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ロナルドとアデレイド 3

 わたくしはロングハースト家の長女に生まれました。

 男の兄弟がいないので、普通だったら一番年が上のわたくしが跡取りになると思います。


 でもお父様とお義母様が選んだのは、妹でした。

 二つ下の妹は、わたくしよりずっと頭がいいんです。


「お前は何をやらせても、だめだなあ」


 そう言うときのお父様は、怖くはないです。

 優しいです。

 でも頭を撫でられながら、わたくしは悲しく感じていました。


「せめて誰か身近に目標となる人がいれば、変われるのではないか?」


 お父様はそう仰って、わたくしをメリーローズ様のお友達にしてくれました。

 その前にも、他の同じ年の貴族の女の子たちとも会ってみたことはあるけど、なんとなく上手くいきませんでした。

 理由はわかりません。


 わたくしがバカだからかな、と思います。


 メリーローズ様はとても頭がよい方だそうです。

 そんな方が、わたくしのお友達になってくださるかしら?


 不安に思っていましたが、メリーローズ様はとても優しかったです。


 同い年だけど「妹ができたみたいね」と言ってくれました。

 その日からわたくしは、メリーローズ様が大好きになったのです。



 * * *



 アディが話してくれたロングハースト侯爵家の内情は、外からはわかりにくい複雑なものだった。


 アディの父であるロングハースト侯爵は、今の奥方と結婚する前に家で働いていたメイドと恋仲になり、アディが生まれたそうなのだ。

 侯爵のお父上はそれを怒ってアディの母親を追い出し、自分が決めた相手と結婚させたらしい。


 つまりアディの妹は侯爵の正妻の娘であり、アディは違う。


 アディは「自分がバカだから跡取りになれなかった」と言うけど、本当の理由はその辺にあるのではないか?


 少なくとも、もし俺がアディの立場だったらそう考える。

 そして拗ねて僻んで、大暴れだ。


 でも、アディは違う。

 跡取りになれない理由が自分にあると考え、家族を丸く収めている。


「お義母様は優しいし、妹はとっても可愛いです」


 アディはそう言うけど、本当のところはわからない。

 でも、アディがそうだというなら、納得するしかない。


 静かな池に外から石を投げて、波を立ててはいけないのだ。


 以前の俺なら後先考えずに侯爵家に突撃し、「本当のところは、どうなんだ?」と侯爵夫人に問い詰めていただろう。


 でも今の俺は、自分を抑えることができる。

 こんな風になれたのも、すべてアディのおかげだ。


 まあとにかく、アディが言うには自分に自信が持てなくて、プライドを保てる唯一のことが「自分は侯爵家のご令嬢」という身分だったのだという。


「だから、わたくし高等学院に来て生徒会の皆さんとお話しするようになる前は、低い爵位の方……男爵とか子爵の家の方とは、あまり口を利きませんでした。平民の方とお話するなんて、考えたことがありませんでした」


 ……ということだ。


「でも、メリーローズ様が『のぶ』を教えてくれて、皆さんとお話するようになって、自分は間違っていたんだなって思うようになりました。皆さんとお友達になれて本当によかったなぁ、と思います」


 わかる。わかるよ。

 人との出会いが自分を変えることがある。

 俺にはそれが、君だったんだ。



 * * *



 メルヴィン様が俺をアディとデートできるように、休暇と臨時の小遣いをくれた。

 同い年ながら気遣いができて、太っ腹な主人である。


 俺はありがたく二つとも頂戴し、生徒会室の隅にアディを呼んで話しかけた。


「チョコレートケーキを奢るよ」


「ええっ! 本当ですかあ! 嬉しい!」


 そう満面の笑顔で応えてくれたアディだったが、くるりと振り返ってこう叫ぶ。


「あ、メリーローズ様ぁ、ロナルドさんがチョコレートケーキを奢ってくれるそうです。一緒に……」


 ちょっと待ったあ!


「いや、アディ。そういう意味じゃ……」


 慌てる俺を見て、メリーローズ嬢の方が察してくれた。


「わたくし当分の間忙しいの。アデレイドだけでも、呼ばれなさい」


「そうですかあ……」


 しょんぼりと切なげなアディ。

 俺だって、切ない!


 でも気を取り直して、再度誘ってみる。


「ケーキの後は、バードウォッチングしないか?」


 途端にアディの顔が、パアァァ……と明るくなる。


「はいっ!」


 ……俺はアディにとって、小鳥以下かも知れない……


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