ロナルドとアデレイド 11 [終]
それからは順調だった。
一番大きい問題は兄貴の処遇をどうするか、ということだったが、とりあえず俺とアディの新居になる予定だった家と畑を譲ることにする。
両親が泣いて「ブレンダンを領地から追い出さないでくれ」と頼んできたからでもあるし、俺自身、兄貴をとやかく責められるほど、偉い人間でもないのはわかっているからだ。
最初、あの家に住むことになったと聞いた兄貴の反発は、激しかった。
俺にくれてやったときの様子しか知らなかったのだから、当然だろう。
両親に縛られるようにしてあの家に連れてこられたときの、兄貴の顔ときたらなかった。
「え……。ここ、本当にあの家か?」
壁も屋根も崩れ落ちかけ、およそ人の住める代物ではなかった家は取り壊され、瀟洒な建物に生まれ変わっていた。
畑も手入れされ、離れた川から水を引き、家の横には新しい井戸も完備している。
少ないながら、使用人も何人か雇う予定だ。
アディのため、少しでも住みやすいようにと大改造した家を、譲ってやるんだからな。
爵位と領地を継げなくなったダメージはまだまだ残るだろうが、兄貴が俺にしようとしたことと比べれば、雲泥の差だということは一応わかってくれたようだ。
結婚式の日取りも決まって、俺たちは幸せいっぱいだった。
ロングハースト家に挨拶に行ったときは緊張したが、想像もしていないくらい歓迎されて、驚いたほどだ。
「やはり、私たちが無理やり結婚相手を決めなくてよかった」
これは父上である、ロングハースト侯爵の言葉だ。
「実の母がメイドだったこととか、学校の成績とか、表面的な部分だけを見ると、アデレイドの本当の良さは理解されないからね」
「アデレイドさんは心根の優しい、素直な方ですもの。それをわかっていただくには、実際に会ってお話するのが一番ですわ」
これは、義理の母の侯爵夫人。
「ええっ! そんな風に思ってくださっていたんですかあ?」
褒められたアディは、大喜びだった。
「わたくし頭が悪くて、できそこないな娘だと思っていました」
「そんなこと、ありませんわ!」
侯爵夫人がアディを抱きしめる。
「お姉様。お相手の方、ハンサムね。とてもお似合いですわ!」
最後に半分血の繋がった妹が俺を褒めてくれた。
気を遣ってくれて、ありがとう。
家族と一緒にいるアディは、幸せそうだった。
よかった。
文句を言いに突撃しないで、本当によかった。
「あの、本当に俺……いえ、私でよろしいのですか?」
恐る恐る聞いてみたが、両親とも笑顔で頷いてくれる。
「アデレイドを、心から愛してくれる方にお願いしたいと思っていました」
「は、はい! 幸せにします! 幸せな家庭を築いていきます!」
周囲に祝福され、これ以上望めないほどの幸せに浸る毎日だ。
そして俺は今日もアディとお茶を飲む。
「わたくし、とても幸せですわ」
「うんうん、アディ、俺もだよ」
「ただメリーローズ様と少し離れてしまうことが、寂しいです」
「ああ。アディは本当にメリーローズ嬢が好きなんだねえ」
「はい! 初めて会った子供の頃から大好きですし、メリーローズ様が書いた本も大好きです。わたくし、あのご本を読んで、難しい言葉や字をたくさん覚えたんですよお」
へえ、勉強になる本なんだね。
「例えば、こんな難しい字も書けるようになったんです!」
『淫靡』
「いんび、っていう字なんですよお!」
……は?
「後はー……」
『卑猥』
え?
「ひわい、と読みます!」
「ち、ちょっと待って、アディ。これ、メリーローズ嬢が書いた本に出てくる言葉なんだよね?」
「はい、そうですよお!」
「アディ、そんな無邪気な顔で書く言葉じゃないんだけど……」
「そうですかあ? あ、それとこれが」
『挿入』
「そうにゅう、て読みまーす!」
待て!
我慢しきれず、とうとう俺はお茶を吹き出す。
今までで一番エロくないか?
言葉としては三つの中で一番一般的だけど、今までの流れを踏まえると、一番いやらしくないか?
というか、あの公爵令嬢は、俺の清らかなアディに、何を教えてくれやがってるんだーーーー?
「えーっと、これがあ『白濁』、これがあ『扇情的』、これがあ『喘ぐ』……」
俺の心の叫びが届いていないのか、アディは楽しそうに覚えた漢字を次々と書き連ねていくのだった。
【Happy End(多分)】
なんだか思ったより長くなってしまいましたが「ロナルドとアデレイド」はこれにて終了。
次回から「ミュリエルとフィルバート」を掲載します。
よろしくお願いいたします。




