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ロナルドとアデレイド 6

 さてその頃の王城では、エメライン女王が正式にアルフレッド王太子に王位を譲る日が近づいていた。


「大きな仕事は、あらかた終えましたわね」


「ああ、あとは君の退位式とアルフレッドの王位継承の儀を待つばかりだね」


 女王の私室で、エメライン女王とベネディクト王婿がのんびりと語らっていた。


 大きな仕事は終えた、とは言うものの、意外に小さな仕事がちょくちょく差し挟まれるため日がな公務に追われ、寝る前のこの時間にやっと一息ついたところである。


「もう小さい案件はアルフレッドに回して、そろそろ夫婦水入らずの時間が欲しいわ」


「君が欲しいのはそれだけじゃなくて、アルフレッドの婚約者と楽しく語らう時間も欲しいのだろう?」


「あら、わかる?」


「わかるさ」


 エメラインは、毎日この時間に夫と一緒に飲んでいるコーヒーを口に含む。

 深煎りしたコーヒーの香りを堪能し、カップを皿に置いた。


 夫から教わったコーヒーを初めて飲んだとき、なぜか懐かしさを感じたものだったが、前世を思い出した今はわかる。


 あの世界ではありふれた飲み物で、エメライン自身締め切り前にはよくお世話になったものだ。


(インスタントは確かに手軽だけど、豆から挽いて淹れてもらうコーヒーはやっぱり違うわー)


 改めて女王という立場の贅沢さを思う。


(コーヒー一杯で満足してる女王なんて、お手軽に過ぎるけどね)


「そうだ。一件気になった事案があったな」


 エメラインに話しかけるでもなく、(ひと)()ちる夫に視線を向けた。


「なあに?」


「ああ、いや……」


 夫が話し出したその案件は、むしろエメラインの友人と関わりのある人物にまつわるものだった。


 王都から馬車で一日半の距離にある男爵領の領民からの陳情で、次期領主に対する不信任の直訴という、少々不穏なものである。


 その領主の名は「マコーリー」。

 そう、領民に「NO」を突き付けられているのはシルヴィアとロナルドの兄であった。


 どうやら領地を継ぐ前から、かなり傍若無人にふるまっているらしい。


 彼が自分で選んだ例の婚約者も、次期領主という身分を嵩に無理やり決めたもので、彼女には元々別に将来を誓い合った相手がいたそうなのだ。

 それを引き裂いて自分の婚約者にしたものの、一度自分のものになると決まってしまうと扱いがぞんざいになる。

 シルヴィアやロナルドが、帰省した際に目にした通りだ。


 それにとうとう我慢できず、彼女の父親――その集落の代表を務めている――と元の婚約者が発起人となり、他の領民からの署名を集めて今回の直訴と相成ったらしい。


「ふー……ん?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべだした妻を見て、ベネディクト王婿が苦笑いする。


「なにやら悪だくみを思いついたようだね」


「あら、悪だくみなんて……。できるかぎり丸く収める方法ですわ」

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