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第30話:王はどこだ。

 マルレーネ妃がいたようなとみんなに伝えれば、何故彼女が玄関ホールにという意見で一致した。逃げるためだったのか、オットー王に知らせに行くためだったのか、わざわざ王族の人が玄関ホールにくることなんてほとんどないのに。

 なににせよ、宮廷二階の奥にある謁見場を先ずは目指そうとなり、私たちは階段を昇って奥へと続く廊下へと進んだ。第二部隊隊長たちが玄関ホールに現れてから、追加の部隊が投入されない。


 「静かだな」


 「だね」


 誰もいない廊下を走っているとフリードとイロスが声を上げた。


 「本当に」


 「なにが起こっているのでしょう」


 二人に続いていた私とヒルデも前と後ろを気にしながら声を出す。


 「纏めて攻めてくれる方が楽だがな」


 「そうですね。ちまちま魔法を使うより、一度で終わらせたいものです」


 最後尾にいる皇太子殿下と総督は静かな雰囲気に気圧されておらず、余裕の表情でとんでもないことを言っている。本当に豪快な方たちだと片眉を上げながら笑っていれば、何事もなく謁見場の扉の前に辿り着く。扉の前に配置されているはずの近衛騎士の人がおらず、異様な空気を醸し出していた。中に入ろうとお互いに頷き合い、フリードが扉をゆっくりと押す。私はなにかあってはいけないと魔力を練り、即応できるようにしておいた。

 

 片方の扉だけが開かれ、中の様子が見えてきた。


 どうやら玄関ホールから謁見場まで人気がなかったのは、廷臣や貴族を守るために近衛騎士がこの場を固めるためだったようだ。謁見場内には多くの人が集まり、玉座にはオットー王が腰を降ろしていた。フリードとイロスは臆することなく前へと進んでいく。誰か襲ってくる人がいるかもしれないと私も彼らのあとに続けば、ヒルデと皇太子殿下と総督も歩き始めた。


 「なぜ、裏切り者の第二王子アイロスが……」


 「反逆者もいるぞ!?」


 イロスと私の存在は謁見場に集まった人たちにとって、受け入れがたい存在のようだ。凄く厳しい視線を向けながら、何故戻ってきたと言いたげである。彼らの目はイロスと私から、皇太子殿下と総督へと移って行った。


 皇太子殿下と総督の見目はアルデヴァーンの人にとって目を引くものらしい。誰だ、と言う声が上がってすぐ、ノクシア帝国の皇太子殿下だと気付く人がいる。

 その声に『まさか』『何故』『どうしているんだ?』『帝国は革新派の味方となるのか?』と声が入り乱れ始めるものの、オットー王が片手を挙げて『静まれ』と声を上げれば声は収まる。ただ困惑している雰囲気は残ったままだ。

 

 カツンと床に靴底をぶつけたイロスが玉座の前に立ち、半歩下がった位置でフリードが控えている。私とヒルデはイロスから三歩ほどの距離を取り、少し後ろに皇太子殿下と総督が足を止める。オットー王が座す玉座の周りにはたくさんの近衛騎士が厳しい顔を浮かべてこちらを見ていた。


 「お久しぶりです、兄上」


 イロスの声にオットー王が忌々し気に見下ろせば声を絞り出す。


 「何故、負け犬が俺の前に現れた?」


 「兄上を玉座から引きずり下ろすためです。血統派と革新派の溝が深まるばかりでは、アルデヴァーン王国は内戦に発展しかねない。父、前陛下はそれを望んでいなかった」


 凄く不機嫌な顔のオットー王にイロスが淡々と語る。その声に血統派が負けるわけはないという声が上がるものの、果たしてそうなのだろうか。血統派の人たちの多くは先の戦で作戦会議を王都で行うと理由を付け、前線へ出てくることはなかった。

 そして自分たちが前線へ赴く代わりに領民を供出していたのだ。もし彼らも前に出ていれば、自領地の兵の士気が上がり戦死者の数は減っていたかもしれない。私は『もし』に拘るつもりはないが、そういう未来だってあったかもしれないと考えてしまう。


 イロスが声に出した『陛下』の声に私は床を見つめた。


 陛下が生きていれば今頃、アルデヴァーン王国はどうなっていたのだろう。多分、陛下は血統派と革新派の天秤を保ちながら、微妙な駆け引きに苦心なさるはずだ。

 オットー王はその状況を良しとておらず、陛下の死を喜んで受け入れていた。次代の王は自分だと笑いながら。元々、好意はなく、政略のために結ばれたものだったけれど、オットー・アルデヴァーンという人から私の心が離れた決定打だった。

 だから婚約破棄を受けてもなんとも思わず、勢いに任せてキレて目の前の男を殴ることができたのだろう。そのお陰なのか、フリードと再会し、イロスとヒルデと出会い、侯爵閣下、そしてノクシアの総督と皇太子殿下と縁を持つことができた。

 

 「そうだな。父上は望んでいなかったが俺は望んでいるぞ! ようやく革新派の間抜けどもを討つ理由ができたのだからな! 侯爵領へと向かわせた我が王国軍がヤツの首を持ち帰る!!」


 オットー王が機嫌良く笑ってるけれど、皇太子殿下と総督の存在に気付いてください。二人が凄く愉快なものを見るような視線を送っているのに、本人は全く気付く様子はない。その前にフリードがイロスの横に並び立つ。


 「実践経験の少ない王国軍に、侯爵領の騎士団が負けるとは思えないな」


 あの人が指揮を執るなら負けることはないと、フリードが言い切った。あの人というのは侯爵閣下のことだろう。イロスも隣で頷いているから、勝利を確信しているようだ。それよりオットー王は王国軍に帰還命令を出していないようだ。宮廷の門を破り中へと私たちが入ってきた時点で不味い展開のはずだが、たった八人で宮廷を落とせるわけがないと高を括っているようである。

   

 「どの口が……! 近衛騎士たちよ、剣を抜け! 反逆者を捕えよ!」


 凄く言い顔をしたオットー王が右手を翳しながら言い放つ。そこかしこから鞘から剣を抜く音が聞こえ、敵意が一斉に私たちへと向く。私は練っておいた魔力を流して魔法を発動させる。


 「――|Korperstarkung《身体強化》」


 発動させた魔法を総督以外の人たちに施した。するとフリードが剣を投げ捨てて、迫ってきた近衛騎士を殴り始める。ヒルデは鞘で近衛騎士を殴ったあと、過剰だと判断したようで彼女まで剣を投げ捨て無手で対応し始めた。

 イロスも鞘を吐いたまま細身の長剣で刺突すれば、向かってきた近衛騎士を吹っ飛ばして気絶させた。皇太子殿下は三人を見たあと面白そうな笑みを浮かべ、長剣を鞘に仕舞い構えを取る。そして斬り掛かってきた近衛騎士の顔面に正拳がめり込んだ。鼻頭が折れる音が聞こえて、その音で残っている近衛騎士が怯み現場が膠着する。


 「聖女殿、私には?」


 静かになった場に声を響かせたのは総督だった。


 「総督は魔法使いですから。必要ないでしょう」


 「むー……」


 私の言葉に子供のように頬を膨らませているのだが、総督は誰かを殴りたかったのだろうか。鍛えていなければ、手を痛めるだけなのでおススメはしない。無理矢理、身体強化の魔法であの人を殴り飛ばして暫くの間、手が痛くて仕方なかったのだから。場違いな声のお陰で少し場の空気が緩むと、皇太子殿下まで声を上げる。


 「なんだ。気概のない連中だな。骨の在る奴はいないのか?」


 思いっきり相手を煽っていませんかという声をどうにか抑え込む。すると近衛騎士の中から一人の人が前に出てくる。落ち着き払った様子で、どこかで見たことがあるようなと私は首を傾げた。

 あ。私を差し出せと侯爵領にきていた近衛騎士の隊長だと思い出した。しかし以前より格好が地味になっているので、任務失敗により降格させられたようである。


 「では、私が。どなたかに私との決闘を申し込む!」

 

 彼の声に皇太子殿下の顔がつまらないものから、楽しいことを見つけたと言わんばかりのものへと変わっていく。えーっと。確か決闘は貴族の人であれば名誉を駆けた社会的儀式となる。

 腹を決めて申し出たならば、こちらも受けなければ卑怯者となるだろう。とはいえ、意味のない決闘を行っても血が流れ、最悪、命を失うためおススメはされていない。それなのに謁見場にいる、廷臣や貴族の人たちと近衛騎士は名誉なことだと何故か沸き立ち、オットー王は『勝てば元の役職に戻してやる』と口にしていた。


 決闘を受けた私たちは困惑しつつも、受けるしかないという空気が流れるのだった。





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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 どう考えても王位に相応しくなさそうな人物の方が「我こそが王たるに相応しい」と踏ん反り返るのはよくある事ではありますが、状況を見る事の出来ない者が王位に就いてもねぇ。 周りの腰巾着…
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