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第七回 雨(第2篇)

 今年は例年以上に暑い夏だった。外に出ると少し歩くだけで汗が噴き出すほどだ。あの日以来、結城理沙子とは一度も会えていない。何度電話をしても繋がらず、メールを送っても返事は無かった。夏休みに入り大学の講義もないのでどうやってコンタクトをとればいいのか全く分からなかった。

「そう言えば、結城さんと話したことってほとんどなかったな・・・。」

 私は山野由美に電話することにした。理沙子と一番仲が良かったのは彼女だった。最初のコール音が鳴ったかと思うと彼女はすぐに電話に出た。

「あっ、夕希ちゃん?」

 慌てたような声だった。

「結城さんのことなんだけど、あれから全く連絡が取れなくて・・・。」

「そう・・・。私も何度も電話してるんだけど全く出てくれなくて。理沙ちゃんのアパートにも行ってみたんだけど、いつもいないみたいなの。」

 彼女は泣き出しそうな声だった。きっと、ずっと携帯を握り締めて理沙子からの連絡を待っていたに違いない。

「理沙ちゃん、本をよく読むから図書館なんかも探してみたんだけどやっぱり見つからなくて・・・。」

 暫くの間情報交換をしていたが、どれも理沙子の居場所やあの行動の理由を決定付けることは出来なかった。

「私もまた探してみるよ。じゃあ、またね。」

 そう言って私は電話を切った。

 一番仲の良いはずの由美でさえ、連絡が取れないなんて一体何があったのだろう。私は明日、図書館に行ってみようと決めてその日は休むことにした。ベッドに入っても悶々と答えの出ない憶測がぐるぐると頭の中を巡り続けた。いつの間にか空はもう薄ら白染み始めていた。


 この大きな街に図書館と呼ばれる場所は沢山あった。他に宛てもない私は、朝から手当たり次第に図書館を訪ねていった。もちろん、そんなに都合よく彼女に出会えるはずはない。もう時計の針は午後3時過ぎを指していた。もうずっと歩きっぱなしだ。疲れと空腹が限界に近づいて、一度家に帰ろうと思った。そういえば・・・。思い立って私は再び歩き始めた。


 大学の図書館はテスト前とは全く違い、人も疎らだった。理沙子が一番利用する図書館といったらおそらくここだろう。そう思って、図書館の中を隅から隅まで探して回った。

 一通り回ったところで私は深く溜め息をついた。よくよく考えれば、私たちを避けているのなら大学の図書館を利用したりはしないだろう。私はもう一度溜め息をつき、図書館の出口へ歩き出した。

 その時、前からやって来る一人の女性に目が留まった。颯爽と歩くその姿は結城理沙子に違いなかった。彼女は私の存在に気付くと、くるりと身を翻し足早に去ろうとした。

「待って!」

 私は必死で追いかけた。

「待ってって!」

「ねぇ、話を聞いてよ。」

 私は懸命に話しかけても、彼女は歩を緩めなかった。

「どうして?どうして私たちを避けるの?」

 彼女は何も答えない。

「ねぇ、どうしてキャンプに行かないなんて・・・。言い出したのも、企画してくれたのも結城さんじゃない!」

 彼女は立ち止まり、静かに振り返った。

「それはあなたがいるからよ!」

 私はそれ以上追いかけることが出来なくなった。にわかに雲の流れが速くなり、空は薄墨色に覆われた。私はかつてないほどの疲労を感じながら、遠退く理沙子の後姿をただ見送っていた。

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