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果物語  作者: 夜鷺香琉
3/4

第二幕:フルーツ盛り合わせ

遠藤蜜柑エンドウミカンは固まっていた。

そりゃあ、もう気分は南極だ。

蜜柑だけではない。

その場が凍り付いたように、誰も動かない。

新入生も、先生達も、保護者とか偉い人も。


おかしい・・・何かが、おかしい。

今は体育館で入学式がつつがなく進行してて、それでもって、自分は新入生代表とか務めた訳でもない。


どこにでもいる地味な娘だし・・・ああ、生い立ち考えると普通じゃないが、今はそんなことどうでもいい。

とにかく、マイク越しに自分の名が呼ばれた気がしたのだ。


今は生徒会長挨拶で、佐枇杷聖サビワセイという二年生の男子が壇上にいるのだ。

お堅いイメージのある生徒会長だが、彼を見るかぎりそんなもの全く無い。


なんていうか、元気とかやんちゃとかって感じ。

明るい茶髪と女っぽい、くりっとした目が犬みたいな印象を与える。

当然ながら蜜柑は彼を知らない。

したがって、彼が蜜柑を知っている確率は限りなくゼロに近いだろう。


暇なもんだったから少し舟をこいでた。

そうだ、寝呆けてたんだ、そうに決まってる。


しかし、蜜柑の願いにも似た考えは数秒もしないうちに砕かれた。


「休みじゃねーよなぁ・・・?遠藤蜜柑、起立!!」

「は、はいっ」


叫んでからハッとなる。

ああ、条件反射で立ち上がってしまった。

その瞬間、一斉に周りからの視線が集まる。

蜜柑は顔面に血が上っていくのを感じた。


「あの馬鹿・・・」


生徒会は入学式に強制参加のため、柘榴は教師席横に控えていた。

こんな成りだが、一応、副会長だ。

ずり落ちた帽子を後ろに引っ張り戻す。

満面の笑みで壇上に迎う時点で、何かするとは思ったが・・・いきなり名指しすんなよ。



『エンドウ・・・ミカン。遠藤蜜柑ね。覚えとこー』


先に教えるべきじゃなかったと今更、後悔する。


柘榴は重い溜息をついて、立ち上がる。


「しゃーねぇなぁ・・・行くか」


隣りの二人の人物に呼び掛ける。

その二人は、一様に苦笑いを浮かべ立ち上がったのだった。



蜜柑の体内の血は沸騰していた。

いっそのこと卒倒してしまいたい。

質の悪い目眩と頭痛がする。

小さなざわめきが蜜柑のことを言っているのが分かる。


逃げ出したいと本気で思った時、壇上に新たに三人の人物が上がってきた。


(ざっ・・・柘榴君!)


先頭にいたのは蜜柑の親友の彼氏である。

トレードマークの耳垂れ帽子に左目に残る傷。曰く、愛の証らしい。

続いて歩くのは、背の高い秀才っぽい美男子とモデルのようなお姉系の美少女だ。


柘榴は会長の横につくと手をスッと上げた。


バッッチン!!!


その場が静かすぎたのか、力が強すぎたのか、恐ろしい威力のデコピンの打撃音が響いた。


的はもちろん生徒会長様。


柘榴は、悶え苦しみしゃがみ込んだ会長からマイクをぶんどった。


沸騰していた体が少しずつ冷めてきた。けれど、混乱しているのは変わらない。


「えー、まずはこの馬鹿のせいで厳粛な式を台無しにしてしまったことをお詫びします」


柘榴は帽子を取って、紳士的なお辞儀をした。

場が再び静まる。


しかしながら、この騒動に教師陣は口出ししてこない。

最初は驚いていたものの、今はすっかり呆れ笑いを浮かべている。


どうやら、このような事態は初めてじゃないらしい。


柘榴が続ける。


「我々は、双樹学園生徒会執行部。通称『ナイフ』です」


その横で、おでこを押さえながら会長が立ち上がり、涙目の顔をしかめた。

反省の色は全く無い。


「この機会にナイフメンバーを紹介させてもらいたいと思います。まず、会計・・・」


スッと一歩前に出たのは、例のお姉系の美少女。


桃野刹那トウノセツナ



美少女−−−刹那が艶やかに微笑み、一礼する。


「続いて、副会長・・・」


秀才美男子が例のごとく進み出る。


柿坂郁也カキザカイクヤ。並びに俺、二ノ宮柘榴ニノミヤザクロ


同時に、頭を下げる。


「最後に、会長・・・」


柘榴は面倒臭そうな表情を一瞬したが、彼の根は真面目なので最後まで言う。


「佐枇杷聖、以上です。」

聖は一礼することなく、満足そうに踏ん反り返った。

まばらに拍手が起こる。



「また、今から呼ばれる者は登壇しろ。遠藤蜜柑、梨里長閑リンリノドカ・・・・長閑ぁ、蜜柑も連れて来い」


放心状態の蜜柑を見兼ねて、柘榴が気を利かせてくれた。


後ろの席から長閑が心底楽しそうにやってきた。


「ほらほら、みぃ」

「長閑・・・」


柘榴と同じ色素の抜けた長くてふわふわの髪。ピアス、だらしない着方の制服。けれど、極上の美少女が微笑みかける。


「いやはや、爆睡してたら面白そうな事になってるな。行くぞ、みぃ」


・・・見てくれだけは天使そのものだ。



蜜柑は渋々、壇上へと進み出る。

長閑がいれば悪くはならないはずだ。柘榴はすこぶる長閑に甘いから。


壇上では、柘榴が郁也にマイクを渡していた。


柿坂郁乃カキザカイクノ、前へ」


低音ボイスが何とも凛々しい。

続いて、透き通る様な刹那の声。


「同じく、三原柚ミハラユズ


蜜柑達の後に席を立つ人物が二人。


一人は、腰まで伸びた黒髪、ノンフレームの眼鏡、郁也を少し幼くさせた理知的な女の子だ。

見るからに妹だろう。


郁乃は眉一つ動かさずに登壇する。


もう一人は、中学生のように可愛らしい顔立ちの小柄な子。明るい金髪、海のような碧眼。海外の子だろうか。

制服を見てから、男の子なんだと気付いた。



そうこうしている内に八人の人間が壇上に立った。


柘榴が確認し、マイクを聖につきつける。


「ほら、残りはお前がやれよ」


聖は、にっと無邪気に笑うと宣言した。



「この四人をナイフメンバー候補とする。また、正式に決まり次第追って表明する。以上!」




平穏に送るはずだった高校生活が壊れていくのを、蜜柑はその目でしっかりと見た。




ミカン、ビワ、ザクロ、ナシ、カキ、モモ、ユズ。


八種類のフルーツが集結したのだった。


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