第十話 重なる不安
奥に進んでいくにつれ通路は少し広くなっていた。壁同士の距離にも余裕がある。視界が開けているにもかかわらず、圧迫感だけが増していた。足音が反響し、魔力の濃度が肌にまとわりつくように感じられる。
「……来ます」
前を歩くリシアが、短く告げた。
直後、曲がり角の向こうから魔物が現れた。三体。種類は第五階層で確認されていた群生型の個体だが、動きがおかしい。
連携がない。間合いもバラバラで、互いを庇う素振りも見せない。
「統率が取れてないな」
グランが低く呟き、斧を構える。
「本来なら、こいつらは必ずリーダー個体を中心に動く。先導役を欠いたまま前に出てくるなんて、異常だ」
リシアが一歩前に出る。盾を構え、正面から注意を引きつけると、グランが側面から踏み込んだ。
斧が振るわれ、一体目が崩れる。残りは怯えたように動きを止め、次の瞬間には各々が勝手な方向へと散った。
「……逃げる?」
「違う。判断できてないだけだ」
二体目はリシアが確実に仕留め、最後の一体は通路の奥へ走ろうとして、途中で力尽きた。
戦闘は短かった。だが、違和感だけが残る。
「数が少ない」
リシアが周囲を確認しながら言う。
「群れなら、最低でも倍は出てくるはずです」
グランが斧を肩に担ぎ、通路の先を見る。
「上では本来あるはずのない転移罠、群れのリーダー不在……か」
その先で、通路が緩やかに下へと続いているのが見えた。
「第六層への道だ」
階層境界特有の魔力の流れが、はっきりと感じ取れる。
降り始めた途端、空気がさらに重くなった。
息が詰まるほどではないが、確実に第五層とは質が違う。リシアが足を止め、眉を寄せる。
「……魔力が、濃すぎます」
「第六層なら、こんなもんじゃないのか?」
グランの問いに、リシアは首を横に振った。
「ええ。でも、これは自然な濃さじゃない。偏りがあります」
まるで、どこか一箇所に集められているような――。
説明されても、正直よく分からない。だが、二人の反応が一致して警戒を強めていることだけは理解できた。
「……それは、どういう…」
そう言うと、リシアは一瞬だけ視線を伏せる。
「断定はできません。ただ……」
少し間を置いて、静かに続けた。
「何かが、起きているようです」
通路の先は、まだ見えない。
だが、戻るという選択肢が消えつつあることだけは、誰の目にも明らかだった。




