第二十六話、勇者国。
余興で見せたのはアイエの魔法、スリーズの魔剣、それから楓のアサルトライフルだ。僕は特に何もしていない。
魔法使いが珍しい土地で強力な魔法を目にすることは少ないので、アイエたちの魔法には皆興味津々だったが、一番反響があったのは楓のアサルトライフルだった。なんと言ってもとにかく音が大きいからだ。観客は耳を押さえながら驚きの表情で楓がライフルを扱う様子を見ていた。
翌日にはリショナシエ達は帰っていった。帰って他のピエルージュ国難民に説明するのだ。
「上手く行くかな」
「いかないだろうな」
僕が呟くと、楓か即座に否定した。
「人が集まれば必ず反対意見がある。リショナシエは信用できそうだが、権力闘争に特別強そうには見えなかった」
「そういうものなのか」
楓は大企業グループの経営を近くで見てきて自らも会社経営をしているので、権力闘争がどのようなものか直感が鍛えられているのだろう。
「じゃあ、昨日の話し合いは無駄だったのかな」
「いえ、無駄ではないと思います」
そう言ったのはアイエだ。
「少なくとも元住民の方にこちらの考え方と条件を説明することができました。リショナシエさんはその内容に賛同してくれています。これで、私達が一方的に事を進めて熊族の意志を無視したと非難されても反論ができます」
「それに、熊族の中に楔を打ち込んだことにもなる。反対意見というのは敵の中にもあるんだ」
「五族平等を実現するために内紛を誘発させるような真似をするなんて矛盾しているような気がするな」
「平等は平等の理想を共有する者の中での平等であって、理想を破壊しようとするものには適用されないのだよ」
楓は淡々とそう付け足した。確かにそれは残念ながら真実だ。人権を求める人々は人権のために王族の首を切り落として命を奪い、人権が守られる時代を作ったのだから。
「リショナシエが上手くやってくれるといいな」
僕としてはできれば平和裏に事が進んでくれるのが一番いいので、ベストでなくともベターは結果が得られるよう、リショナシエには頑張ってもらいたいと心から思う。
「人のことを気にかけてる余裕なんてないよ。僕たちにはやることが山積みなんだから」
「ソレイユ様はまずフレーシュさんと話してウィクレットの統治形態を決めないといけません」
「その前に、国名を決めるべきかと存じ申し上げ仕ります」
「「「あ」」」
スリーズの言葉に僕たちは皆そのことをすっかり忘れていたことを思い出した。
「どうしよう。ピエルージュ国でいいのかな?」
「新しい国ですから、新しい名前をつけるべきです」
「日向国だ」
「ソレイユ国ですか? いいと思います」
「いや、それは……、もうちょっと良く考えた方が」
「いえ、これは大切な事ですから早く決めるべきかと存じ申し上げ仕ります」
楓とアイエが暴走しているのを誰も止められる人がいないので、このままではソレイユ国に決まってしまう。それは避けたい。しかし、残念ながらスリーズも役に立ちそうもない。
助けを求めるように目を泳がせると、カトルフィーユがこちらを向いているのと目があった。
「何か思いついたの?」
カトルフィーユはうなずき、紙に字を書き始めた。最近、カトルフィーユはコミュニケーションをとるために字の読み書きをアイエとスリーズから教わっているのだ。僕や楓が教えないのは、僕たちは自動翻訳で読み書きをしているので、正しく教えられる自信がないのだ。
「なるほど、勇者国ね」
無難だ。ソレイユ国になって中二病の傷を抉られるよりずっといい。
「じゃあ、これからは僕たちの国は勇者国だ。明日、正式にヴィルドパンの人々に発表しよう」
次の日、僕は人々を広場に集めて国名を発表した。それから、ウィクレットに向けて出発した。またリショナシエのように誰かが突然来るような事態があるといけないので、今回はアイエとスリーズは留守番だ。
「ロワ・ソレイユ様」
「フレーシュ、何も問題は起きていないか?」
「はい。すべて順調です。レンガの製作は必要量が完成して日干しをしています。ご覧になりますか?」
「いや、それは後にする。それより話がある」
ウィクレットにおける今の最大の関心事は水車を動力に使った多目的炉の作成で、これが完成すれば鉄の加工や耐熱煉瓦の焼成が可能になり、また材料さえあれば硬貨の鋳造にも挑戦できる。これはこれでとても大事なことだが、今はそれより先に話すことがあった。
僕はフレーシュと、ウィクレット市内の建物の一室に向かい、テーブルを挟んで向かい合った。ここはウィクレット市内で一番大きな建物で、今は役場として活用しているところだ。この裏に、僕たちがウィクレット滞在中に私邸として使っている家がある。
「まず、最初に確認しておきたいことがある」
「はっ」
「この地に住む鴉族は全て私に忠誠を誓っているのだな」
「その通りです」
「では、ウィクレットの街と鉱山は誰のものだ?」
「ロワ・ソレイユ様のものです」
所有権の問題にはフレーシュはあっさりしたものだった。むしろ、あっさりしすぎていて心配になるくらいだ。もしかすると、彼らにはまだ、所有権という概念そのものが未成熟で不動産を所有するという発想がないのかもしれない。リショナシエはヴィルドパンの所有権を主張していたので、この世界全体で所有権の概念がないということではないのだろうけど。
「分かった。では本題だ。鉱山の仕事が本格化したら、働きに応じて貨幣で給与を出そうと思っている。私の鉱山で働いてもらうのだからな」
所有権の確認の後、僕は熊族の話も家賃の話ではなく、鉱山労働に対する給与の話から始めた。
フレーシュは貨幣を知っていた。もともとの出身はこの辺りではなくかなりの大都市(ただし帝都ではない)のスラムだったそうだ。もっとも、鴉族は貨幣システムにアクセスが許されていなかったので、貨幣を実際に使ったことはないそうだが。
「私たちが貨幣を持つことができるとは……」
「どうした?」
「いえ、私が子供のころは貨幣というのは選ばれた人々だけのものだったので」
「新しい貨幣は実用的な貨幣だ。特別な人が特別な時だけ使うのではなく、誰でも持てて誰でも使えるものになる。晩御飯のいもだって貨幣で買うのだ」
フレーシュの知っている貨幣は日常生活に密着したものではなく、多分に儀礼的なものだったようだ。詳しく説明すると、リショナシエやブシュロンに話した時と同様に首を捻っていた。それから土地建物の利用に利用料を支払うことを伝えると、さらに首を捻った。
「それでは、ロワ・ソレイユ様は私達に貨幣を渡した後、また貨幣を回収されるのですか? だったら初めからその分を引いてしまわれれば良いのではないですか?」
「いいところに気付いたな。私はお前たちに職業選択の自由を認めるつもりなんだよ」
「職業選択の自由ですか??」




