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第十二話、国王の出番。

 「威厳を持ってお願いします」


 後ろのアイエから念を押されたけれど、僕に威厳とかないものねだりもいいところだと思う。


 「えー、おほん。皆の者、我々はこの世界に新しい文明をもたらすためにこの地に来た。ヴィルドパンのオークロードたちは我々が排除した。今後も同様のことがあれば、我々が守ると誓おう」


 鴉族の人々は僕の言葉に歓声を上げた。どうやら間違ってはいないようだ。


 「そして、我々が皆の者に求めることは、我々と共に新しい国作りを手伝ってほしいということだ。まず、我々は製鉄を行う。放棄された鉱山を再開し、新しい技術の製鉄業をこの地に起こす。皆の者はそれを手伝ってほしい」


 鴉族の人々は声を潜めて隣同士でひそひそと話し始めた。何か間違えただろうか?


 しばらくして先ほどのリーダーらしき男が歩み出て言った。


 「恐れながらロワ・ソレイユ様。我々は魔法を持たぬ身でございます。鉱夫ならいざ知らず、鉄作りのお手伝いができるとは思えません」

 「我々は魔法を持たなくても鉄を作る方法を知っている。疑いを捨て、我々の導きに従うのだ」

 「申し訳ございませんでした。我々はロワ・ソレイユ様に従います」


 そう言ってまずリーダーの男が膝まづき、それを見た残りの者たちも同様に膝まづいた。


 「ジュムコンサカリルロワソレイユ」

 「「「ジュムコンサカリルロワソレイユ」」」


 そして、全員で一斉に掛け声のような声を上げた。それはスリーズが魔剣を使うときに唱える呪文に似ていたけれど、後半の部分が僕の名前のロワ・ソレイユとなっていた。僕は父なる精霊と母なる大地に代わって信仰の対象になってしまったのだろうか。


 「えっと……」

 「ソレイユ様。これは王をたたえる言葉です。鷹揚に受けてください」


 困惑している様子に気づいたのか、アイエが後ろから助言してくれた。なるほど、僕はまだ神になったわけではないようだ。で、鷹揚にってどうすればいいんだ?


 「うむ。苦しゅうない」


 とりあえず、どこかの時代劇で聞いたような言葉を言っておいたけれど、よかったのだろうか……。


 その後、僕たちは彼らを置いて先を急ぐことにした。彼らにはこのままここに住むかヴィルドパンに移住するか選ぶよう言っておいた。その後、すぐに鉱山に再移住することになるかもしれないので、わざわざヴィルドパンに慌てて来てもらわなくてもよいと思ったのだ。


 カトルフィーユにここに残るかと聞いてみたけれど、僕たちと一緒に付いて来たいと言ったのでまだ車に乗っている。ちなみに、鴉族のリーダーに後で聞いてみたら、カトルフィーユが信頼できるという趣旨のジェスチャーを示していたのがすぐに降伏した理由の一つになったらしい。


 「君、さっきのはなかなか名将軍だったぞ」

 「うるさい」

 「うむ。苦しゅうない」


 楓はどうもさっきの僕の言い方が面白かったらしく、時代劇っぽいセリフで話しかけて喜んでいた。でも、他の人にはどうして楓が喜んでいるのか意味が分からないようだ。


 「おそらく、あれが鉱山です」


 数時間走って山が深くなった頃、地図を見ていたアイエが前方を指さして言った。どうやら終点のようだ。持ってきた双眼鏡を取り出してみると露天掘りの鉱山の様子が伺える。ちなみに露天掘りというのは坑道を伸ばして地下に掘り進むのではなく、地表からすり鉢状に掘っていく掘り方のことだ。


 さらに鉱山に近づいていくと、矢が雨のように降ってきた。慌てて楓が車をUターンさせて矢の射程外へと引き返し距離を取った。


 「よかった。タイヤはパンクしてないみたい」


 車の鉄板は簡単に貫けなくてもタイヤをパンクさせるくらいならわけないので、弓矢の遠距離射撃といっても侮れない。


 「こんな奥地にも隠れ里を作ってるんだな」

 「鴉族の差別は地域によってはかなり激しいと聞きますから」


 帝都には鴉族の居住区があると言っていたけれど、もしかするとそれすら許されない地域もあるのだろう。そうすると、こんな人里離れたところでも住み着かざるを得ないのかもしれない。この辺りは山間で農業に適した土地も少ないので生活は苦しいだろうに。


 「まだこっちを警戒している」

 「接近するのは容易ではないでござります」


 双眼鏡で様子を観察していた楓と、裸眼で観察していたスリーズが同時に報告をしてくれた。


 「例の矢除けの魔法は使えないの?」

 「あれは固定式なので」


 なるほど。移動中には使えないのか。2,3人いれば交互に使って移動することもできるけれど、1人しかいないから無理だな。


 「誰か来るでござります」


 しばらく善後策を考えていると、スリーズが警告を発した。どうやらいつまでも去らない僕たちにしびれを切らして向こうから来てくれるようだ。


 ドスドス


 と思ったら、弓矢の射程に入ったらそれ以上近づかずに矢を放ってきた。そりゃそうか。


 「ジュコンサカリスプリペレアラテルメル」

 「世界に満ちる父なる精霊よ。実りをもたらす母なる大地よ。吾、汝らが子、アイエ、常に汝らと共にあり、汝らの秩序を信じ、汝らの寛容に感謝し、汝らの美徳を世に知らしめん。汝ら、吾に力を与えたまえたり。そは汝らに帰依する吾の祈りに答えたもうたるものなり。そをもって吾、ここなる地を弓矢の脅威から守らんと欲す。吾、汝らの祝福に感謝し、祈り、精進し、啓蒙し続けるとこそ誓うなれ。リスプリペロンプリルモンドラテルメラポルトラリコルト」


 スリーズが大盾を構えアイエが矢除けの魔法を唱えて矢の危険はひとまず回避できたものの、こちらも移動できないので手詰まりになってしまった。


 「僕が手っ取り早く何人か間引いてしまうか」

 「それは最後の手段にして」


 楓がアサルトライフルで戦えば、弓矢の射程外から狙い撃ちできるからこの場はスムーズに事が進むけれど、今後協力を求めようとしたときに感情的なしこりが残ってしまうのはよくない。アサルトライフルは最後の手段として考えておきたい。


 悩んでいると鉱山の方から悲鳴のようなものが聞こえてきた。


 「何だ?」


 気が付くと、さっきまで雨のように降ってきていた弓矢がいつの間にかなくなっていた。僕は双眼鏡を手に取って鉱山の方を観察してみた。


 「何かいる。何だろう……。あれは、オークだ!」


 そこに見えたのは、鉱山の前に集まっていた人だかりの中にオークが1体暴れまわっているところだった。人々は手に持つ武器で戦ったり物陰に隠れようと逃げまどったりしていたけれど、オークは力の弱い子供に狙いをつけてまさに捕まえようというところだった。


 「だめだ。子供が!」


 そこまで見た時、僕の服が誰かにぎゅっと引っ張られた。カトルフィーユだった。彼女は言葉は発しないもののそれ以上に強い力を目に込めて必死に僕に訴えかけてきていた。


 「大丈夫。楓」

 「遅い。置いていくぞ」


 僕が言うより早く、すでに楓は鉱山に向かって駆け出していた。慌てて僕も楓を追いかけて走り出した。頼む。間に合ってくれ!!

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