ロナルドとアデレイド 9
愛しいアデレイドとの結婚式が近づいたある日のこと。
俺、ロナルド・マコーリーは女王陛下から呼び出しをくらった。
「お、俺なにか、やっちまったかなあ?」
不安に思い姉貴、いや姉上に相談すると、ニヤニヤしながら「一緒についていってやろうか」と恩を売ってくる。
それでもいい。
俺は姉……上に、城への同行をお願いした。
あの裁判の日、ちょっとだけ顔を拝んだだけの女王陛下に呼び出されるなんて、正直俺の人生で起こるとは思ってもみなかった。
そして当日、姉上の他に姉の主人であるメリーローズ嬢も一緒で、更には途中でアディまで馬車に乗り込んできた。
「え、こんなに大勢で女王様に会うのか?」
「なんだ、心細いから一緒に来てほしいと言っていたのに、不服か?」
あ、馬鹿。
アディの前で「心細い」とかバラすなよ!
「あ、ロナルドさんも心細かったんですね。わたくしもですう。だから、メリーローズ様に一緒についてきていただいちゃいましたあ」
あ、そうだったんだ。
「心細い同士ですねー。えへへ」
そう笑ってくれるアディ。
なんて、いい子なんだ!
同士だなんて、うれしいことを言ってくれて、俺をみじめにさせないでくれて……
ハッと気がつくと、姉上とメリーローズ嬢がこちらをみてクスクス笑っている。
「ロナルド、顔がニヤけてるぞ」
「う、うるさい!」
「よろしくてよ。愛する妻にニヤける夫。家内安全、幸せのしるしですわ」
メリーローズ嬢がフォローになっているのかいないのか、わからないセリフを言うが、アディが「はい!」と笑顔になったので、よしとしよう。
やがて馬車が王城に着く。
当然門番が厳重に人の出入りを確認しているが、メリーローズ嬢が同行しているので「顔パス」だ。
聞きなれない言葉だが、メリーローズ嬢が昔いた世界の言葉で、こうやって検問がある場所でも「顔」だけで「どうぞお通りください」となる意味なのだそうだ。
侍従長が、女王専用の第三応接室に通してくれた。
第一や第二の応接室なんかは国内外の賓客が通されるそうで、俺の身分を考えれば第三でも上々の扱いといったところだろう。
それに家具や調度品なんかは、ランズダウン家で仕事をしていなければ、一生お目にかかることもなかっただろう代物ばかりで、目がくらみそうだ。
「ロナルド、落ち着いて座っていろ」
「あ、ああ……」
あまり歩き回って、花瓶なんかの調度品を壊してしまってもいけない。
俺なんかが一生働いても、弁償できるものではないだろう。
俺は姉が指さしたソファに腰をおろした。
俺たちを呼び出した本人は、たっぷり一時間以上待たせた後登場する。
「お待たせいたしましたわー!」
朗らかなで気さくな笑顔を振りまくその女性こそ、この国のトップ、一番偉い人、エメライン女王陛下だ。
「きゃー! エッちゃーん、おひさー!」
「きゃー! メッちゃーん!」
メリーローズ嬢と楽しそうにハグをする姿は、あまり……一国の女王とは思えない。
まあメリーローズ嬢も、公爵家のご令嬢には見えないけど。
俺は一応その場で立ち上がり、礼を取る。
姉上からそうするように言われているからだ。
姉上の様子をちらりと伺い見ると、俺同様立ち上がりながらも、遠い何も映していないような目をして、この時間をやり過ごしている。
俺の横のアディはといえば、立ち上がったあとメリーローズ嬢と一緒になって女王陛下に挨拶に行こうとしかけて止めていた。
姉が目で制したからだ。
「ほーんと、呼び出しておいてだいぶ待たせてしまったわね、ごめんなさい」
俺のような貴族でも末端の存在に、待たせたことくらいで謝るなんて、女王陛下とは思えない。
普通なら「呼びつけて当然」「待たせて当然」と、気にすることなんてないだろうに。
「お仕事が忙しいんでしょ? いいのよう、そんなこと」
「まあねー。いよいよアルフレッドに王座を継がせるまで二ヶ月を切ったけど、もういい加減仕事は全部押しつけたい!」
「でも、アルたんにももう結構仕事を振っているんでしょう? ヒューストン宰相が『実践で覚えていただきます!』って、怖い顔で言ってたわ」
一応断っておくが「アルたん」というのは、メリーローズ嬢の婚約者で王太子のアルフレッド殿下のことだ。
「そうなんだけどね、いろいろと細かい事案なんかは今もこっちに回されてくるのよ」
「当初の予定よりアルたんの国王就任が一年遅れちゃったからねえ」
そう、アルフレッド殿下は高等学院を卒業後一年で国王になる予定だったのだが、その一年後にメリーローズ嬢が卒業して結婚することになっていたので、「お祝い事はいっそのこと一緒にしよう」ということになったのだった。
「わたくしは反対だったのになー」
今のは女王陛下のお言葉だ。
女王っぽくないけれど。
「どうして、反対だったんですかあ?」
アディが大胆にも、女王陛下に質問した。
陛下は気にした様子もなく、笑顔で答える。
「その方が、経済効果が見込めるのよ」
「けーざいこーか……ですか」
質問の答えをもらったものの、余計に頭のなかが疑問だらけになったようだ。
そんな顔もまた、可愛い!
「慶事があると、国の予算から支出が増えますよね。慶事が一回だけなのと、二回あるのとでは、国庫からの支出が倍に増えてしまうのではありませんか?」
これは姉上からの質問だ。
「それはそう。でも、イベントの回数が多いほど国民の間でお金が回る機会が増えるわ。経済はお金が回ってこそ、ですからね」
「お金が……回る……?」
アディの手が、コマを回すような手つきになる。
きっとコインを回しているイメージなんだろうな。
「まあそれはともかく、国王就任と結婚式はその分盛大にやるわよう! メッちゃんも覚悟しておいてね」
「あはは……」
そこまで話をしたところで、侍女がお茶を運んできた。
「軽いものだけど、どうぞ」
女王陛下はそう言うが、並べられたお茶菓子は色とりどりの砂糖菓子やフルーツやクリームで飾られ、おそろしく華やかだ。
アディの顔もパアッと明るくなる。
「素敵ですう。こんなきれいなお菓子、見たの初めてです!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。アデレイド嬢はなにがいいかしら?」
「えーっとお……」
女王自ら皿に取り分けてくれそうな気配があり、あわてて姉上が立ち上がった。
「わたくしがやります!」
「じゃあ、お願いするわ」
皆でお茶菓子に舌鼓を打ち、お茶で喉をうるおした後、改めて本題に入った。
「それでね、今日わたくしがロナルドさんたちを呼んだのは、マコーリー家の爵位のことですの」
「……爵位?」
「どうもその、あなた方の兄上は領地経営の手腕に問題がありそうな方、と伺いまして」
「……え」
そんなことを、なぜ女王陛下が知ってるんだ?
俺の背中に冷や汗が流れる。
まさか、マコーリー家から爵位を取り上げるとか、そんなことにはならないだろうな。
「ロナルドさん、爵位を継ぐご覚悟はおあり?」
「……はい?」




