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記録されない落下者 ~世界の外側から来た存在~  作者: 黒谷レイ
終わり損ねた始まり

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第十五話 聖堂騎士団

 視界が白から戻ったとき、最初に感じたのは空気の冷たさだった。


 地下とは違う。

 湿り気のない、乾いた外気が肺に入り、喉の奥がわずかに痛む。


 俺たちはダンジョンの外に立っていた。


 背後には、黒く口を開けた入口。

 内部の気配は遮断され、さっきまでの戦闘や異様な静けさが嘘のように感じられる。


 足元の感覚を確かめるように、無意識に体重をかけ直した。

 地面は固い。揺れない。

 確かに――戻ってきた。


 だが、安堵が広がる前に、それは起きた。


「動くな」


 低く、よく通る声だった。


 同時に、視界の端で人影が動く。

 複数。数は一つではない。


 俺が反応するより先に、リシアとグランが前に出た。


 二人とも、武器を構えはしない。

 だが、明確に武器へ手をかけている。


 グランの斧は、いつでも振れる位置。


 戦闘態勢ではない。

 だが、警戒を解いてもいない。


 俺もようやく状況を理解する。


 正面。

 ダンジョン出口を半円状に囲むように、人が立っている。


 揃った白と銀の装備。

 胸元には、聖堂の紋章。


 「……聖堂騎士団です」


 小さく、だが即座にリシアが言った。


「王都直轄の武装組織で、ダンジョン対応の正式戦力です」


 声に緊張はない。

 説明する口調だった。


 その中央に、一人だけ異質な男がいた。


 他より一歩前。

 武器を抜いていない。


 だが、そこに立っているだけで、場の主導権が完全にそちらにある。


「……あの方が、隊長のレオニスです」


 リシアの声が、わずかに低くなる。


「聖堂騎士団最強と公式に定められている人物です。

 対魔物戦、対異常個体、すべての記録で単独討伐を成立させています」


 事実を並べているだけだった。

 評価も感情もない。


 レオニスは、三人を順に見てから口を開いた。


「――ダンジョン内で異常反応が出た」


 淡々とした声だった。


「ボスが現れたらしい。これ以上、深入りする必要はない」


 命令口調ですらない。

 既に結論が出ている言い方だった。


「下がっていろ」


 それを受けて、グランが一歩だけ前に出る。


「……いや、もう終わってる」


 短く、だがはっきりと。


 レオニスの視線が、わずかにグランへ向いた。


「内部でゴブリンロードを討伐した」


 一瞬、空気が止まる。


 レオニスは、即座に否定もしない。

 だが、信じてもいない。


「確認できるものを出せ」


 感情のない声だった。


 要求であり、手順だった。


 グランが一瞬だけ俺を見る。


 俺は、何も持っていなかった。


 短剣。

 装備。

 それだけだ。


 戦っていた自覚はある。

 だが、それを示せる形がない。


 そもそも、何を出せばいいのかすら分からなかった。


 リシアが一歩前に出る。


 腰のポーチから、包みを取り出した。

 布を解くと、中から結晶が現れる。


 淡く光り、内部に力が籠もっているのが分かる。


 俺には、それが何なのか判断できなかった。


 だが、レオニスはそれを受け取り、軽く持ち上げただけで頷いた。


「確認した」


 それで終わりだった。


 詳細を聞かない。

 誰がどう戦ったかも問われない。


 それが、証明になるものだということだけは、雰囲気で理解した。


「討伐は成立している」


 そう告げて、レオニスはそれを部下に渡す。


「記録はこちらで処理する。お前たちは下がれ」


 形式通りの言葉。


 だが、その中に評価も関心もない。


 俺の方を、一度も見なかったわけではない。

 視線は確かにこちらを掠めた。


 だが、それだけだ。


 名前を聞かれない。

 所属も、役割も問われない。


 俺は、ただそこに立っているだけの存在だった。


 聖堂騎士団が陣形を崩し、道を開く。


 用は終わったという合図。


 グランが小さく息を吐いた。


「……行こう」


 誰も異論を挟まない。


 俺たちは、そのままその場を離れた。


 背後で、騎士団の声が淡々と指示を飛ばすのが聞こえる。


 だが、それはもう俺たちの関与する領域ではなかった。


 振り返らずに歩く。


 足取りは重い。

 だが、止まる理由もない。


 討伐は成立した。

 地上に戻った。


 それだけが、事実だった。


 俺は、何も残していない。


 それもまた、確かな現実だった。

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