第一幕:果物を求めて
校舎に続く並木道は桜が咲き誇り、初々しい少年少女達を祝福する。
真新しい皺ひとつない卸したての制服。
白に近い淡い水色のブレザーと濃紺色のズボンとスカート。
不安と期待の交じる緊張した顔で、校門をくぐり抜けてく。
本日、お日柄宜しく、都立双樹学園高校の入学式である。
続々とやってくる新入生の姿を教室の一角の窓から見つめる影が二つ。
「どうだ?目欲しい奴はいたか?」
「うっせー、柘榴!いねーからこうしてウォッチャーしてんだろっ」
柘榴と呼ばれた少年は、目深に被っていた耳垂れ付きの帽子をずりあげた。
彼の左目には縦に長く伸びた傷痕が残り、閉じられている。
当然、光を宿すことはこの先、一生ないだろう。
残っている右目で隣にいる少年を睨み付ける。
睨まれた少年−−−聖は、うっ、とひるむ。
「朝っぱらから起こされたにもかかわらず来てやったってーのに、うっせーだぁ?なぁ、聖?」
「あ、ありがとうございます・・・」
「結構・・・つーか、あいつらにも電話したんだろ?何で来ねーんだよ」
聖は自嘲気味に笑った。
「・・・低血圧って恐いよねー」
「あっそ」
大方、電話越しに怒鳴られたのだろう。
自分もそうすれば良かった。
わざわざ睡眠時間削って来たのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
口に含んでいたガムを膨らませ、柘榴は興味なさげに外を見やる。
その横で犬みたいに落ち着かない聖がやかましく喋っている。
「なー誰かいねーかなー。俺だけ後継ぎいないのヤバイってー」
「誰もお前に期待してないから、いいんじゃねーの?」
「やだやだやだ!ぜってー見つけてやる!」
お菓子をねだる子供のように駄々をこねる聖に、溜息が出る。
お前は、一体いくつだ。
「紹介してやらんこともないけど、何か条件あるか?」
聖が瞳を輝かせて飛び付いてくる。
「名前!それは必須な!あとは、俺に従順なやつがいいなぁ」
聖を尊敬するのはかなり無理があるだろう・・・言わないでおくけれど。
柘榴は帽子を取ってくるくる回した。
色素の抜けた髪は聖が出会ったときから変わらない。
柘榴はにっと笑う。
「一人いるぜ。長閑の親友だ」
長閑とは柘榴の彼女である。
「げっ、長閑の!?信用出来んのか?」
柘榴はわずかに眉を釣り上げたが、すぐに戻す。
「長閑が偉く可愛がって、俺にしか紹介しなかった娘だしなぁ。聖には勿体ないな。じゃあ、この話は無かったことに・・・」
「しないで下さい!」
何をそんなに必死になっているのか分からないが、聖は懇願してくる。よほど焦っているらしい。
「そうだ!名前!名前は!?」
「慌ただしいな、少しは落ち着けよ。これだよ・・・ん」
柘榴はもう一度ガムを膨らまし、それを指差す。
それは、膨らんで薄くなった黄色い膜。
聖は意味が分からず首を傾げる。
見兼ねた柘榴が、ポケットから噛んでいるガムと同じものを取出し、聖に渡してきた。
そこには一つの果物が描かれていた。
レモン、バナナ、グレープフルーツ・・・違う違う。
それは−−−−