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第二話、ウサ耳と救世主。

 楓は僕より1歳年下にも関わらず、もう車の免許を持っている。しかも、最近取ったばかりというのではなく5歳のころから乗っているベテランドライバーなのだ。どうしてそんなことが可能かというとちょっとしたわけがあった。


 楓は超資産家の令嬢で日本とアメリカの2重国籍を持ち、小さいころから日本とアメリカをしばしば往復して生活している。アメリカの自宅には宅内に本物のレーシングサーキットがあり、楓は5歳のころからそこで一人でタイムアタックをして遊んでいたらしい。ちなみに、運転免許は16歳の誕生月にアメリカで取得していた。


 元々そんな生まれなので、実は、両親は日本では由緒ある私立学校に通わせ、大学はアメリカの有名大学に進学させようと考えていたらしい。ところが、どういうわけか僕と同じ公立中学公立高校と進み、そしてとうとう今の国立大学に進学したのだ。


 「それで日向。君は国王になりたかったのか?」

 「そういうわけでもないんだけど」

 「もしなりたいのなら、私がどこか小さな島国くらいなら買い取ってやってもいいんだが」

 「それはいらないかな」


 楓は僕の答えが気にくわなかったのか、頬を膨らませてハンドルを右に切るとアクセルをぐっと踏み込んだ。楓の小柄なで年に比べて幼げな体躯には不似合いな高級スポーツカーは、風を切るように前の車を追い越して行った。


 実のところ、僕がなんであの募集に応募したのかよく覚えていないし、今もどうしてこうやって仕事内容を聞きに行こうとしているのか分からない。基本的に僕はモノづくり以外には興味のない人間であって、政治家なんて1千万円どころか1千兆円積まれてもゴメンだと思っているのだけれど。


 だから、今僕がこうして北関東の住所に向かっているのは、本当にただの気まぐれということになる。


 「ずいぶん山奥だ」


 楓がナビで住所を再確認して呟いた。確かに山奥だ。道路だけは立派に舗装されているものの、車1台通る気配すらない。こんなところに道路を通しても完全に税金の無駄でしかないのではないだろうか。


 さらに進むとついに舗装すらされていない道路が現れ、さらにその先、1軒の農家風の家に到着した。


 「ここ?」

 「GPSによればそうらしいが」


 確かに携帯のGPSはここが指定された住所であることを示しているけれど、残念ながら僕たち以外には車1台止まっておらず、とても人間が住んでいるような気配はない。やっぱりいたずらメールだったのか、とがっかりしたものの、一応念のためと家の中を見てみることにした。


 「ごめんください。誰かいませんか?」


 玄関のドアに鍵は掛かっていなかった。というより、そもそも鍵という概念そのものが存在しないようなドアだった。


 「きれいに掃除がしてあるな」

 「確かに、本当だ」


 楓が指摘した通り、長い間放置されていたとは思えないほど床にはほこり1つ落ちていなかった。最近誰かがここを掃除したというのなら、あのメールはただのいたずらメールというわけではなかったのかもしれない。ただ、人気がないという点については外から見た時と何ら変化はなかった。


 家はこんな山奥にも関わらず広かった。僕たちは部屋を一つ一つ確認していき、最後に裏手の土間を残すのみとなった。その部屋は家の中からでも外からでも入れるようになっていて搬入口としても使えるようだったが、僕たちが見た時はぴっちりと締め切られていて鍵まで掛けられていた。


 鍵は外側から掛けられた南京錠だった。ということは、この部屋は外から鍵を掛けたということになり、中に誰かがいるという可能性は限りなく低かった。ただ、ここまで来たのだから最後まで見ておこうということになった。


 僕は背中に背負ったリュックから工具を取り出して南京錠の鍵穴に差し込んだ。そういえば、国王に採用されたというのにTシャツ、ジーンズ、カジュアルなジャケットにリュックサックとスニーカーという社会人としてあるまじき格好で来てしまったけれど大丈夫だろうか?


 「開いた」


 そんな心配事が頭をかすめるよりも早く、乾いた音とともに南京錠の掛け金は外れた。


 「君、あそこで何か光っているぞ」


 先に中を覗き込んだ楓が言った。続いて中を見てみると確かに何か光っている。近づこうとして土間に降りるのに靴を持ってきていなかったことに気づき、急いで取って戻ってきて降りてみると、土間の地面の一部が円形に光っていた。


 「これは、一体? 地面の下にLEDでも埋め込んであるのかな?」

 「というわけでもなさそうだ。ここを見てみたまえ」


 楓が指さすところを見ると、地面に半分埋まった石の表面が円周に沿ってきっちり半分だけ光っているのが見えた。これを実現しようと思うと石にLEDを彫り込まなければいけないけれど、どうして退けるだけでいいものにそんな面倒なことをしなければいけないのだ。


 「これは不思議だ」


 僕はもっとよく調べようと光の中に入ってみた。すると、奇妙な浮遊感を感じたと思ったら急に気温が上がってどっと汗が出てきた。びっくりして慌てて光の外に出てみると、さっきまでそこにいたはずの楓がいない。


 「あれ? 楓?」

 「ソレイユ様。お待ちしておりました」

 「なぜ、ウサ耳??」


 代わりに立っていたのはピンク色の髪をして長い「ウサ耳」が顔の横で折れて垂れさがった小柄の、でも部分的は大変大人な少女だった。しかも、白とピンクを基調にしたお姫様のようなドレスを着て、頭にティアラまで載せていて、一体どこの貴族様だろうと一瞬言葉を失った。


 「日向っ」


 ウサ耳少女に目を奪われていると、突然背中に楓が抱き着いた。


 「君は、突然消えて僕は驚いたんだぞ!!」


 そのまま前に回ってきてがくがくと体を揺さぶってくるので、頭を撫でて気持ちを落ち着かせた。


 「一体、君はどこに……、ここは……? 君は誰だ?」


 ようやく冷静さを取り戻してきた楓は、ここがさっきまでの場所とは違うということとすぐ傍にいる不思議なウサ耳少女の存在にようやく気が付いた。


 「あなたはエラブル様ですね」

 「僕は楓。君は誰かな?」

 「私はアイエと申します。こちらは従者のスリーズ」


 紹介されて出てきたのはアイエと名乗るウサ耳少女とは対照的に背が高くてスレンダーな「猫耳」少女だった。やや和風の忍び装束にも見えるドレスを着て、地球とは方式が違うものの敬礼のような姿勢を取っているようだ。従者ということは、このアイエという少女は身分の高い人なのだろうか。


 そして、名前。どうしてアイエは人名を悉くフランス語に翻訳してしまうのだろう? フランス語でエラブルは楓、アイエは撫子、スリーズは桜だ。僕が国王募集の応募フォームで名前をソレイユとフランス語にして登録したからだろうか?


 しかし、次に起きた展開はそんな名前の疑問なんて忘れるほど唐突なものだった。


 「ソレイユ様、エラブル様、どうか、この世界を救ってください。お願いします」

 「ちょ、ちょっといきなり何してるの?」


 アイエとスリーズが唐突に地面に跪いて頭を下げたので、僕は慌ててアイエを抱き起した。一体、何がどうなっているんだ?

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