第二十三話、熊族からの使者。
帝都と中核都市以外では貨幣経済が浸透しておらず、それが技術的制約によるものだということは朗報といえた。僕たちがいい貨幣を作れば、それがこの世界のスタンダードになることもできるからだ。
ただ、硬貨の製造方法については全く参考にならないことが分かってしまった。
さらに、アイエの指摘で、通常の技術で作った硬貨は魔法によって簡単に複製されてしまうということだった。
「魔法の成否は魔法使いの想像力に強く依存します。新しい硬貨は最初は複製が難しいでしょうが、硬貨が浸透して慣れてくれば、想像力が低くても形を正確に思い浮かべられるようになるので複製が容易になると思います」
「ということは、単に意匠を凝らすだけじゃなくて、特別な偽造防止方法を考えないといけないってことになるね」
「はい。その通りです」
「ところで、もし、硬貨に使われている材質が鉄や金以外の別な金属だったら、それでも魔法で再現可能になる?」
「魔法で物質の創造ができないわけではないですが、金属は非常に難しいです。まして、それが未知の金属となるとほぼ不可能だと思います」
ということは、硬貨の材料としてこの世界では知られていない金属を使うのは選択肢に入りそうだ。偽造防止にはその金属のテストキットを用意すればいい。例えば、この間ボーキサイトがあったので、アルミニウム硬貨を作るというのも手だ。
ただ、硬貨の製造には手間もコストがかかるので、あまり手間やコストがかかりすぎる材料はよくない。アルミニウムは電気精錬が必要になるので設備のコストがかかるし生産量にも限界がある。
用途が豊富で加工がしやすい銅の鉱脈や、化学的に安定していて地球では金より希少性の高いプラチナなどが見つかれば、それを硬貨に使ってもいい。特に、高額硬貨を作る必要が出た時に、金が使えないのでプラチナがあると助かる。
「とはいえ、新しい金属の鉱山を開発してその精錬方法をこっちで再現するのは時間が掛かるから、当面は何か別の方法で硬貨を用意しないといけないな。この辺りには魔法使いがいないから、偽造にそれほど神経をとがらせなくてもいいのが救いかな」
「例のトータスヒッポの甲羅とかで作ったらダメなのか?」
「それだと数が用意できないから難しいな」
「確かに」
こっちの世界で用意するのが難しいなら、一時的に地球から持ち込むということ考えた方がいいかもしれないなどと考えているうちに、ヴィルドパンの近くに来た。
が、何か様子がおかしい。
「あっちに何か集まっているな」
「街の方からも人が出て来ています」
どうやら、ヴィルドパンの街の外に100人くらいの集団が手に武器のようなものを持って集まっていて、それに警戒して街の人間が門の外に出てきているのだ。
しかし、元々ブシュロンが連れて来たのが28人で、その後周辺に隠れ住んでいる鴉族が合流してはいたがまだ100人に届いていない。100人の武装した集団は脅威だ。
「あれは熊族でござります」
「ああ、あれが熊族なんだ」
熊族とは、以前説明されたこの世界の種族のことだ。熊、猫、鼠、兎、鴉とある中で、見たことがないのはこれで鼠だけとなった。
「熊族は大柄で力が強いので、鴉族と正面から戦うと分が悪いでござります」
「僕がやる」
「いや、戦うより仲間にする方法はないかな?」
「私もそれがいいと思います」
スリーズと楓は戦う気でいたが、僕とアイエは戦いを避けて味方に取り込めないかと考えていた。いずれにしても、ここでは状況が分からないのでブシュロンのところへ向かうことになった。
「ブシュロン」
「ロワ・ソレイユ様」
「これはどうなっている?」
「分かりません。朝から武器を持った集団があのように集まって来ているのですが、今のところこちらの様子をうかがっているだけで何も仕掛けてきてはいません」
どうやらブシュロンも相手の目的が分からず対応に困っている様子だった。戦力差があるのでこちらから下手に仕掛けて反撃をされると困るし、といって何もせずにいて向こうに不意を突かれて先制攻撃を受けるのもまずいし、ということであるだけの武器を持ってにらみ合いの状態になっているらしい。
「とにかく向こうの意図が分からないと話が進まないな」
「使者を立ててはどうですか?」
「どうすればいい?」
「手紙を書いて、青と赤の2色旗を掲げた伝令に持たせるのでござります」
地球ではそういう時は白なんじゃないかと思ったけど、こっちでは青と赤を使うらしい。
「でも、向こうは手紙が読めるかな?」
「装備を見るに野盗の類ではないようでござります。なので、字の読み書きのできるものもいると思い仕ります」
「なるほどね」
勇者のスキルで字の読み書きは自動的のこちらの世界の言葉に変換されるけれど、作法に沿った手紙を書く自信はなかったのでスリーズにお願いすることにした。
使者の選定はブシュロンに任せ、旗はアイエが用意して持ってきた。楓はその間、何かあればいつでも即応できるようにアサルトライフルを手に熊族の集団を見つめていた。
「日向、向こうから誰か来る」
まさに使者を出そうとしたその時、楓が熊族の方に動きがあることを伝えて来た。
「攻撃してきた?」
「いや、向こうも使者らしい」
見ると確かに青と赤の2色旗を掲げている。
「こちらも2色旗を掲げてください。それから、使者に攻撃をしないように注意をお願いします」
ブシュロンに言って2色旗を目立つところに掲げさせると、使者は真っ直ぐこちらへと向かってきた。使者の持っていた手紙はブシュロンが預かり、すぐに僕のところへ届けられた。手紙の内容は次の通りだった。
私はリショナシエ。かつてこの地がピエルージュ国と呼ばれていた頃にこの地を治めていたボナシエ王の甥である。
11年前、オークの襲撃により国を追われた人々にとって、首都に巣食うオークを滅ぼし、この地に帰還することは悲願だった。
近頃、人の噂に、ヴィルドパンのオークが滅ぼされて新しい王がこの地を治めるようになり、近隣鴉族にヴィルドパンへの移住を薦めているということが話題に上るようになった。
私はボナシエ王の係累としてこのことの真実を確かめる必要を感じ、今ヴィルドパンを治めている者と話がしたいと思っている。
良い返事を待っている。
「これは……、勝手にここに新しい国を作っちゃって大丈夫だったの?」
「大丈夫です。ピエルージュ国は公式に滅亡したと帝国で認められています。問題ありません」
「そうなんだ」
「ただし、ソレイユ様も帝国に公式に国王と認められたわけではござりませんので、対外的な立場は対等でござります」
「……、ということは?」
「向こうがソレイユ様の権威を認めなければ、力づくで認めさせるしか道はないということでござります」
なんか、話がいきなりきな臭くなってきた気がする。平和的に解決すればいいんだけど。




