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よくある学校の教室より少し小さめの部屋には、それこそ教室のように長机と椅子が右向きに並べられており、ほとんどの席にはもう参加者が着席していた。
遅刻ではないものの、なんだか出遅れたように感じて、狼狽えてしまう。
けれど、それよりも私をぎょっとさせたのは、天井にも、床にも、隙間なく並べられている色とりどりの風船だった。
その大掛かりで華やかな装飾は、さながら誰か有名人のパーティー会場のようで、緊張の面持ちで着席している入社試験参加者とはミスマッチすぎる光景だった。
天井にくっついているのは、おそらくガスで浮かばせているのだろう。
ぎゅうぎゅう詰めの風船たちは、ほぼほぼ固定されているかのように部屋を見下ろしている。
一方、床に転がっている風船は、開いた扉のせいでふらふらと右へ左へと揺れたり浮かんで転がったりしていた。
赤、青、黒、紫、白、緑、グレー、紺、ゴールド、ピンク…………
カラフルな風船の海と空にはさまれて、他の参加者たちのほとんどが黙ったまま、扉口で立ち竦んでいる私に注目してきた。
なんだか値踏みされてるような眼差しに、さらに足がすくむ。
私はそれらの視線から逃れるように、今一度、部屋の様子を見渡した。
このカラフルな風船たちは、いったい入社試験とどう関係してくるのだろう?
どんなに驚いても声を出してはいけないというルールとも、関係してくるのだろうか?
入社試験会場としては異様とも言える雰囲気に戸惑っていると、一番手前、扉に最も近い席に座っていた女性が、私のジャケットの袖をクイクイ、と引っ張ってきたのだった。
「―――っ?」
声を発さないまま驚きの顔を向けると、ショートヘアの大人っぽい女性が自分の隣の席を指差していた。
きっと、ここが空いてると教えてくれてるのだろう。
私はぺこりと頭を下げて、ありがたくその席に着くことにした。
慎重に、慎重に、床の上に転がる風船を踏まないように注意しつつ、テーブルをまわっていく。
「…………」
女性の隣に辿り着き、声を出せないのでもう一度頭を下げて礼を伝えた。
愛想よく頷いてくれたその女性は、リクルートスーツを着ていた。
彼女は私が風船を避けながら椅子を引いて腰を下ろすまで、じっと見ていたけれど、着席した私と目が合うと、唇の端を持ち上げて、スッと前を向いた。
さっき私に集まっていた注目はもう散らばっていて、私は目立たない範囲で周囲を観察してみた。
そして、私と同じ最前列に、あの横断歩道で会った男性を見つけたのだ。
つまり、駆け足でここに急いだ私以上に、彼の足の方が速かったというわけだ。
彼の横顔はやはり無表情で、足元に転がる風船などまったく目に入ってないかのように、足を組み直したりしていた。
やがて、さっき私が入室した扉が開き、社員と思しき男性が二人、部屋に入ってきた。
その反動で床の風船が波を打つ。
カラフルな波しぶきに目を奪われるも、その向こうに現れた人物が視界に入るや否や、私は声をあげそうになってしまった。
二人のうちひとりが、律ちゃんだったからだ。
ぎりぎり声は飲み込めたけれど、心臓はバクバクとうるさく叫びはじめていた。
律ちゃんがこの部屋に入ってきたということは、まさか律ちゃんが入社試験の担当者?
でも律ちゃんが人事部なんて聞いてなかった。
それに、さっき律ちゃんはあの男の人を探してMMMコンサルティング本社ビルとは反対の方に走っていったはずなのに、こんなに早く戻っていたなんて。
その後に会った無表情の男の人といい、みんなそんなに足が速いんだ……とおかしな感心をしながらも、さっきは慌ただしくてちゃんと見ていなかった律ちゃんのスーツ姿にさらに心臓の叫びが大きくなった。
今日は平日で、MMMコンサルティングも通常業務だとは聞いていた。
そして、基本は私服OKでも、仕事内容によってはスーツ着用の男性社員もいるし、管理職になってくるとその割合も高くなってくるとも聞いていた。
事実、私にはリクルートスーツを着ていかない方がいいとアドバイスくれた律ちゃんは、私が見かけるたびにスーツを着て出勤していたのだ。
仕事内容によって出勤時間にばらつきがあるらしく、学生の私とはあまり出かける時間帯が重ならなかったけれど、たまにスーツ姿の律ちゃんと会えたときは、ご褒美をもらったような気分だった。
背が高くてスタイルのいい律ちゃんは、スーツがとても似合っていてかっこいいのだ。
だけど、律ちゃんに見惚れる時間はすぐさま終了となった。
「やあ諸君!」
律ちゃんでない方の男性が部屋中に声を響かせたのだ。
もとより二人に意識を注いでいた参加者たちも、急な大声にビクリと反応した。
「時間になったので、そろそろMMMコンサルティング入社試験をはじめようか」
フランクな物言いの男性も、きっとMMMコンサルティング社員なのだろう。
にこにこ顔で楽しげに声を張り上げる様子は、テーマパークのスタッフ以上かもしれない。
律ちゃんと同じくスーツは着用しているものの、ノータイでジャケットのボタンも外している。
律ちゃんと同年代にも見えるけど、気安そうな態度と口調はもっと若くも感じられた。
ただ、そんな若さで入社試験なんて任されるのかは不明だ。
でもMMMコンサルティングは学歴問わずで、義務教育を修了した成人なら入社できるのだから、もしかしたら若く感じてもキャリアは長いのかもしれない。
「これから用紙を配布するから、一枚取って、後ろの人にまわしてくれるかい?」
その男性社員は参加者をざっと見まわしながら説明したが、私と目が合った刹那、にこにこ顔が一時停止した。
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