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記録されない落下者 ~世界の外側から来た存在~  作者: 黒谷レイ
異変

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第二十話 制御

次回から毎週2回火金の更新になります

 地下の練習場は、思っていたよりも広かった。石壁に囲まれた空間は音が反響しやすく、床も壁も魔法の行使を前提に作られていることが分かる。人の気配はなく、外界から切り離されたような静けさがあった。


「まずは、何もせずに立ってみてください〜」


 ミレイアが軽い口調で言う。言われるままに立つと、彼女は一歩近づいた。


「呼吸を整えてください。無理に何かを探そうとしなくていいです」


 目を閉じる。自分の呼吸と、遠くで鳴る水滴の音だけが耳に入る。


「魔力は、使うときに生まれるものではありません〜。普段から体の中を流れています。川みたいなものですねぇ」


 流れ。血液とは違う、もう一つの巡り。


 だが、意識を向けても何も掴めない。


「……分かりません」


 正直に言うと、ミレイアは「そうでしょうねぇ」と笑った。


「では、少し手伝います」


 そう言って、彼女は俺の両手を取った。指を絡めるようにして輪を作り、ゆっくりと円を描くように回す。


「手の感触ではなく、自分の内側に意識を向けてください〜。今、私が流しているものと、自分の中の流れがどう重なるかを探してみてください」


 握られた手から、何かが伝わる。温度でも圧でもないが、確かに内側を巡る感覚がある。


 ぐるりと一周。もう一周。


 回すたびに、その“流れ”が輪郭を持ちはじめる。


「……何か、流れてるような感じがします」


「ええ、それです〜。今、私が少し魔力を流しています。それに引っ張られて、あなたの流れも分かりやすくなっているだけです」


 手を離されても、感覚は消えない。弱いが、確かに体の奥を巡っている。


「それが、あなたの魔力です」


 目を開けると、リシアが少し離れた位置で静かに観察しているのが見えた。


「次は、それを少しだけ外に出します」


 床に小さな石片が置かれる。


「ほんの少しだけ動かしてください。大きくは不要です」


 さきほど知覚した流れを意識する。掴むというより、向きを変える感覚で、床へと流す。


 石が、わずかに動いた。思ったよりも横にずれる。


「成功です〜。ただし、精度が甘いですねぇ」


 もう一度試す。今度は流れを細く整えてから送り出す。石は狙いに近い位置へ動いた。


「今、使ったと分かりますか?」


「……分かります」


 昨日までとは違う。今は、自分で動かしたと理解できる。


「消耗は?」


 体内の流れを意識すると、ほんのわずかに細くなっている気がした。


「少しだけ、減った感じがします」


「それで正常です〜」


 ミレイアは石を四つ並べる。


「同時にいくつ動かせますか」


 流れを分ける。一つ、二つ、三つ。四つ目で揺らぐ。石が不安定に震える。


「四つが限界ですねぇ」


 ミレイアが整理する。


「手のひらサイズ。最大四つ。同時操作可能。直接攻撃はできません。押し出す力は弱いです」


 試しに石を跳ね上げようとするが、高くは持ち上がらない。


「あなたの魔法は接触なしで発動しています。これは例外です。無意識でも発動していた可能性があります」


 昨日の戦闘を思い出す。ただ崩したいと思っただけだった。


「制御されていないのに発動するのは危険です」


 声は穏やかだが、内容は重い。


「私の仕事は強くすることではありません。暴走させないこと。安全に使えるようにすること。それだけです〜」


 リシアが記録を閉じる。


「制御可能と判断できます」


 ミレイアが頷く。


「今日のところはここまでです。少しの間、ここで練習しましょう〜。戦闘に組み込める形にします」


 練習場を出るとき、もう一度床を見る。土は、ただの地面ではない。触れなくても動かせる。だが、思い通りになるわけでもない。扱い方次第だということだけが、はっきりと残っていた。

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