表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

ep.8

「さ、次は二番目のビルね」

 口調は明るいが、先程までとは打って変わって、玲奈が静かに告げる。目にも緊張がある。


「さっきもそうだけど、各地点には必ず警備がいる。今までは、調査の邪魔くらいにしか思ってなかったけど、中にあるのがアレなら納得ね。間違っても一般人を入れるわけには行かないもの。寧ろどうして一人しか置かないのか、そっちの方が疑問だわ。人手不足なのかしら?」


「最後の所には二人いたぞ」


「え、そうなの? 私が今まで何度か付き添ってた時は、いつも一人だったけど⋯⋯それで、その時はどうしたの?」

 玲奈が首を傾げながら訊いてくる。

「叩きのめした」

「さすがね⋯⋯もしかして全地点を回ったとか?」

「ああ」


 玲奈はニヤリと悪巧みする様に笑って指示を出す。

「だったらこっちのものね。とにかく、出来る限りで早く黙らせましょう。頼んだわよ、ジン」

 玲奈は目を細め、ミラー越しに俺と目を合わせた。


 俺は頷いて、深く息を吐き、ブレーキを踏んでワゴンを止めた。今回はビルの下の客用駐車場だ。


 ドアを開けて外へ出て、何気なくビル壁に打ち付けられたプレートを見る。


『第2コージンビル』


 やはりと言うか、コージン=鉱神なのだろう。そして第2か。この為に建てたビルだとしたら、ニンに御役目をさせている組織は、なかなかの規模のものなのだろう。


 だが疑問がある。

 最終地点に居て、儀式を執り行う連中と、ニンに御役目をさせている組織は、違うのではないか?


 同じ組織なら、自分達でニンを護衛して送迎までしているはずだ。玲奈が儀式について知らなかった事を思えば、可能性は高いだろう。


 つまり、俺は謂わば下請けの下請けになる。何故そうまでして外部の者に頼るのか⋯⋯。


 これは後で玲奈に相談してみよう。今はとにかく潜入だ。


 足音を立てない。訓練ではない。養父が叩き込んだ制圧術の実践だ。見張りの男は外に出て煙草を吸っていた。背を向けている。


 俺は静かに距離を詰め、相手の膝の裏を蹴って頭を下げさせる。男は驚きの短い呻きとともに仰け反る。男の首に腕を巻きつけ、血の流れを塞ぎ、暫く待つ。


 男の体が緩くなった。動かないのを確認してから、壁際に座らせる。心臓はいつもより速いが、冷えていた。二度目だからなのかも知れないが、前回は怒りに身を任せて叩きのめしていた。申し訳無いことをしてしまった。


 鉄扉が開く事を確認する。前にも来たが、どこも中の構造は同じだ。表の車に戻って二人に声を掛ける。

「ここも一人だ。既に対処した。行こう」


 ニンが後ろで小さく頷く。彼女の目に怯えはない。白い手が膝の上で小さく動いた。


「仕事が早いわねえ」

 玲奈の称賛に俺は頷きで返し、扉の前に進む。


 中の空気は、さっき見た黒い染みの匂いと同じだ。鉄が焦げたような、むせ返るような不快な匂い。心なしか廊下の電球の光が鈍いように感じる。


 廊下を歩き、部屋の鉄扉を押し開けると、中心が薄暗く光っている。ここにも星の欠片が置かれている。


 俺は近付いて見る。形は違うようだが、前のと同じだ。数歩下がってニンに場所を譲る。


 玲奈は外で見張りについている。瘴気というのは見るだけで不快な気持ちになるらしい。俺も見るだけならば特に思うことはない。この違いはなんだろうか。


 ニンは静かに跪き、手を差し伸べる。触れた瞬間、部屋の空気が動いて、黒い染みが舞い上がる。彼女の手のひらを伝い、先程と同じように体内に入っていく。


 その瞬間、また俺の胸の奥に何かが刺さった。


 過ぎ去った日の辛い記憶が蘇る。公園に子供を迎えに来る母親たち。俺を「ミャンマー人」と呼んだ子供の母親たちだ。養父の待つアパートに、一人で歩いて帰る俺。


 忘れていた疎外感や、暗い感情が一気に噴き出して、叫びたくなるような歯がゆさと、幼い頃の悔しさが脳を満たす。


 同じ部屋にいる白い少女──ニンを見る。


 ニンは微動だにせず、淡々とした表情で、黒い瘴気を自分の中に取り込んでいく。だが、彼女の顔がほんの少し引きつり、直ぐに落ち着くのを俺は見た。


 こんなモノを取り込んでいるのだ。辛くないはずがない。ニンは辛くとも、自分の役目を果たしている。俺も運び屋としての仕事を真っ当しよう。頭を振って黒い感情を追い出す。もう克服した過去に捕らわれているのは時間の無駄でしかないのだ。


 ニンの瘴気の取り込みが終わったのを確認して、外に引き返す。先ほどの見張りはまだ倒れたまま。俺は彼を引き摺って鉄扉の中に体を隠し、ドアを閉めた。


「お疲れさま、すぐ次に行きましょう」

 玲奈が短く言った。無茶振りのように聞こえるが、実際に夜須波留の追跡を考えると、時間は無い。これも彼女なりの気遣いだろう。まだ短い付き合いだが、少し分かってきた。


 ビルから出ると、昼の陽が少し傾き始めていた。俺達は路肩に停車させていたワゴンへ戻る。エンジンをかけて、次のビルへ向かう。


 運転中も頭の中にさっきの感覚が少し残っている。黒い何かが俺の胸に燻っていたが、今回は抑え込むことが出来そうだ。


 三つ目、四つ目も同じように進んだ。各ビルの裏口から星の欠片を保管している部屋にかけて、必ず見張りが立っている。見張りを制圧するのに、前回のよううに過度な"当て身"は使わない。人を倒すのに、力任せに殴る必要は無いからだ。


 見張りが気絶したのを確認して、直ぐに離れる。玲奈とニンはその横で黙って待つ。


 鉄扉を開けると、ニンは淡々と欠片に触れ、黒く重い瘴気を自分に取り込んでいく。特に変化は見られない。鉱神の巫女とは、瘴気への適性のようなものを持っているのかも知れない。


 本当に躊躇なく取り込む。ニンを見ていると、何とも言えない気持ちになる。だがこの感情を表す言葉を自分は知らない。


 四つ目を終えてワゴンに戻ると、玲奈が小さく溜息をついた。

「あなた、本当にやるわね。何人か腕利きを知ってるけど、そこに並ぶレベルよ」


 俺は頷くだけに留まる。人を失神させて回っているだけで、称賛されるような行動はしていないから。


 運転席に座り直し、午後の光が長く伸びる道路へ向かってハンドルを切る。


 夕方に差し掛かるころ、最後の五つ目──終着点に近い『第5コージンビル』の横に停車する。


 ここの見張りは二人。上背のある筋骨隆々の若い男と、少しだけ背の低い細面の男だ。


 歩道の花壇に落ちていた小石を2つ拾い、手に握り込む。俺は息を整え、鉄扉を開けて廊下を進む。この2人の攻略は少し手間が掛かる。


 前回は二人を分断させたとは言え、俺は我を失い、怒りに任せて正面から叩きのめしたが、少なくない手傷を負うことになった。今回はもう少し頭を使おうと思う。


 角を曲がった先7m程の所に鉄扉があり、床に瘴気がはみ出しているはずだ。その少し手前、つまり俺のいる所から5m程の位置に2人がいる。


 俺は足音を立て、そこから小石を投げた。2人が警戒する空気を感じる。だが俺は一切動かない。


 待つ。必ず1人は様子を窺うはずだ。


 20秒程度が経ち、ようやく曲がり角から背の低い男が姿を現し、廊下を覗き見ている。


 だが、残念だがそこに俺は居ない。窓のサッシに手を掛けてぶら下がっているからだ。


 上から急襲する。首根っこを掴んで無人の廊下へ引きずり込み、後ろから両腕で絞め落とした。


 さて、ここからは一対一だ。曲がり角の先に姿を見せ、大きな若い男と対峙する。相棒がやられた事を察したのだろう。


 警戒するように前へと一歩出て──

 俺の肩と鉄扉に鳩尾を挟まれて、一発で気絶した。


 倒れ込むように高速で距離を詰め、相手の鳩尾に肩からぶちかました。自分より大きな相手を倒す時に不意打ちでやってみろ、と倉治に教えられた技だ。


 俺は立ち上がり、鉄扉を押して中に入る。室内の空気は、五つ目の星の欠片のせいで、重い。

 扉の方を見て、玲奈とニンに手招きする。


 ニンは躊躇いなく入るが、玲奈は扉の前で立ち止まる。玲奈は瘴気のある部屋にまでは入らない。何度か見ている俺の状態を見れば、当然の判断だ。


 ニンが星の欠片の前に立ち、俺は背後で見守る。


 触れた瞬間、部屋の黒い光が爆ぜてニンの体に吸い込まれていく。彼女の顔に一瞬だけ苦痛が走り、それから静けさが満ちる。


 俺は変わらず嫌な思い出に浸るが、心の負担は一つ目の欠片ほどでは無い。もう過去は過去だと割り切れている。俺はゆっくりと息を吐き出す。


 ニンがこちらを振り向き、小さく頷いた。


 ワゴンに戻る道すがら、俺は見張りの男たちの上着のポケットを探る。彼らが何処に所属している者か、分かるかも知れない。何か身分や所属を示す物が有ればと思った。


 財布の中は⋯⋯家族の写真。そして、病院の診察券や雑貨店のポイントカード、免許証や保険証も出て来た。保険証の発行元は『〇〇株式会社』。


 知らない企業だが、思っていたよりも普通だ。割と大きな組織のようだから、ダミー企業だろうか?


 そう思っていると後ろから玲奈が覗き込んできた。

「この会社名、ダミーじゃないわね。ちゃんと実在する企業よ。でもそうだとすると、彼らは外注じゃないのね。この星の欠片とかいうファンタジーな石を管理する団体と関係しているのかしら? 起こして聞いてみる?」

 玲奈は懐の拳銃を取り出す。脅しの道具として使うつもりだろうか⋯⋯尋問するつもりのようだ。


「そうだな。とりあえず小さい方にしよう」

「ええ。あ、縛ってからにしましょ」

 こういう物騒な話の時、玲奈は判断が早い。躊躇無く俺を射殺した女だけはある。玲奈は男のネクタイを外して手足を繋げて結んだ。


「おい、起きろ」

 俺は小さい男の頬を何度か容赦無く引っ叩いた。

「⋯⋯ぐ、ゴホッゴホッ! なん、だ⋯⋯?」

 小さい男は咳き込みながら目を覚ます。俺を見て、怪訝な顔をする。そう言えば後ろから締め上げたので、俺は顔を見せていなかったな。


 俺は鉄扉の前で倒れている仲間を指差す。

「見えるか? お前らは2人共、俺にやられた。これから尋問をする。正直に答えなければ──」

 男の後頭部に玲奈が銃口を突きつける。


「くっ⋯⋯何も話す気はない」

「苗字は北嶋、名前は宗平か。住所は──」

「──なっ!? お前!」

 玲奈が小男──北嶋の後ろから掲げる免許証を俺が読み上げると、途端に動揺する。


 俺と違って今後の事を考えている玲奈は、表立って行動するつもりはないため、俺が主導する事になる。


「⋯⋯銃口を突き付けておいて何だが、答えられそうな内容には質問に答えて欲しい」


「はっ! 銃を突き付けておいて言う事じゃない」

 北嶋が苛ついた表情で吐き捨てる様に言う。


「そこは暴れられないようにだ。俺は現状を知りたいだけで、あんたにもあんたの家族にも興味は無いし、危害も加えたくない。質問に答えてくれればいい」


 彼が普通の会社員なら、まともな返答が期待出来るかも知れないと思う。玲奈は俺の行動が気に入らないのか、鋭い目で俺を見て、眉根を寄せている。


「⋯⋯何が知りたい」

 意外にも効果があったようで、男は自ら質問を促してきた。遠慮なく質問しよう。


「助かる。まず聞きたいのは、ここに鉱神の巫女を派遣している組織と、この後に行く先で儀式をしている連中が、どういう関係なのかだ」


 男は眉根を寄せて答える。

「⋯⋯そんな事か。鉱神の巫女の系譜は耐えて久しいと、そう聞いている。過去の巫女の遺体を使って復元された巫女の1人が逃げ出し、そこで子供を産んだ。他の復元した巫女は、適性が低いとかで長く保たなかったらしい。そこで、そこに居る巫女の娘を回収して、御役目をさせてる」


 玲奈の眉間のシワが深くなる。今にも引き金を引きそうな空気を放っているので、俺が視線で止める。


 まさか思い付きで始めた尋問から、ここまで核心に迫った情報が得られるとは、俺も思わなかった。遺体から人間を復元──クローン技術というやつか。


 通信制の高校に通っておいて良かった。科学の授業で習った。だがヒトのクローン個体を意図的に作ることは、違法のはずだが⋯⋯まあ俺も裏稼業に片足を突っ込んでいる身だ。そんな事を言っても仕方ないか。


「回収⋯⋯つまり攫ったんだな」

 名前を捨てさせられたというのは、そういう事か。


「そうだ。元々は機関の所有物から派生した個体だからな。戸籍なんて無いし、機関に権利がある」


 オイやめろ北嶋、余計な事を言うと玲奈に殺されるぞ。俺は殺意に満ちた玲奈と目線を合わせ、首をゆっくりと振る。視線だけで殺されそうな程に睨みつけられる。⋯⋯後が怖い。


「御役目とは、星の欠片から瘴気を取り出して、祭壇へ運び、注ぐ事だな? あの儀式を行なっている連中はお前の仲間か?」


「そうだ。まあ厳密には違うんだが。俺の先祖が、星の欠片の見張りを担っていたから、俺もここにいるだけだ。誰が好き好んで、こんな気色の悪い物の管理をしたいかよ。だが俺にも、そこで寝てる奴にも家族がいる。あの連中に目をつけられたく無い」


「念の為に訊きたいんだが、巫女の遺体から復元というのはどういう意味だ?」


「だいたい分かるだろ。クローンって奴だ。禁止されてるらしいがな。奴等には関係無い」


 やはりか。

「複製された巫女に適性が無いと、何故分かったんだ?」

「ああ、一度の御役目で死んじまうらしい。だから使い捨てにしてたんだが、金がかかり過ぎるだろ? そこで都合良く、逃げ出した巫女の産んだ娘が見つかってな。御役目をさせてみたら適性があった。しかも五つ分を纏めて運べる程の適性だ」


「複製された巫女が逃げ出した。そのクローンが産んだのが、俺の運んでる巫女だと?」


「そう言ったろ。なんだ、御役目は終えてるのか」

 男は鉄扉の付近に視線を移動して、瘴気の染みが消えている事を確認した。


「お前、運び屋だろ? 爺さんって聞いてたが、代替わりしたのか? そこに寝てる俺の仲間も初仕事でな。⋯⋯待て、御役目の補助なら普通にやれば良かったろ。なんでこんな事をしてる?」


「あんたと同じで事情がある。瘴気の回収や儀式について、知る必要があるんだ」


「お前⋯⋯"先生"に知られたら、殺されるぞ」


 先生──確か依頼人の中古車ディーラーの社長が"先生"と呼ばれてるんだったか? 確か玲奈がそう言っていた。玲奈に視線をやると、彼女は頷いて、視線で質問を促してきた。玲奈は表情が無くなって恐ろしい顔になっていた。


「あんたの言う通り、俺の依頼人はその先生だ。巫女とどういう関係なんだ?」


 男は呆れた顔で俺を見てくる。

「本当に何も聞かされんのか。まぁ、俺達も先祖が関わってなきゃ知らなかったからな。⋯⋯先生はそこにいる巫女の父親だ」


 俺は今回の依頼人を思い出した。社長──冷たい目をした、スーツに眼鏡の男だ。最初に俺の額を撃ち抜いて殺した人物。


 あの男が、ニンの父親だと? ニンを見ると、驚いた顔をしていた。知らなかったらしい。


「逃げた巫女と子供を作ったということか?」

「そうだ。⋯⋯俺はそう聞いてる」


 そうだ、この男の話が本当かは、また別の方法で裏取りをしなければならない。鵜呑みにするのは危険だ。


 ──だが本当だとしたら⋯⋯つまりあの男は、俺に娘を託していたのか。


 "女のガキだ"──などと言っていたな。俺の養父の倉治も似たようなものだが、娘の父親というのはもっと心配する素振りを見せるものだと思っていた。


 いや、感情を押し殺していたのかも知れないか。もしかして俺が殺されたのは、娘の送迎に不満を漏らしたから、とか? だとしたらとんでもない過保護な父親ということになるが──。


 まあいい、正常な親子関係を知らない俺に正解は分からない。しかし玲奈の話を加味すれば、大学の教授から、中古車ディーラーの社長か。なんの為に?


 ──っ!?


 天啓のように閃いた考えを、北嶋にぶつけてみる。

「もしかして、巫女を復元したのも、先生か?」


 だが俺の閃きに、北嶋は驚いた様子も無く答える。

「ああ、そうだ。理由は知らんが、巫女を復元⋯⋯クローンだから複製か? まあとにかく機関と繋がりのあった先生は、禁忌を犯したのさ。で、巫女どもに瘴気を取り込ませたりと観察してるうちに、何があったか知らんが、役目を放り出して巫女を連れて逃げたらしい」


「そうか。⋯⋯ところで、随分と詳しいな」

 北嶋、雇われというには詳し過ぎないだろうか。


「こんな事は関係者なら誰でも知ってるさ。言ったろ、俺は先祖が団体の関係者だっただけの一般人、しかも外注だ。別に情報規制なんて無いんだからな」


 俺も外注だがお前のようにベラベラと話す気はないが。

「⋯⋯そういうものか。ところで、彼女を産んだクローンの巫女は今、どこにいるんだ?」


「死んだよ。クローンだけあって寿命は短かったらしい。今の巫女を産んだ時点で死んだんだとよ。だからその娘を巫女として回収したんだ。俺も回収の後詰めに待機させられてから知って──っ!?」


「つまり、お前も加担したんだな?」

 俺の怒りに気付いた、というよりは後ろの銃口が強く押し当てられたからだろうが、男は顔を青くした。


「お、おい待て! 俺は現場にいたがノータッチだ! 先生が抵抗してボコボコにされてたが、俺は触れてすらいねぇ!」


 抵抗したのか。なら、クローンの巫女に恋心というものを抱いていたのだろうか。あの男の雰囲気からは、とても信じられないが⋯⋯。


 なら、その娘であるニンの事はどうなんだ?

 ニンを見ると、青くなって呆然としている。そろそろ切り上げて、ここを離れよう。


「まあいい。もう一つ、先生は何故、中古車ディーラーなんてやってるんだ?」


 男はホッとした様子で、後ろの銃口を気にしながらも口を開いた。

「瘴気を集めて浄化したら貯めておけるらしい。そこから国外に運ぶ。国外に向けて船を手配出来る中古車ディーラーって立場は便利なんだろうよ。どんな話し合いがあったのかは知らねぇが、先生は娘の監視と、今の役を請け負ってるのさ」


 一応、理屈は合うか。わざわざ倉治や俺のような運び屋を雇っているのも、恐らく先生──社長が娘を連れて逃亡しないように手配されたのだろう。社長は本来の依頼人ではない、という事だ。


 恐らく、仲介人と言っていたが花生が依頼人で、社長の監視役の人間という事だ。

 裏社会の下っ端だと思っていたが、いや北嶋の言う機関というものが裏社会の存在なら、やはり裏社会の下っ端か?


 儀式を行っていた者達は機関の重要人物だろう。


「北嶋、聴きたい事はそれだけだ。悪いが拘束は解かない。そっちの男が目覚めるまで我慢してくれ。報告されても困るからな」


 小さい男は、ホッとした顔をする。

「ああ。それは構わんが、不殺でも誓ってるのか?」


 玲奈が銃を仕舞い、端の方で大人しく待っていたニンを連れて、出口へと向かう。


「気にするな。じゃあな」

 どうせ時間が戻れば北嶋何もは覚えていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ