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「そもそも、不思議な力は無尽蔵に使えたわけではなくて、個人差はあるものの、一度使うとそれなりに疲労するものだったんだ。人によっては一日寝込む者もいたくらいだからね。ところが、不思議な力を使う者同士が集まっていると、その疲労から回復する速度が段違いに早いということに気が付いたんだよ。強い者が近くにいる場合は尚更だった。彼らはそれを、癒しの力と呼んだ。そしてそのうち、その癒しの力が人一倍強い者も出てきた。彼らは仲間の傷を治し、痛みをやわらげることができた。当時、まだ世界には現代医学なんて存在してなかったからね、どうしてそんなことができるのか、まさに不思議でしかなかった。ただ、望むと望まざるとにかかわらず、不思議な力の使い手達は、その力によって互いに癒しの影響を受け合い、普通の人間ならかなりのダメージを受けるものでも彼らはノーダメージになって、余計なエネルギーを使わなくて済むようになった。それがいわゆる体時間の老化速度をゆるやかにさせてるのではないかと、彼らはそう仮説を立てたんだ。つまり、完璧な不老ではなく、とてつもなくゆっくり年を取っていってると考えられたんだよ」



紫間さんは三本の指を下ろし、私達の座るソファの間を縫うように歩きはじめた。



「後になって、医学というものが発達した頃、専門家達が様々な角度から調査した。それによると、彼らの仮説はほぼ正しかったことが証明された。我々の老化は、細胞レベルで非常に遅いものだということがわかったんだ。それが、年を取らないように見える最大の理由だと、今の我々の間では考えられている。ただ、彼らの仮説と一部異なっているのは、力の強さによっては完璧な不老も不可能ではないということだった。つまり、永遠に年を取らないことも可能なんだよ」



永遠に…………


ゾクリと、何かが背中を通り抜けた感覚がした。

単純な驚きなのか、それとも恐怖の類いなのか………


するとちょうどそのとき紫間さんが私の前に移動してきて、ふと立ち止まった。

そして


「ねえ紅守さん。永遠に年を取らない、もしくは普通の人よりもとんでもなくゆっくり年を取るというのを、別の言い方で言ってみて?」


ふわりと軽やかに、まるで歌うように問いかけてきたのだ。



「それ……は………」


突然質問された私はどぎまぎしたけれど、パッと頭の中に浮かんだことを口にした。


「…………ずっと若い……ということですか?」


紫間さんは大きく目を見開いて。


「ピンポンピンポーン!大正解だよ」


大げさに手を叩いてみせた。


「それじゃあ、普通に年を取っていく人達は、ずっと若い人達を見て、どう思ったと思う?紺咲くん、答えて」


私にくるりと背を向けた紫間さんは、おそらく私以外の5人の中では一番年上と思しき紺咲さんに尋ねた。



「そうですね………羨望、嫉妬、でしょうか?」

「ピンポーン!またまた大正解だよ」


私のときと同じように、パチパチと拍手する紫間さん。

そのままニコニコと話し続けた。


「本来、老いは誰にでも平等に訪れるものだからね。権力者も貧しい者も、それだけは平等なはずだった。だけど、そうでない者達が現れた。しかもその者達は、自分にはない不思議な力を持っている。人々は、かつて自分達の先祖にもその不思議な力があったことを知らず、協力関係であったことさえ忘れ、ただ羨み、妬むようになっていった。長い年月を経て、当初はさほど変わらない数だった三つのグループも大きく様変わりしていたからね。不思議な力を育てていたグループは、他ふたつが合わさったことにより、すっかり少数派になっていた。多数派から妬まれた少数派………そのあとどんな展開があったかは簡単に想像つくだろう?」



相変わらずニコニコ顔の紫間さんに反し、私はごくりと喉を鳴らし、心を構えた。



「迫害されたんだよ。不思議な力を持つ者が、不思議な力を持たない者達にね」




迫害。

あまりに強烈な言葉の登場に、律ちゃん以外の全員から動揺の影があがった。


けれど紫間さんはそんな私達を面白そうに…いや、面白そうというのは語弊があるかもしれないけど、なんというか、飄々と、笑みを崩さずに追加の説明をしたのだ。



「おっと、迫害って言うとちょっと物騒なイメージだけど、そこはほら、不思議な力があるからね。命の危機を感じるようなことはあまり多くはなかったんだよ?そこはそんなに心配しないで大丈夫。せいぜい、化け物と呼ばれて石を投げられたり、無実の罪で捕らえられたりする程度だったかな」



やはり飄々と被害を訴える紫間さん。

でも私をはじめ誰もが、その程度(・・・・)だなんて思えなかったようだ。

表情を曇らせる私達に、紫間さんは「ほらほら、そんな顔しないで」と大きな身振りで語りかけた。


「だってほら、不思議な力があるんだよ?捕らえられても脱出する術はいくらでもある。そうだろう?例え、捕らえられた本人にそこまでの力がなかったとしても、仲間の誰かが助けにいけば問題ないわけだし。魔女狩りのようなことにはならなかった。ただ、嫌な思いをするようになってからは、それまでのように表では…特に人前では不思議な力を使わないようになっていったんだ。そうすると、普通の人とほとんど変わらない暮らしを送る者も増えていって、やがて、仲間同士で集まる機会も減っていった。そしてそういう者達は、癒しの影響を与え合うこともなく、普通に年老いていった」



紫間さんはまたソファの間をゆっくり移動しはじめた。



「ちなみにさっきから ”不思議な力” という言い方をしているのは、この時点で、まだ定まった名称がなかったからだよ。”魔法” という言葉も概念もまだなかった時代だからね。まあ、そのせいもあったんだろうね、その後、表で力を使わなくなっていった者達は、人目を避けるように少数のグループに分裂していったんだけど、彼らは各々 ”不思議な力” の呼び方を変えていったんだ。呪術、妖術、幻術、占い、まじない、異能、数多くのカテゴリーが生まれていった。人数はかなり減っていたけれど、その分、うまく一般社会に溶け込みやすくもなった。ほとぼりが冷めてくると、彼らは自分達の持つ不思議な力を利用して、それを生業としていたんだ。本来人間は…特にこの国の人達は、目に見えないものにも畏怖だけでなく、日常のものとして敬意を持ちながら共存する傾向にあったからね。いつの時代も、人々は占いを好んだし、ただの偶然に何かの意味を紐付けたがった。まあ、それを実際に目にすると、化け物と言って全力で拒否してくるんだけどね」



自分勝手だよねえ?そう思わないかい?


同意を求めてくる紫間さんに、返事する声はあがらなかった。

紫間さんは気にせず、ゆらゆらと歩行しながら話し続けた。



「でも、だったら実際に見せなければ問題はないわけだ。そう考えた彼らは、実にうまく立ち回った。中には、(まつりごと)に関わる者も現れはじめた。占いやまじないを好むのは平民だけではなかったんだ。だけど、彼らの不思議な力は、やがて、他の者も知るところになってしまった。権力を持つ人間達が、逆に彼らを利用しはじめたんだ。そしてそれは、戦争という最悪の舞台に場所を移すこととなった」












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