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第十話、地球の科学。

 ヴィルドパンの解放が成功した後、僕は一旦地球に戻った。異世界に本拠地を移すのでいろいろなものを自宅から持ってこようと思ったのだ。車の運転ができないので楓にもついてきてもらった。


 ゲートを通って地球に戻り、建物の外に出てみると驚いた。大掛かりな土木工事が始まっていたからだ。


 「え、これ、やばくない?」

 「ん、進んでいるな」


 異世界のことが世間に知れるととんでもないことになるのではないかと肝を潰したけれど、一緒に来た楓はさも当たり前のように近くにいた現場責任者らしき人物に話しかけに行った。


 「これは楓様」

 「順調か?」

 「はい。予定より少し早めに進んでいます」

 「よろしく頼むよ」


 なんと現場責任者の人は楓を見て頭を下げながら進捗報告を始めた。ということはこれは全て楓が了解済みで進んでいることだということだ。


 「この辺りに勝手に人が入ってきたら困るじゃないか。だから一帯を買い取ったのだ。それでせっかくだからここにちょっとした別荘を作ってしまおうと思ってな」


 と言っているが、どう見ても「ちょっとした」別荘どころではなかった。まあ、楓がやるとスケールが妙なことになるのはいつものことなのでいちいち驚いたりしないけれど。


 工事の人たちに挨拶だけして、僕たちは東京に戻った。今回は荷物を取りに行くだけだから遊佐教授のところに顔を出すのはまた今度だ。


 「君、持っていくのはすぐ必要になるものだけでいい。残りは別荘が完成したらこの部屋丸ごと引っ越しさせるから」


 そう言って楓はどこかに電話を掛けていた。そこまで頼るのもどうかと思ったけれど、どっちみち車は楓のものに乗せてもらっているし、その車はスポーツカータイプであまり量が乗せられるわけでもないので、大人しく楓の提案に従うことにした。こうして僕は楓なしでは生きていけない体になっていくんだろうか?


 「ただいま」

 「お帰りなさいませ」


 異世界に戻るとアイエがすぐに迎えてくれた。


 「変わりはなかった?」

 「はい」


 なんか、こういうやり取りはまるで夫婦みたいだな、とか思ったら隣から楓に脇腹をつねられた。


 「君、でれでれしてる」


 地球から新たに持ってきたものは以下の通り。


 ・食べ物

 ・服

 ・折り畳み自転車

 ・工具類

 ・ルーペ、双眼鏡

 ・ノートと筆記用具

 ・携帯型プリンター

 ・バッテリー

 ・測量器具


 あまり重いものや大きいものは持ってこれないので厳選して持ち込んだ。一番重いのがバッテリーでこれはさすがに台車を使った。工事の人たちが余っているのを貸してくれたので快く使わせてもらった。ヴィルドパンで見つけた応急処置をしただけのやつより地球製のもののの方がずっと性能がいい。


 ちなみに、測量器具なんてものがどうしてあるかというと、ヴィルドパンの地図を作っておこうと思ったからだ。もちろん、僕が個人的にそんなものを持っているはずはないので工事をしている人たちから借りてきた。2日後には返すという約束なので、翌日は1日中、街の測量に明け暮れた。


 それで分かったのだけれども、直径1kmもないだろうと思っていたヴィルドパンの城壁は、実際にはもっと小さくて500mくらいしかないということが分かった。人口は1000から2000人くらいしかいなかったのではないだろうか。そんなところを数百人の軍隊と対峙できる数のオークに襲われたのだから、あっという間に滅んでしまったのだろうといことは容易に想像できた。


 測量データをラップトップPCに読み込んでその他の情報を書き加え、プリンターで印刷するとヴィルドパンの詳細地図が完成した。


 「せっかくだから、もう何枚か印刷しておこう」

 「すごいですね、この地図は」


 アイエとスリーズが印刷した地図を興味深そうに観察しているのを見て不思議に思った。


 「この世界には地図がないの?」

 「ありますけれど、地図作りは大事業ですからこんな簡単には」

 「まるで大魔法のようでござります」

 「大魔法ね」

 「君は大魔法使いというわけだな」


 楓が何かツボにはまったのかくすくす笑っているけれど、確かに現代の科学文明は知識のない人間から見たら魔法にしか見えないかもしれないと思った。というか、大半の地球人だって原理はほとんど分かっていないわけで、科学だと知っていなければ魔法だと思うかもしれない。


 その翌日には測量器具を返してとうとう鉱山の調査のためにピクノール山脈へと向かうことになった。


 ピクノール山脈とはヴィルドパンの北側にある山脈のことで、ここを超えた向こう側は人類未踏の地である。奥地には魔物が数多く生息していて、それが麓に時々現れて人里に被害をもたらすのだ。その最悪のケースの1つがヴィルドパンを滅ぼしたオークの襲撃だ。


 ただ、開発済みの鉱山があるのは山脈の中でも比較的魔物の少ないところなので、今回の調査では気を付けていればそこまで危険なことが起きることはまずないと考えられた。


 「これは何でしょう?」

 「これは自動車だよ」


 測量器具を返すついでに前に頼んでおいたバンが届いていたので楓が運転してゲートを通って異世界に持ち込んだ。台車が通れたことから予想した通り、僕たちが運転していれば車ごとゲートを通過することは可能なようだ。


 ここ数日、ヴィルドパンに毎日歩いて通う日々を続けて乗り物の必要性を切実に感じていたので、街中の移動用に自転車を、鉱山などに出かけるのにはバンを用意したのだ。ちなみに、僕は車なんて持っていないので、バンは楓にお願いして用意してもらった。


 異世界で自動車を使う上で一番の心配はガス欠だ。何せガソリンスタンドなんてこの世界にはない。だからトランクに予備のガソリンを多めに積んでいくことにした。引火が怖いけど、まあ、大丈夫だろう。


 ガソリンの節約のため、クーラーも掛けないし音楽も聴かない。それでも初めて見る異世界の景色は興味深かったので退屈はしなかった。


 運転は楓で助手席にスリーズ、後ろには僕とアイエとカトルフィーユが乗っている。楓は僕に助手席に乗るように言ったけれど、スリーズが見張りのために視界が広がっている必要があると言って助手席に先に乗ってしまったのだ。


 「こ、この乗り物はまるでライノドラゴンのように走るでござります」


 不機嫌そうな楓が時速200km近い速度でバンを走らせるので、スリーズは顔を若干ひきつらせていた。ライノドラゴンとは多分足の速い魔物なのだろう。ライノは日本語ではサイなのできっとサイに似ているのかもしれない。


 案外、道は広くてしっかりと作られていた。多分、この道を通って鉄を運んでいたのだ。重い鉄を大量に運ぶためには平らで頑丈な道路が必要だからだ。それでヴィルドパンから人が消えて鉱山が放棄された後も道路だけは崩れることなく残っているのだろう。


 「ちょっと止めて」


 道端に気になるものを見つけた僕は、楓に言って車を止めてもらった。

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