヴェルはしばらくその世界で遊んだ後、徐々に他のことに興味が移っていってやがておもちゃ箱の中に長く放置し、ついには存在自体を忘れてしまった。他のうん兆うん京とある世界と同様に。


 ユニヴェルが再び世界創世キットのことを思い出したのは、それから数百年は経った後のことだった。たまたまネットの懸賞で世界創世キットの神の奇跡が当たったのだ。しかもそれはあの奇跡のような科学文明を発展させた地球からの勇者召喚だった。


 神の奇跡や勇者召喚をバカにする向きでも科学文明を研究するという目的なら必要悪と認めるものも少なくない。というのは、高度な科学文明を発展させることが至難であるからだった。実のところ、自然発生的に科学文明が発展したのは何兆何京の世界の中でこれまで地球ただ一つだ。


 そんなレアな勇者召喚奇跡を手に入れたユニヴェルは数百年ぶりに世界創世キットの壺を物置から取り出してきた。中を開けてみると放置していた割りに思ったより順調に文明が発展していたようだった。ただ、最近は発展が停滞気味になっていた。


 原因は魔力の枯渇だった。現状では魔力濃度の減少程度にとどまっているものの、このまま進めば近いうちに枯渇することは目に見えていた。しかも、まだこの世界の人類はそのことに気づいていない。


 せっかく勇者召喚で科学文明を移植しようと思っているのに、文明が定着する前に人類が滅びたら意味ないじゃないかと神の奇跡で神託を降ろしてみたもののなかなかかんばしい反応が返ってこない。唯一危機感を持った人間は権力闘争に敗れて追放されてしまった。


 ただ、この追放された人間がそこそこ期待の持てそうな人間だったので、ユニヴェルは手に入れた勇者召喚をその人間に託すことにした。できることなら科学文明の力で世界の危機を乗り越えてくれることを願って。

リメイク版、投稿開始しました。今後の投稿は不定期投稿となりますが、1週間以上は間を空けないようにしようと思っています。よろしくお願いします。

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