第十五話、オークの巣。
朝起きたら、楓とアイエが隣で寝ていた。スリーズがいないのは多分先に起きたのだろう。最初は起きるたびに驚いていたけれど、だんだん慣れてきていちいち驚いたりしなくなってきた。
「おはよう、カトルフィーユ」
「……」
カトルフィーユはまだオークに囚われていたことがトラウマで夜一人では寝られないので、今は同じ寝室の別のベッドで寝ている。いつも僕が起きるのと同じくらいに起きて、僕が顔を洗っている間に身支度を済ませるのだ。以前は僕より早く起きていたけれど、さすがにそれはやめさせた。
昨日の続きで今日は粘土やその他の鉱物資源の調査をしようと思っていたところ、朝食の後で鴉族のリーダーのフレーシュがやってきた。
「ロワ・ソレイユ様、お願いがあります」
「どうした?」
「近くにあるオークの巣を退治してください」
フレーシュによれば、ウィクレットからさらに奥地へと半日ほど歩いたところにオークの巣があり、時折、ウィクレットまでオークが下りてきて町を襲うのだそうだ。昨日のオークもおそらくそこから来たのだと思われた。今後、ウィクレットに安心して住むためにはオークの巣の掃除は必須だ。
「分かった」
徒歩半日という距離は自動車でいけば1時間もかからない近さだ。要するに目と鼻の先と言ってもいい。僕たちはバンの3列目を出していつものメンバーに加えてフレーシュも乗せてオーク退治へと向かった。今回もカトルフィーユは本人の希望でついてきている。
「こ、これは魔法ですか?」
「これが新しい文明だ」
フレーシュは初めて乗る自動車に終始そわそわとしていた。筋骨たくましいイケメンが文明の利器を見ておどおどしているのは妙に滑稽な様子だ。アイエたちとは違って魔法にも詳しくないし、僕たちが地球から来たことも知らないので、無理はないのだろうけど。
今日の楓はさすがに昨日ほどは不機嫌ではないようで、速度も時速140km程度しか出ていないようだった。ただ、ウィクレットまでの道と違い道幅が細くなってカーブが多くなっていたので、昨日より恐怖は増していたかもしれないけれど。
「この辺りからは道がありません」
オークの巣は道路から離れて奥に入ったところなので途中で車を止めて歩いていかなければいけない。大体、ここから2,3kmほど歩いたところになる。
「ソレイユ様、エラブル様はいつもああなのでござりますか?」
「んー、さすがに他に車が走ってるときはそこまで無茶はしないと思うよ」
顔色を青くしてスリーズが聞いてきたけれど、見張りに立たなければならないという使命感があるのか、席を代わってほしいとは言わなかった。無理しなくていいのに。
先導はフレーシュが行なった。彼しかオークの巣の正確な位置は知らないからだ。森の中の道なき道を進んでいくと、かなり歩いたところで少し開けたところに出た。
「この辺りからはオークの巣です」
この開けた場所は自然にできたものではなく、巣の中の木を折り倒して回るというオークの習性によるものなのだそうだ。
「また、あの食糧庫みたいなのがあったりするのかな」
「君、余計なものを思い出させるな」
僕の余計な一言で楓もあの光景を思い出したみたいで顔色を悪くしていた。歩いて半日のところに鴉族の集落があったのだから、全くないということは期待しない方がいいと思う。
「いました。固まっています」
フレーシュが指さした方向、200メートルくらい離れたところにオークが数体固まっているのが見えた。ヴィルドパンの時はすべて単独行動だったので各個撃破が容易だったけれど、今度は固まっているので少し作戦が必要かもしれない。
「近づいてみましょう」
アイエの言葉に従って、僕たちはオークに気配を悟られないように注意しつつ、身を隠しながら距離を詰めていった。
オークは全部で9体いた。うち2体は体が小さめで子供のオークなのかもしれなかった。小さめといっても大人の人間ほどはあるので十分大きいのだけれど。
「9体同時に倒すのは難しいな」
「1体倒せても残りに詰め寄られると危険だ」
9体のオークは固まっていると言っても肌を寄せ合っているというわけではなく、お互いにある程度の距離を保っていた。なので、すべてのオークをまとめて攻撃することはできず、1体ずつ倒していく必要があった。だけど、それだと最初のオークを倒す間に他のオークに逆に攻撃されてしまう。
「わたくしがおとりを仕りましょう」
「それは危険だよ」
「危険は承知でこざります。これがわたくしの使命にござりますれば」
「スリーズは向かないと思うよ」
「エラブル様?」
スリーズがおとりになろうと申し出たところ、楓が遮った。
「スリーズは魔剣使いだから気配を察知したオークは身構える。多分、警戒して簡単には近づいてこないよ」
「それではわたくし以外に誰が……」
とそこまで言ったとき、カトルフィーユがすっと立ち上がった。
「カトルフィーユ、それはだめだ」
「……」
「条件だけなら理想的だな」
「楓!」
僕は楓に食ってかかったが、カトルフィーユは止める間もなくオークに向かって走り出していた。それを見たオークたちの目が一斉にカトルフィーユに注がれる。警戒している色はない。むしろ、格好の獲物だと我先にと飛びかかってきた。
「君が飛び出したら元も子もない。オークの注意をカトルフィーユに集中させるんだ」
「だけど!」
「大丈夫だ。カトルフィーユには指一本手は出させない」
楓がアサルトライフルにサプレッサーをつけてを構えると、フレーシュも弓を構えた。僕も作戦に意識を集中した。
「まずは先頭の2体」
「「サンクテュエール」」
アサルトライフルの発射音と共にフレーシュの矢が放たれ、カトルフィーユに最も近かったオーク2体が倒れた。残り7体。




