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お言葉ですが今さらです  作者: MIRICO


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21 領地

「アンリエット様! ご無事で!」

「みなさん、元気だったかしら」

「お会いしたかったです!」

 集まってきた平民の魔法使いたち。久しぶりの顔を見て、アンリエットは皆と握手をして再会を喜んだ。


 アンリエットの元に届いた手紙は、スファルツ王国の平民の魔法使いからのもので、直近の問題が書かれていた。

 手紙には、スファルツ王国で平民の魔法使いが行方不明になった。そのため、アンリエットと会いたいというもので、国境で落ち合えないかと記されていた。その他いくつかのことも書かれており、アンリエットはそれの調査のために、ヴィクトルに暇を申し出た。兄のシメオンを連れていくため許しを得たい。


 その願いに、ヴィクトルは二つ返事をしてくれた。反対されても一人で行く気だったが、あっさりと承諾されて、アンリエットも気が抜けた。

 しかしヴィクトルは、自らも同行すると言ってきた。

 言い訳が、魔物の増加の調査のついで。である。

 そうして、アンリエットとヴィクトル、シメオンも一緒に、クライエン王国国境の領地にやってきたのである。


「ところで、そちらの方はもしかして」

 一人の魔法使いがヴィクトルを視線に入れた。フードを被っているのはヴィクトルだけで、逆に目立っただろうか。

「こちらは、クライエン王国の王太子殿下よ。後ろは、私の兄のシメオン」

「お、王太子殿下!? アンリエット様のお兄様! し、失礼しました!」


 魔法使いたちが一同に頭を下げる。国を追い出されたアンリエットが、他国の王子と一緒に来るとは思わなかったのだろう。アンリエットも思わなかった。ヴィクトルは畏まらなくてよいと言って、魔法使いたちに顔を上げさせた。


「どうして王子といるんだ。あの噂は本当なのか」

 後ろの方で、ぽそぽそと話が聞こえる。

「噂? 噂ってなんのことかしら?」

「アンリエット様、本当に王子様と婚約されるんですか!?」

「え!? まあ、どうしてそんな話に」


 本当に、どうしてそんな話が出るのか。アンリエットが目を丸くする横で、シメオンが、あり得ない! と叫び、魔法使いたちを怯えさせた。ヴィクトルの目の前でそんなことを言うシメオンに、ヴィクトルがシメオンを睨め付けた。


「お兄様、大声を出さないでくださいな」

「アンリエット。けれど、噂ははっきりと否定しないと」

「そうしたいところだが、ガードが硬くてな」

「殿下!?」


 青筋を立てたのはシメオンだ。ヴィクトルの宣言にアンリエットも顔が熱くなってくる。魔法使いたちはやはりそうなのだと言わんばかりに、お互い顔を見合わせた。


「あ、あの、アンリエット様、魔物が多くなっているので、共同で討伐を行うのでしょうか」

「共同の討伐の話は出ていないが、そうなる可能性もあるな」

 ヴィクトルが答える。


 十年に一度の魔物の増加があれば、エダンはパルシネン家領地に来るかもしれない。どれほどの規模で現れているのか、もしも討伐となればどのような戦いにするのか、エダンは領主や騎士、魔法使いたちの意見を聞くだろう。この土地を知っている者たちから情報を直接得て、判断をするのだ。


 それは、エダンがスファルツ王国で行うこと。他国の人間であるアンリエットに関わりはない。

 アンリエットはぎゅっと拳を握り、すぐにそれを緩めた。


「それより、現状を教えてくれるかしら。手紙の内容では、メッツァラ家領地にいる魔法使いたちが、会合に来なかったと」

 魔法使いたちは頷く。

 隣地にいる平民の魔法使いたちは、情報を得るために時折会合を行う。その約束をしていたが、メッツァラ家領地の魔法使いたちが現れない。心配になり、メッツァラ家領地に入ろうとすれば、平民の魔法使いたちが入ることを禁止したと言われた。

 そして、メッツァラ家当主から、平民の魔法使いたちの登録を抹消したことを聞かされた。


「メッツァラ家当主は、前から平民の魔法使いを嫌っていたものね」

「アンリエット様がいなくなり、現在は王女が執務をするようになったそうです。その影響かもしれません。王女は執務に不慣れで、城は混乱しているとか」

「エダンからは何も?」

 魔法使いたちは首を振る。王の命令には逆らえないのではと言いながら。


 エダンでは王の命令に逆らえない。それは間違いない。王の命令に逆らえる者など、スファルツ王国には誰もいないのだから。だが、エダンであれば、気付かれないように動くくらいはするはずだ。平民の魔法使いたちは情報を得るためにも使える。エダンは特に、魔物だけでなくその土地土地の状況などの情報も彼らから得ていた。


「ただ、俺たちには表立って動くなという知らせがありました。文章ではなく、伝え聞いただけなのですが」

 やはりそうだろう。エダンは王に秘密裏にしながら、何かしら動いている。

「その、おそらくですが、ベルリオーズ様は王女を信用していないのではないかと」

「どういうこと?」

「出自がはっきりしていないそうです。マルスラン王太子殿下のブローチを確認したのはパルシネン様だったので、それは間違いないそうなのですが」


 魔法使いたちの情報では、メッツァラ家領地に住む平民の魔法使いたちが、捜索の命令を受けたという。

 王女の出自を確認しろという命令だ。


「王女が幼い頃、死んでいた男の側にいたところを老婆に助けられた。その男がマルスラン王太子殿下らしいのですが、埋められた場所がわからないそうなのです。それで、死体を見つけろという指示があったようで。これもおそらく、ベルリオーズ様の指示かと」

「伯父様を埋葬するためではなくて?」

「そういう感じではありませんでした。むしろマルスラン王太子殿下と別人であることを確認するために探させているような」


 その命令を受け、魔法使いたちは捜索を行なっていた。

「では、そのせいで魔法使いたちが行方不明になったのではないのか?」

 そうであれば、彼らは何かを見つけ、口止めついでに殺されたかもしれない。


 魔法使いたちはシンと静まり返った。その可能性を考えてはいたのだろう。指摘されて、やはりそうかもしれないと肩を下ろす。


「王女を城へ送ったのはメッツァラ家の当主なのです。ブローチを確認したのはパルシネン様でしたが」

「けれど、そのブローチは間違いなく伯父様のものだったのでしょう?」

 ブローチは伯父のものだ。王女の出自が偽りであれば、どこでそのブローチを手に入れたというのだろう。

 伯父を殺したのが、メッツァラの可能性があるということだろうか。


「もし、メッツァラが王女を偽らせて城へ送ったとして、どうしてなぜそんなに遅く偽物を送ったのかしら? ブローチを見つけたのが、最近だったということかしら。少し不自然な気がするわ。メッツァラ当主が、昔伯父様に領地へ追いやられたことは知っているけれど、伯父様がいなくなってから十年も待ったことになってしまう。それに、伯父様が行方不明になったのは確かで、そうであれば、メッツァラが伯父様を殺したことになるでしょう」

「まさか、本当にメッツァラ家がマルスラン王太子殿下を?」

「そこまでの男には思えないけれど」


 アンリエットはヤーコブ・メッツァラにはほとんど会ったことはないが、それでもマルスランを殺せるほどの度胸があるとは思えなかった。いつもおどおどとして、子供だったアンリエットの前ですら、腰の引けた態度だったのを思い出す。

 伯父のマルスランがいなくなり、城に戻ることができたが、会った時の印象は、小物、だ。

 暗殺のために誰かをマルスランに向けさせるだけの気概があるとは思えない。


「当時の討伐の計画の詳細は確認したけれど、伯父様を殺せるほどの兵士は集められないわ。すぐに伯父様の仲間に見つかってしまうでしょう。伯父様を暗殺するにも、毒で殺すなりしたところで、遺体を隠す時間はない。暗殺自体が無理であると結論付けられた事件だわ。魔物に殺されて、寝ぐらに連れて行かれて食べられた、というのが納得のいく話だけれど、それすらも伯父様には難しいと言われたぐらいなのよ?」

「王太子マルスランは、我が国でも有名だったからな。魔物に殺されるのは無理があると、こちらでも言われていたくらいだ。魔物に殺されたとしたら、他の兵士たちも全滅していただろう。だが、そんなことはなかったのだし」


 ヴィクトルも噂話だが、それほどの人であったと父王が言っていたと説明する。

 それほどの力を持つマルスランが、一瞬でいなくなった。神隠しではないかと噂されたくらいだ。


「伯父上が自分で行方をくらませないかぎり、起き得ない事件だと聞いている。ブローチはどこかで落としたというのが、有力なところかな」

 シメオンも付け足す。ならば、伯父が落としたブローチをたまたま手に取ったということだろうか。


「では、もしかしたら、その遺体がマルスラン王太子炎かではないという手がかりでも見つけて、仲間は」

「エダンが指示をしたのならば、魔法使いたちの行方がわからなくなったことに気付き次第、調査をするでしょう。あなた方はパルシネン当主に手紙を書いてもらいなさい。エダンなら読みますから」

「あ。」

 魔法使いの一人が、突然声を上げて、気まずそうな顔をした。


「なにか思い出したことでもあるかしら?」

「いえ、その、パルシネン様が、魔物討伐の確認のために、屋敷にベルリオーズ様が来る予定があると、おっしゃっていたのを思い出し」

「いつだ?」


 ヴィクトルがすぐに問うと、男は言いづらそうに、明日です。と小声で口にした。




話題が被っていた箇所があったので修正しております

申し訳ありません

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