第四話 価値と違和感
ギルドの建物を出ると、外は驚くほど普通の光景だった。
人が歩き、声が交わり、商人が客を呼び、冒険者らしき一団が笑いながら通り過ぎていく。
全員が、武器を持っている。
剣、槍、斧。背中に、腰に、無造作に下げられたそれらは、まるで鞄や道具袋と同じ扱いだった。
命を奪うためのものだという認識が、どこにも見当たらない。
――現実感がない。
自分だけが、舞台装置の中に紛れ込んだ観客のようだった。
作り物を眺めている感覚に近い。
「……本当に、皆あれを普通に持ってるんですね」
「ええ。冒険者ですから」
リシアは淡々と答えた。
「危なくないんですか」
「危ないですよ。だから装備します」
正論だった。
だからこそ、噛み合わない。
「……一人で行くものだと思ってました」
「今回は私が同行を認められている案件です」
「本登録前の対応は、職員が立ち会うことになっています」
「そう、なんですね」
それ以上は聞かなかった。
装備屋に入ると、店主がこちらを見て言った。
「その服、目立つな」
「ですよね」
「買い取れるが……血と破れが多い。銅貨一枚だ」
差し出された硬貨を見る。
価値は分からない。
「……これで、どれくらい買えるんですか」
「最低限だな」
「最低限、ですか」
それ以上の説明はなかった。
革鎧を渡される。
「重さは?」
「……分からないです」
重いとも軽いとも感じない。
ただ、持ててしまう。
「剣はどうだ」
握る。
違和感がある。
「使えないわけじゃないんですけど……しっくりこないです」
「槍は?」
「同じです」
「斧は?」
「……よく分からないです」
短剣を渡された瞬間、答えが出た。
「……これなら」
「理由は?」
「説明できないです。ただ……これだけは」
持ち方も、間合いも、考えていない。
それでも、身体が先に理解している。
「初心者にしちゃ、慣れすぎだな」
「……それで問題ありません」
リシアは短く言った。
銅貨一枚は、ほとんど消えた。
短剣と、簡素な革鎧だけが残る。
「これで準備は整いました」
「本登録は、ステータスが確認できればすぐ可能です」
「ですが、今の状態ではできません」
「……やっぱり」
「数値と構成に不自然な点があります」
「ただし」
一拍置く。
「Dランク以上の冒険者、もしくは一部のギルド職員が同行し」
「一定のモンスター討伐が確認できれば、本登録は可能です」
「だから装備が必要だったんですね」
「ええ」
短剣を腰に下げる。
「……戦ったこと、ないんですけど」
「それも含めて確認します」
通りに戻る。
武器を持つ側に立っているという事実だけが、静かに重かった。
リシアが歩き出しながら言う。
「では、ダンジョンに向かいましょう」
そう言われ、頷くしかなかった。
準備は終わっている。
それが、妙に早すぎるだけだった。




