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指定された部屋に入ると、さっきとは違い、コの字型に三台の長テーブルが並べられていて、それぞれ2名ずつが席に着けるようになっていた。
すでに5名が着席しており、空席はひとつしかない。
私はそこに座るしかないのだけど、その隣はあの無表情の男性だった。
にわかに躊躇ったものの、その男性以外の全員が扉口の私を見てきたので、その注目から逃れるように私は俯きがちに空席に向かった。
「…………失礼します」
なんとなくそう言って、残る一席に腰を下ろす。
どうやら私が最後のひとりだったらしく、私が席に着くと開きっぱなしだった扉がパタンと閉じられた。
私の右側、扉に一番近い端の席に無表情の男性、隣のテーブルに移って私の左側にはマスクを着用した若い男性、その向こうにはふわふわの髪にベレー帽をかぶった若い女性、その隣のテーブルには私よりも少し年上に見える落ち着いた大人の雰囲気の男性、そして最後はテーブルの上におそらくバイオリンか何か楽器のケースを置いてる小柄な少年が席に着いていた。
私を入れて、全員で6人。
私みたいにジャケット着用の人もいるけれど、ノータイの綺麗めカジュアルといった感じで、どれもリクルートスーツとはかけ離れている。
小柄な少年はジャケットではなく薄手のロングコートを羽織っているし、私以外の唯一の女性は、ベレー帽にケープワンピースといった、品はあるものの入社試験ではあまり見かけない装いである。
そのベレー帽の女性は、私が部屋に入ってくる前に、自分の左隣の大人の男性と話していたようで、私が席に着くのを見届けると会話を再開していった。
「………それでは、お二人はもともとのお知り合いということですわね?」
「そうなんです。高校の教え子と教師という関係でしたので」
女性が外見に似合った……いや、それ以上に上品な口調で問いかけると、大人の男性も外見の印象通りに穏やかな話し方で説明した。
「まあ、そうでしたの?先生と生徒さんが同じタイミングでMMMコンサルティングに入られるなんて、奇跡としか言いようがございませんわ」
「そうですか?でもまだ入社できると決まったわけではありませんから。もしそうなれば、すごく嬉しいことですけどね」
「あら、でもお二人ともカード組なんですから、もう入社試験はパスしたも同然ですわよ」
「え、そうなんですか?」
男性が驚いたように問い返したけど、私もまったく同じ心境だった。
けれど、そのあと急に女性の声がボリュームダウンしていったので、はっきりと聞こえなくなってしまったのだ。
「ええ。わたくしは…………ですから…………ございませんの。もちろん…………………存じ上げて…………………ではなくて?」
女性が良家のお嬢様のような言葉遣いだということ以外は、何も伝わってこない。
大人の男性の隣にいる少年はつまらなそうにしているものの、ちらちらと二人の方を気にする仕草があった。
私は二人の会話に聞き耳を立てるのは諦め、ジャケットのポケットから例のカードを取り出し、テーブルに置いた。
すると、両隣りから鋭い視線を感じた。
けれど…………二人は視線を寄越しただけで、うんともすんとも言わず、その視線を解除してしまう。
右に無表情、左にマスク…………どちらも、無口らしい。
……………寡黙キャラは、1グループにひとりでいいのに。
心の中で悪態ついたとき、音もなく扉が開いたのだった。
部屋に入ってきたのは、さっきのフランクな男性社員と律ちゃんだった。
律ちゃんは、私がちゃんといることを確認するようにちらりとこっちを見て、そっと眼差しをやわらげた。
フランクな社員が私達の前に立ち、律ちゃんがやや後ろに控える。
「やあ、お待たせして申し訳ないね。まずは一次試験通過おめでとう。僕は今年の入社試験を担当する紫間 斎。そっちは黒凪 律。二次試験が終わるまでのきみたちのサポート役だよ。まあ、二次試験といっても、ほとんど入社前研修みたいなものだから、合否は気にしないでリラックスして臨んでほしい」
フランクな社員…紫間さんがそう告げると、私、大人の男性、そして少年の3人が驚いた反応をした。
一方、ベレー帽の女性は納得顔で頷いていたけれど、私の両隣りの男性は相変わらず黙したままだった。
「ん?どうかしたのかな?」
紫間さんが問いかけたので、大人の男性がスッと挙手し、質問した。
「ほとんど入社前研修みたいなもの…とは、どういうことでしょうか?このあとの二次試験で不合格者は出ない、という理解でよろしいでしょうか?」
「うん、その通りだよ。きみたちはもうカードを持っているからね。それを渡されたときにある程度の説明はもう受けているだろう?」
紫間さんはさも当たり前のようにそう仰ったけれど、私はあのカードを律ちゃんからもらったとき、ただ、紹介状や推薦状みたいなもの、としか知らされていないのだ。
それ以外に、何か意味があるのだろう?
でも今の紫間さんの口ぶりでは、もっと重要なことが含まれてるようにしか聞こない。
私もさっきの男性のように挙手して質問すべきか迷っていると、律ちゃんがまた私をちらりとうかがってきた。
そのときだった。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!!」
「うわあぁぁぁぁぁっ!!!」
銃声のような音に続いて複数の人の悲鳴が部屋の外から響いてきたのだった。
けれど、この音に大きく動揺したのは、やっぱり私と大人の男性と少年の3人だけだったのだ。
他の3人と、前にいる律ちゃんと紫間さんは、微塵も驚いた素振りを見せなかった。
それどころか紫間さんは「驚かせて申し訳ないね」と、私達ににっこり笑いかけてきたのである。
その明るく柔らかな態度は好感しか抱かないはずなのに、どうしてか、胸が騒いでしまう。
そしてそんな私に追い討ちをかけるように、紫間さんが言ったのだ。
「ほら、うちって魔法使いの会社だろう?だから入社試験ではいつも何かが起こるんだよね」




