第十二話 恐怖__
ゴブリンロードの攻撃は、躊躇がなかった。
踏み込みは重く、速い。
床を蹴る音が響く前に、棍棒が迫る。
リシアが動いた。
受けない。
防がない。
ただ、半歩ずれる。
棍棒は肩をかすめる距離を通り、床を叩いた。衝撃が走り、亀裂が広がる。
――わずかに当たらなかっただけだ。
俺の目には、そう見えた。
当たれば致命傷は免れない攻撃だ。
「……怖く、ないのかよ」
気づけば、口に出していた。
問いかけというより、純粋な疑問だった。
グランが即座に答える。
「怖いに決まってる。」
間を置かない。
「だがな、相手も似たような状況だと考えたらどうだ」
斧を構えたまま、視線は外さない。
「逃げ場がなく、引けないのは向こうも同じだ」
その言葉が、胸に残る。
追い詰められているのは、自分たちだけじゃない。
ゴブリンロードは、俺を追っている。
それ以外を切り捨てている。
だから止まれない。
だから引けない。
それは、こちらと同じだ。
リシアが再び動き、グランが圧をかける。
だが、崩れない。
追尾は続く。
俺は、何もしていない。
逃げてもいない。
だが、見ているだけだ。
このまま、どうなるかは分かっている。
胸の奥に、重たい感覚が溜まる。
怖い。
それでも――
何もできないまま、死にたくない。
それだけが、はっきりしていた。
もう一度、強く短剣を握り直す。
一歩、前に出る。
ゴブリンロードを見る。
正面から。
空気が変わる。
殺気が、こちらに集中する。
その変化に、リシアとグランが気づいた。
2人から声はかからない。
ただ、察した。
――動く気だな。
俺は、もう逃げない。
戦場に立った。
それだけで、世界の見え方が変わった。




