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第15話:総督府。

 事故の一件から教会所属の治療士たちから信を得られたようで、私は彼らから病気に対する魔法を教えて貰っている。怪我とは違い、患者さんからの症状の聞き取りが大事なこととなり、魔法は次に大事なものになるそうだ。

 怪我であれば私が判断していくつかの魔法の中から選び怪我に術を施すのだが少々勝手が違う。違うけれど、これはこれで遣り甲斐があることだろう。


 患者さんとの雑談が楽しいこともあれば、なかなか欲しい言葉が引き出せず難儀したりとか。天幕の中で実地訓練なのはご愛敬なのだろう。崩落事故を見ていた人たちが私のことを知りたいと天幕に押し寄せて、ひと騒動が起こったり。なんだかんだと教会で日々を過ごしていれば、約束の時がやってきていた。


 着替えを終えてヒルデと一緒に部屋の外へ出れば、既に着替えたフリードとイロスが待ってくれていた。私の姿を見た途端にフリードが甘い顔をして私に近づいてくる。イロスもにっこりと笑って、フリードの後ろを歩いていた。


 「うん。似合ってるよ、サラ。宮と屋敷の衣装や旅装以外にこうして着飾ったサラを見れたことが嬉しい」


 「ありがとう、フリード。少し着慣れなくて。私に変なことがあれば教えて。総督に失礼があるといけないから」


 ふふと目を細めながら笑うフリードに私は照れてしまう。いつも彼は私を褒めてくれるから、なんだか勘違いをしてしまいそうだ。世の中、綺麗な人はごまんといるのに。今日、面会予定の総督は貴族家の人だそうである。王宮で礼儀作法は学んでいたけれど二年という短い時間だけだ。根っからの貴族の人とは違って私はボロが出やすい。

 

 「大丈夫だよ。サラの所作に問題はない」


 「堂々としていれば良いよ」


 「では、行きましょう」


 フリードとイロスとヒルデが声にあげれば、丁度迎えの馬車がきたと教会の人が教えてくれた。御者の人を待たせては悪いと私は急ごうと言って、教会の裏手を突っ切る。


 表に出て少し歩き、教会の入り口の扉にある階段下へと辿り着く。そこには豪華な馬車が二台停まっており、御者の人が暇そうに煙草を吹かしていた。私たちの姿を見た御者の人は驚きながら煙草の火を消して、馬車の扉を開いてくれた。

 別の馬車には迎えの人が乗っていたようで私たちを認めて深く礼を執る。そうして御者の人が開けてくれた馬車に乗り込んで、総督府を目指すことになった。その場所は魔法学院や図書館と同じ場所にあるという。


 ノクシア帝国の偉い人に会うのは始めてだから、私は緊張に包まれる。


 失礼な態度で挑めば首を跳ねられることもあるだろうし、機嫌を損ねれば街にいられられない。やはり会う約束をしなければ良かったのかと考えるものの、お偉いさんからの招待を断るのも不味い。

 本当にどんな人だろうと馬車の中で悩んでいれば、いつの間にか総督府に辿り着いていたのだった。大きな門を潜り抜け、馬車回りへと辿り着く。フリードがエスコートを担ってくれて、私は馬車のステップを降りて地面に足を着き建物を見上げた。


 「大きい」


 陽の光に目を細めながら総督府の建屋を見上げるのだが、山の上に立っていることが信じられないくらいに広い場所だ。白亜の巨大な建物はアルデヴァーン王国の王宮と見劣りしない。流石帝国の大都市と感心して視線を正面に向ければ、フリードとイロスも提督府を見上げていた。


 「確かに。あと魔法具がいたるところに使われているかな」


 「魔法具が設置されているのは分かるけれど、用途がさっぱり分からないね」


 フリードが感心しながら、イロスが不思議そうにしながら周囲に視線を向けている。ヒルデも周りを見渡して注意深く観察していた。おそらく、なにかあった時に逃走経路を確保するためだろう。フリードも口を開きつつ周囲に目を配っていた。私たちが総督府の規模に驚いていると、使者の人が私たちの前に立つ。


 「では、皆さま。総督がお待ちしております。中へどうぞ」


 「はい。よろしくお願いします」


 恭しく玄関の方へと手を出した使者の人に導かれて私たちは総督府の中へと進む。玄関ホールは大きなシャンデリアが天井から下がり、床は質の良い大理石を使っていた。イロスの受け売りなので、私に価値はさっぱり分からない。

 高級な床を靴についた土で汚してしまいそうだとびくびくしながら、使者の人の後ろを歩いて行く。すれ違う人たちは私たちを見るなり、廊下の端に寄って礼を執っている。私たちが客であると周知しているようで、横柄な態度を執る人はいなかった。


 「こちらでお待ちいただけますか。総督を呼んで参ります」


 来賓室に案内されたあと席に腰を下ろせば、使者の人が恭しく礼を執り部屋を出て行った。ちなみにフリードとイロスとヒルデは私の後ろに立っている。

 フリードとイロスは護衛として、イロスは私の助言役と称して提督府に入ったため、椅子に腰を下ろせば不自然だろうと言って立ったままなのだ。

 私は落ち着かない気持ちを抑えつつ件の人がくるのを待っていれば、部屋の扉の前の床の上に魔方陣が浮かび上がり、真っ黒な光の外側を真っ白な光で照らされながら丸い魔方陣が完成した。


 なにが起こっているのか、現れた魔法陣にどんな効果が分からず私は席から立ち上がる。フリードとヒルデも覇気を纏い、なにが起こっても即応できるように体制を整えていた。魔法陣の上に人の姿が浮かび上がり、どんどん形がはっきりとしてきた。転移魔法で誰がきたと警戒しながら私が魔力を練ったと同時に、転移が完了したようである。

 銀糸の長い髪を三つ編みで結っている男の人が目の前に現れた。纏う衣装も質の良いもの――多分――派手さは抑えてある。現れた人の指のすべてには魔法具の指輪を嵌めてある。


 「初めまして。私はミハイル・フォン・シュヴァルツ……ってあれ、どうしてそんなに警戒しているの?」


 真冬の湖のような青い色をした目を持つ人だった。小さく笑みを浮かべたその人は私たちが席を立ち、なにが起こるのかと警戒していたことが意外だったようである。


 「えーと、もしかして君たちは私が転移の使い手だって知らない?」


 現れた男の人が困ったなあと言いたげな顔をすれば外の廊下が騒がしくなり、『失礼します!』と廊下側から使者の人の大きな声が部屋に響く。ガチャリと開いたドアの前には使者の人が慌てた顔をしていた。


 「総督! いきなり転移をしたかと思えば、お客人の前に向かったのですね!」


 使者の人は現れた男の人を認めるなり眉間に皺を寄せる。


 「だって、歩くの面倒だよ。提督府内は攻撃魔法以外ならなにを使っても問題にならないでしょ」


 「ええ、知っています。知っていますとも! しかしながらお客人は貴方の破天荒さを知らぬのです! いきなり総督が目の前に現れれば驚かれます!」


 眉尻を下げた現れた男の人、もとい総督が眉尻を下げながら使者の人に抗議をしているが効果は薄い。どうやら使者の人を困らせているのは日常的なのか、やり取りに慣れがある気がする。

 

 「彼らは驚いているより、誰って聞きたそうだけれどね」


 ふふと総督が笑みを深める。そういえばフリードとヒルデは警戒態勢を取っていたけれど、イロスには余裕があった。もしかして総督のことを調べて情報を掴んでいたから、彼は落ち着いていられたのだろうか。

 黙っているより、私たちに教えてくれても良いじゃないかと子供のように不貞腐れたくなるけれど、イロスが掴んだものだから無理強いはできないか。そもそも総督について私は調べていなかったのだから。

 教会の人たちからは『総督は街の治安を守り、経済を安定させ、設備の修繕補修に努める良い方だ』と聞いていた。話を聞いて真面目で堅物なイメージとは離れおり、歳若く軽い調子で現れたことが驚いた。


 「話をそらさないでください! もう!」


 はあと大きく溜息を吐いた使者の人がくるりと身体を翻して、私たちの方へと向き直る。


 「申し訳ありません、皆さま。総督は常識というものを少々置き去りにしておられます。驚かせたことは私が心より謝罪致しますので、どうかお許しを」


 酷い言われようだけれど、総督は使者の人を責めない。信頼の上で成り立っているようだと感心しながら私も礼を執る。


 「お気になさらず」


 偉い人に頭を下げられたならば、こう返すしかない。フリードとヒルデは警戒を解き、イロスは面白い人を見つけたと言わんばかりの顔になっている。私たちの様子を眺めていた総督がふふふと笑い一人掛けの椅子の側に立ち、私が腰を降ろしていた椅子を指す。


 「さて。腰を降ろして話をしよう。といっても難しいことではないから、気楽にしていて構わないよ」


 総督の声に『本当に貴方という人は……』と使者の人が肩を落としながら零す。一人掛けの椅子に腰を降ろした総督を確認して、私も指示された椅子へ再度腰を降ろした。一体、どんな話が目の前の彼から出てくるのだろうと、背をぴしりと伸ばして。

おもしろければ、お気に入り登録、評価よろしくお願い致します! 感想も頂けると嬉しいですー!┏○))ペコ

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