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「それはそうかもしれませんが……」

「だったら問題なし、だよね?ま、きみが反対しても上司命令でやっちゃうけどね。さあさあ、みんな集まって」


紫間さんが5人を手招きし、真っ先に緑堂さんが「楽しみですこと」と喜々と立ち上がった。

彼女に続いて紺咲さん、そして紺咲さんに誘われるように灰霧くんがこちらに移動してきて、もとから隣のソファに座っていた白蘭さんと青街さんは体をひねって私の方に乗り出してくる。

全員が、紫間さんの持つカードに熱い視線を注いでいた。



「いいかい?それじゃ、きみたちも『M』の反対側が白紙であることを確認してくれるかい?」


紫間さんは左右に腕を振り、何も書いてない方の面を5人に示した。

そして、私にも。


確かに、そこにはMMMコンサルティングの情報は何ひとつ記されていない。

真っ白だ。



「じゃあ紅守さん。このカードを、受け取ってくれるかな?」


紫間さんは白紙の面を上向けたまま、私に差し出してきた。

名刺サイズほどの小さな紙片。

私はもう同じものをすでに律ちゃんからもらっていて、そのときは、手にしたとたん何かが起こるなんてことはなかった。

でも今は、何かが起こるのだと予告されているわけで。

そのうえ、この部屋にいる全員から注目された状況で。


ズキリと、鳩尾(みぞおち)が痛んだ。


このカードに触れて、何かが起こっても、逆に何も起こらなくても、怖い。

だってその場合、律ちゃんの言ってたことが嘘になってしまうのだから。

律ちゃんは、私がこのカードを渡されたあと、すぐにすべての文字が現れたのだと言っていたのに。



…………どうか、律ちゃんの迷惑になるようなことにはなりませんように



そう祈りながら、恐る恐る、紫間さんの握るカードに手を伸ばした。


すると、受け取るよりも早く、ほんのかすかに指先がカードに触れた瞬間、カードにパッと文字が並んでいたのだった。


「―――っ!!」



それは、テレビのチャンネルが切り替わるときのように一瞬の変化だった。

チューニングするような余白のない、見事なまでのあっという間だったのだ。



狼狽えた私はうっかりカードを落としそうになってしまったけれど、不思議と、カードは私の指先から離れず、私は急いでぎゅっとカードを握った。

すると紫間さんがクスクス笑いだしたのだ。


「ごめんごめん。やっぱり驚かせちゃったかな?でも慌てなくても大丈夫だよ。もうそのカードの所有者はきみなんだから、もしカードを落としても失くしても、いつの間にかきみの元に戻っているはずだ。きみが黒凪くんからもらったカードと同じようにね。さて、きみたちもちゃんと確認できたかな?」


私以外の5人に問いかけた紫間さんだったけれど、5人……特に免疫がある方の3人は私以上に驚愕しているようだった。



「…………驚きましたわ。本当に、このようなことがございますのね………」


緑堂さんはベレー帽の乗ったふわふわな髪を揺らし、まだ信じられないと言いたげだ。


「我々はそんなに ”魔法” については知りませんが、自分達の時とは全然違うので驚いてます。灰霧くんもそうだろう?」

「うん」


紺咲さんに並んで灰霧くんは楽器ケースをしっかり抱きしめていた。


マスクの白蘭さんは一心不乱に私の手の中のカードを見つめていたけれど、青街さんだけは、驚きよりも訝しそうに紫間さんに尋ねたのだった。



「確かにこの文字は俺にもはっきり見えます。でも彼女は、そんなに強い力を持っているようには感じませんが?」



青街さんの疑問に、緑堂さんも「それもそうですわね」と優雅に同意してみせる。

紫間さんは


「ああ、きみ達はそれ(・・)がわかるんだったね」


と返してから、免疫薄めの私達に顔を向けた。



「長い間 ”魔法” の近くにいるとね、相手の力の強さを感覚で察することができたりするんだよ。まあ、これも人それぞれで、全然ピンとこない者もいるみたいだけどね。ただこの二人に関しては、生まれたときから家族全員が ”魔法使い” という環境だったから、自然と感じられるようになったんだろうね。あ、補足説明しておくと、家族や親戚程度の人数では、いくら ”魔法” で癒し合っていたとしても、そこまで年の取り方はゆるやかにはならないんだよ。せいぜい、実年齢より若く見える程度かな。それに、もし ”魔法” を使わないのであれば、癒し合う効果もそんなに大きくはないからね。まあ、風邪をひきにくいとか、疲労回復がはやいとか、それくらいの影響はあるかもしれないけど、非魔法使いの世界で不審がられることはないはずだ。だからこの二人も、”魔法使い” の家族や親戚に囲まれながらも、非魔法使いと似たようなスピードで成長してこられたんだよ。でもMMMコンサルティングで働き出すとまわりは ”魔法使い” だらけになるからね、癒し合いもスケールが……おっと、話を戻そうか。それで、二人が言うには、紅守さんにはそこまでの強い力を感じないと。なのに、カードは一瞬で全表示になった………それが不思議だと。青街くん、緑堂さん、そういうことだよね?」


紫間さんがパッと顔をまわし、名指しした二人に笑いかける。



「え…ええ、その通りですわ」


ちょっと動揺したように緑堂さんは答えたけれど、青街さんはまったく表情を動かさずに、ただ真剣に、紫間さんを見返した。


「何か、理由があるんですよね?」

「んー、まあ、そうだね。というか、きみだってもうわかってるんじゃないのかい?きみが今までに相手の力を正しく察知できなかったのは、どういうときだったかな?それを思い出せば疑問は自ずと解決するはずだよ」


紫間さんは意味ありげにニッと口角を上げた。

けれど、青街さんは無表情の鍵を解いて紫間さんに問い詰めたのだ。



「まさか、自分自身で調整したっていうんですか? ”魔法” のことを

何も知らなかった彼女が?」

「それしか考えられないだろう?」

「でもあれ(・・)は相当な技術が必要なはずです。それを、まったくの無自覚でやっていたというんですか?」

「そうだよ?なにしろ、紅守さんはあのカード(・・・)を最初から全解除したんだよ?そんな紅守さんなら、きみが相当な技術だと言った ”魔法” だって、もしかしたら誰の教えも受けなくても自己流で簡単にできてしまうかもしれない。しかも無意識のうちにね。それほどに彼女の力は強い上に未知数だということだよ」



どこか嬉しそうに語る紫間さんに反して、青街さんはまだ信じられない、信じたくないといった様子だ。

当事者である私を蚊帳の外にして、二人の応酬はまだまだ続きそうにさえ思えた。

けれどこれに意見を放ったのは、青街さんと同じく魔法使い一族出身である緑堂さんだった。



「青街様、もうよろしいのではなくって?そうしませんと、話がちっとも進みませんことよ?」











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